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叩く音

作者: 京享

 あ、チャイムが鳴った。面倒だからまた居留守しよう。

 どうせいつも居留守を使うから、家のチャイムは役目を果たさない。この間だって、レンタルビデオを返すためにドアを開けたら、マンションの回覧板が三つくらい重なっていたし。自分から用がある時以外はドアを開けない。

 また鳴った。

 そう、大体みんな二回か三回かは鳴らす。そして、出てこなければいなくなる。新聞の勧誘であれば、しぶとく出てくるのを数分待つ輩もいるが、稀だ。

 また鳴った。これで三回目か。もう帰るだろう。

 その後数秒間をおいて、また鳴った。

 ん? 新聞の勧誘か? こんな季節に?

 窓の外を見ると、雪がこんこんと降っている。今日は全国でも一番降っているらしい。テレビのニュース番組では、「東京の異常気象」というコーナーを作って騒いでいた。別にそれほど騒がなくても冬なんだし。雪も降るだろう。

 そんな天気の中、わざわざ新聞の勧誘にきたのか。ご苦労なこった。でも、いくら鳴らしても、俺はそうやすやすとドアは開けないよ。

 ――――鳴った。

 四回目か。新聞の勧誘決定。と、独り言を無意識に口走っていた。恥ずかしい。

 六帖一間のワンルームマンションの一階角部屋に一人暮らし。

 男の一人暮らしにはロマンがあるらしい。大学で唯一の友人がいつも挨拶代わりに言ってくる。

 ロマン? そんなものねえよ。ただ淋しいだけだ。料理を作っても、食べるのは自分。当たり前だが、これが淋しい。そして、きれい好きならいいが、俺は典型的なタイプで、汚くても正直気にしないタイプ。だから、部屋は常に足の踏み場もない。で、話を戻して、一人暮らしだ。淋しいよ。

 ――――バン!

 一人汚い部屋で物思いにふけっていると、今度はドアを叩く音がした。それも結構強くたたいている。一度だけではない、続けて二度三度いや何度も。

 くそー。しぶと過ぎるなあ。新聞の勧誘でもやり方ってのがあるだろう。これは、脅しだよ。よく、ドラマなどで、借金取りが金を返しに来るときにドアをけったり叩いたり大声出したりするあれ。声までは今は出していないが。

 声は出していないが、さっきよりもまして叩き方が強くなっているようだ。段々怖くなってきた。どうするか、警察に通報するか。それとも、ここは折れて返事をしてみるか。

 警察に通報するのはいいが、俺にも非があるように言われそうだ。しかし、この叩きようは近所のご迷惑にもなる。これは、警察を読んでから返事をした方がよさそうだ。よし、通報決定。――いかん、また独り言を口走っていた。

「……あれ?」

 携帯電話を耳元に当てるが、音がしない。ああ、そうか。携帯じゃあかけられないのか? そんなわけないよなあ。

「って、あれ?」

 携帯の電波がなく、圏外となっているではないか。おかしい。自分の家で圏外になったことなど一度もない。なのに、なぜ今この状況で圏外なんだよ。おかしいだろ。

 いつの間にか部屋で地団太を踏んでいる自分がいた。

 電波障害か? テレビ。そうだ、テレビだ。

「ザーザーザー」

 砂あらし。どこのチャンネルに変えても砂あらし。

 どうしてなんだ。おかしすぎるだろう。

 そうこうしている間にもどんどんドアを叩く音が強くなっていく。

 パ、パソコンはどうなんだ? まさか、パソコンまで使えないってことはないだろう。

 電源ボタンを押す。……押す。もう一回。何度も何度も。

「どうして、点かない!」

 叫んでいた。恥ずかしいなんて関係ない。どうしてだか、恐怖心をいただいていた。

 いつものただのセールスだろ。そして、今日はただこのセールスマンもしぶと過ぎるだけだろ。そう、いつの間にか独り言だがそうやって自分に言い聞かせていた。

「でもよ、でもよ。なんで携帯、テレビ、パソコンが使えないんだよ」

 大声で叫んでいた。

「どうしてなんだよ!!」

 その間もずっとドアを叩く音は続いている。



 ――――バン! バンバン!

 まて、待て。落ち着け俺。何でドアを叩かれたくらいでビビってんだよ。何年間も部屋に引きこもってる引きこもりじゃあるまいし。落ち着け。とりあえず、返事をしてみよう。

 バンバン聞こえる玄関に来るのには、時間はかからない。一応リビング兼寝室から三歩で行ける。

「ど、どちらさんですか?」

 ――――バン! バン!

「どちらさんですか!!」

 一度目は、聞こえなかったと思い、もう一度今度は大きく声を出した。

 ――――バン! 

 ――ドアを叩く音がやんだ。

 帰ったのか? 外を覗きこむ。誰もいない。

 迷惑な野郎だ。ただの嫌がらせだったようだ。でも、何で――。

 ――――バンバンバンバン!!

 安心して椅子に座ろうとしたその時、先ほどよりも大きな音が玄関から鳴り響いた。

「うるせえ! なんだよ、マジで!」

 もう、キレたぞ。ドア開けて、殴ってやる。

 一、二、三、四歩で玄関に行き、ガキを開け、ドアを勢いよく開けた。

「ううおい! いい加減にしろよ! 迷惑なんよ! 警察呼ぶぞ!」

 ――あれ?

 勢いよくドアを開け、怒鳴り声を上げた。だが、そこには誰もいなかった。ドアを開ける瞬間に、結構強めの風が吹いて、目の前が一瞬見えなかったがそれはいいとして。なぜいない。今までバンバン叩いていたじゃないか。そうか。やっぱり嫌がらせか。

 くそ。悔しいが、逃げられては仕方がない。追うのは面倒だから、次来たときでいいや。ドアを閉め、五歩でリビング兼寝室に戻り、椅子に座った――――――――。






「――――う……」

 あれ? なんで目をつぶっていたんだ?

「おい! 大丈夫か?」

「意識があるぞ!」

「早く運びだせ!!」

 なんだ? 目をパッと開けられない。

「ここは……」

 やっと口にできた言葉も、目の前にいるだれか分からない人にかき消された。

 だが、頭で理解できることはあった。

 ここは、俺の部屋。あの六帖一間の汚い部屋。焦げくさく、そして室内は鮮やかなオレンジ色―――――。








    了





久々に書いた小説です。

なんとなく納得はいきませんが、感想をいただきたいと思い投稿しました。感想、あるいは評価どちらでも構いません。読んでいただけましたら、よろしく願います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 部屋の様子、数歩で行ける玄関。いかにも男の部屋といったリアリティを感じます。うっかり私の古い友人の部屋を思い出しました。 [一言] 最後まで読んで「ああ、現実はこうだったのか」と、ようや…
[一言] こんにちは。読ませていただきました。 なるほどそう言う落ちですか。ちょっと説明不足な感じはしますがよくまとまっていて読みやすかったです。 ただ、叩く音が何か。最後分かってしまえば「ああ、そ…
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