学校へ通うことになりました
賑やかなギルド【メリュー】に、困惑した声が響く。その声の主は、自らの水色の髪をつまんで、嘆息してから話始めた。
「何で今さら学校に通うなんてことになったんだよ!?というか、マスターが俺に行かなくていい、寧ろいくのを断固として拒否するとか言ってたじゃんか!」
「そ、そのときはあれだ、寂しかったからだよ!いや、そんなことはどうだっていい!お前には学校に行ってもらう!」
さらりとした触り心地の良さそうな金の髪を揺らしながら、マスターと呼ばれた美形の男が、目の前の気の弱そうな青年に指を突きつけて叫ぶ。青年は青い瞳を瞼の裏に隠し、再び嘆息した。
「マスターはうっかりしててぽんこつで人の話を聞かない頑固な人だよね。」
「どうした、何故突然罵りだした!?」
「別になんでもない。はあああ…わかった。いくよ、いけばいいんだろ!」
「ついでに友達もつくったらどうだ?」
「マスターその話は禁句だっていったよな。」
「すまん。」
じろりと淡い、しかし強い青色の瞳に睨み付けられ、男はにやけ面を一瞬でひきつらせた。
「因みにいつから通えばいいんだ?制服とかは?あ、そもそも学校ってどこの?」
「明日からで制服は灰色の詰襟、ほらこれ。学校はここから少し歩いたとこだな。」
「明日!?」
「明日。俺もついていくから、明日起こしにこいよ。7時な。」
「横暴だ!」
「なんとでもいえ!兎に角今日は明日にひかえてもう寝なさい!」
「まってまだ夜にもなってな」
「はいはい、おやすみ!」
「ご飯も食べてな」
「明日!」
「お風呂はい」
「明日!部屋に入ったら鍵閉めて歯磨きして寝なさい!」
「…はぁ、わかった。」
「よし、おやすみ」
部屋に押し込められた青年は手に持っていた詰襟の服を見つめ、疲労の色を顔に浮かべ、自らの髪をつまんで嘆息した。
***
「マスター、めっちゃ見られてないか俺達。」
「うーん………………わからん。」
「あんたの目は節穴か!なんでそんなにためたんだよ!」
いつも通りマスターの言葉に過剰に反応してしまい、ツッコミをいれたのち、更に視線が強くなったので、もうマスターを気にしすぎないことにした。
校内はとても広く、外から見たら古めかしいので、少し汚れているかな、と思っていたが意外にも綺麗で驚く。
マスターは行きなれている道のように、先へ先へと進んでいってしまう。追い付き、隣に並ぶとマスターを見上げる。マスターはなぜか泣いていた。
「は!?なんで泣いてるんですか!?」
「ぅぐ、いや、娘を嫁にいかせる気分ってこんな感じなんだなって思っただけだッ…グスっ」
「あのなマスター。俺は男だし息子でもないだろ。嫁ぐとしても当分先だし、それまでマスターをこきつかうつもりだから、覚悟しとけよ」
気恥ずかしさにふいと顔を背けた先に、赤の髪を二つに結ってある女の子が此方を見ながらたっていた。
その女の子は身長が少し低く、顔はとても整って、いるような気がする。
はっきりと断定できないのは、女の子の顔が涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっていたからである。
マスターの服の裾を限界まで引っ張り、そんな俺の行動に怒ろうとこちらを振り向いたマスターに、女の子の存在を知らせると、「うわ」と口に出して顔を歪ませた。
そんなマスターに女の子も「ひぎぃ」と甲高い声をあげてそのまま倒れた。
「え、なに。どうした?」
「俺が聞きたいわ!あの子突然気絶したんだけど、マスター何かした?」
「うんん、うわってわりと真面目に引いた、こと以外はしてないな。」
「それ俺も我慢したんだからマスターも我慢してくれよ。」
「すまん。口が軽いんだ、俺。」
