第7話 -会戦の陣容-
ワンダーク提督は銀河共和国軍司令部に連絡をとった。
「敵勢力が拡大中。現状の艦隊での守備は困難」
と簡単な言葉で救援を求めた。
「700機のブラックナイツ、私ならば一部を攻撃補助に回すので攻撃部隊は5倍程度といったところか、
しかし部隊内での攻撃分担をやられれば総攻撃力は5倍どころか10倍以上となるだろう。」
どう考える?とワンダーク提督がクーン准将に確かめた。
クーン准将は
「敵は恐らく3個連隊から6個連隊を構成し、
残りは自由戦闘部隊とやらの単独戦闘を主体とする部隊でしょうか。
技量が同じであると仮定すればこちらの第1特殊攻撃部隊では抑えきれません。
というのが率直な意見です」
と話すと「やはりか」とワンダーク提督は天井を見上げた。
銀河共和国側の戦力は8万隻と要塞、対して自由共和国側の戦力は守備部隊を合わせると16万隻。
単純に2倍の戦力差とはならないが、これでは動くに動けない状況である。
防御戦で時間を稼ぐことは出来ようが、打って出ることは不可能に近い。
「相手の動きを監視しつつの防御戦となりそうだな、持久戦に持ち込むか、
いや、それが通用する相手ではなかろう。」
ワンダーク提督は腹を決めた。
「クーン准将、貴様の部隊は温存する。重母艦にて待機させよ。
いざとなればジャンプ離脱し領内の惑星要塞か惑星に逃れ機の熟す時を待て。
敵ブラックナイツに対抗出来うる部隊をみすみす全滅させるわけにはいかん。わかったな」
とクーン准将に命じた。「司令部からの返答を待とう」
心中複雑ながらもクーン准将は「了解しました。」と従った。
ワンダークはタキヌマ提督にも相談していた。
「司令部からの返答が来ました。打撃艦隊を2個艦隊と機動艦隊を2個艦隊寄越してくれるとのことですが、
合計14万隻となります。これで守り切れるでしょうか。」
タキヌマ提督はそれに答えて
「とにかく、なんとかするしかあるまいのう。足の早い機動艦隊を敵に当たらせ、
隙を作り要塞砲で牽制。混乱中に打撃艦隊で敵を叩く。作戦と呼べるものでは無いかもしれんがの」
と言うと「じゃが、相当な被害も覚悟せねばならん」と締めくくった。
◆
基幹艦隊の到着まであと1週間という時に、先に打撃艦隊が到着した。
第40打撃艦隊でルンバーグ・メッサー提督だった。
早速ロバート・バートン提督のところに挨拶に来た。
「閣下、ルンバーク・メッサー上級大将であります。司令部の命令により閣下の艦隊と合流致しました。」
とだけ言い。4つ隣の部屋へと入っていった。
バートン元帥とスクオーラ上級大将は
「これで、基幹艦隊が到着すれば一気に倍増か、早期奪還を司令部が望んでいるのは明らかだな。どうする?スクオーラ提督」
「16万隻の大艦隊ですので相手が10万隻以下なら勝算はありますな。しかし無理はしたくないというのが本音です。」
「そうだな、要塞を落とすのは簡単ではない、相応の被害も出るだろう、しかしまあ、これだけ増強されて出来ません、では済まんだろう。手を尽くすしかないか。」
と互いの意見を交わした。
オーウェン少将は700名に膨れ上がった隊員を前に各自の担当を割り振っていた。
旧連隊隊員の意見を参考に規律の取れた戦闘を行える者を選び各連隊に配属し、
単騎戦闘をこなせる者を自由戦闘部隊に、
そしてそれに続く者を中隊単位に分けて攻撃援護に回した。
攻撃力は過去類を見ないトルーパー旅団となるだろう。
それでも、死者は出る、あの白銀の部隊が出てくれば50名の戦死は覚悟しておかねばならないかもしれぬ。
静かに椅子から立ち上がり格納庫へと向かった。
「FB15シンフォニア100機、FF13ケンタウロス100機、GS8ダイダロス200機分のパックは出来上がったか?」
と技術責任者と整備責任者に問うと
「FB15シンフォニアはFS16セイレーンのものが流用出来るので簡単な変更で出来上がっております。
ただ、FF13ケンタウロスとGS8ダイダロスの旅団仕様のパックが難産ですな、
FF13ケンタウロスはセイレーンのAXXパックを参考に広範囲攻撃型に、
GS8ダイダロスはGXXパックを参考に連隊付属のガード用に広範囲防御型と自由戦闘部隊の援護として局地防御型を突貫で製造している最中です。既に量産体制に入っているので1週間程度で揃うでしょう。」との返答だった。
オーウェンは
「そうか」とだけ答え「基幹艦隊の到着と同時期か、演習の時間はあるな」と考えた。
各自が自分の仕事を忙しく行っている時に「基幹艦隊到着」の一報が入った
やってきたのは予定通りADAM1の遥か向こう側となるEDEN星系駐留の第3艦隊であった。
バートン提督が出迎え
「遠距離からありがとうございます、チャップマン提督」
と、もうすぐ退役するとは思えぬほど眼光の鋭い歴戦の強者に挨拶をした。
「たったの1万光年程じゃよ、EDEN星系一帯は我が軍の拠点じゃからのぅ、
戦闘もなく退屈じゃったわい。もう一戦してから退役したいと常々考えておったので、心は踊っておるよ。」
とまるで遠足にでも来たかのように無邪気に話した。
「ところで、総司令官は先任のバートン提督で良いか?基幹艦隊が2個も合流することは珍しいんでな、今回は客として働きたいんじゃが、どうかの」
と言われてバートンは
「チャップマン提督がお望みでしたら私が務めますが、恥を晒さぬように采配致しましょう。」
と答えると、チャップマン提督は
「ふはは、自由共和国軍きっての名将と呼ばれるバートン元帥の言葉とはおもえんのう。」
と笑うばかりだった。
ADAM21には16万隻の艦隊が集まった。
この状況は索敵により銀河共和国軍側の知るところとなるだろう。
こちらの偵察では敵は約8万隻と見積もられている。
状況的には倍の戦力だが、念のために要塞守備艦隊8万隻の内半数を開戦後の状況によっては投入することもバートンは考えていた。
「20万隻か、これほどの規模の戦は良くも悪くも多くの者の記憶に残るな。」
と自分で立てた時系列での作戦メモを見ていた。
その時「スクオーラです、作戦会議と聞きましたが。やはり叩きますか。」
とスクオーラ上級大将が臨時で作成した作戦司令部にやって来た。
続いてショーン・ブレンディン大将、ルンバーグ・メッサー上級大将、トムスン・チャップマン元帥がテーブルを囲んで席についた。
「実はあと2名来ます、要塞守備艦隊の第1守備艦隊提督のレンデルフ・ソウサル上級大将と第2守備艦隊提督のライデン・クエット上級大将です。」
とバートン元帥の上級参謀グレイ・ヴァーデル大佐が説明した。
しばらくしてその2名がやって来た。
「これで揃ったな」
とバートンが今回の作戦について説明し始めた。
具体的には主たる攻撃艦隊は第3、第9基幹艦隊ではなく両基幹艦隊には敵要塞砲の射程外約1AUに陣取り、斜め2方向から敵艦隊を牽制。
第17強襲艦隊を中心に第40打