心のそこでもうマスターに色々話さないでおこうと決意し、気絶したであろう少女に近付いた。少女の顔は、先程もいった通り、涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっていて、そのままでは少し触れたくないのでハンカチで拭ってやり、しかしなかなか目を覚まさない少女に声をかけた。
「お、おーい」
「ぅうう…」
「駄目だなこりゃ、ほってくか」
さっさと先にいこうとするマスターの服を再度限界まで伸ばし、再度振り向いたマスターの頬を全力で引っ張る。
ものすごい勢いと力で引きちぎられそうな頬に手をあてながら「はこびまひゅから!!」と叫んだマスターから手を離す。
「こんなとこで女の子放置しとくとか、マスターの気が知れないな!」
「知り合いでもないんだし、別にほっといても問題ね、えこともないな、うん。心配だなぁ。」
マスターはとことん気に入った人にしか興味がない。俺は深く溜め息をついて、女の子のお腹に手を回して担ぎ上げた。マスターが「保健室?遠すぎ。」とぼやく。睨むと「すまんちゃんと案内する。お前のその目は勘弁してくれ。」と半ば頼み込まれるように言われたので、とりあえず保健室とやらにいこうと思う。ちなみにハンカチは汚れたので保健室に行く途中にあった水道で洗いまくった。
***
「それで、君達は待ち合わせ時間から20分くらい遅れてるんだけど、どういうことかな。なにかトラブルでもあったのかな。」
「少し位遅れただけで、そんなにふくれんなよ。可愛いと思ってるのか?」
「君ね、反省してる?」
「お前の泣きっ面はおもしれえな。」
「殺すぞ!」
「はっ!やってみろよ!」
顔を怒りに染め、しかしなお美人なお姉さんと対話しているマスターの隣は少しだけ気分が悪い。いや、とてつもなく気分が悪い。お姉さんの魔法と思わしき炎のせいで室内温度が高くなり、隣では爆風が巻き起こっている。
アスルは自らの髪を軽く撫で付け、溜め息をつき、掌を机に叩きつける。机に亀裂が走り、室内温度が一気に下がる。あちこちが少しだけ凍りついた部屋に、アスルの声が響く。
「あなたが責任者なら早く学校とやらの説明をしてくださいませんか。」
ぎりりと歯軋りをする音が聞こえ、女性はアスルのとなりにいる男性、マスターことセレスを涙目でみた。セレスは目の端に少しだけ涙をため、涙声で「説明早く」と口早に女性に告げた。
頷いた女性は咳払いをひとつすると、顔をあげた。
「私の名前はアリオト・ビーセウルス。ここの理事長をやっているものです。」
「りじちょお?」
聞き慣れない単語に首を傾げると、りじちょおこと、アリオトさんがまた「理事長よ」、といってきた。
「簡単に言えばこの学校での最高権力者だということよ。セレス、君今までこの子になに教えてきたの?」
「出来るだけ自分の力で何でもできるようになってほしかったから、命に関わることと、常識的な行儀作法以外は教えていない。」
「は!?じゃあなに、子供の作り方も知らないってこと!?」
あり得ないものを見るような目で見てくるりじちょお、理事長?に意味がわからず、とりあえず笑ってみると距離を詰めてきた。
「ね、ねえアスル君。子供の作り方、知ってる?」
「あああああ!!てめえ俺の愛息子になに吹き込んでんだゴラァ!!」
「君が教えない分私が教えるんだよ!というか一般常識なんだよ!今世界は少子高齢化になっているんだ!子供をつくってもらわないと!」
「やめろおぉ!俺のかわいい息子を汚すなあああァァあ!」
隣にいたマスターに突然耳を塞がれ、驚き固まっていると、又何か言い合い出した二人。何回言ってもしつこいな!実は仲がいいんじゃないのか?
耳を塞ぐ手を払いのけ、話の続きをしろ!と怒鳴ると静かになり、又ポツポツと少しずつ話始めた。
誤字脱字があれば、教えてください!!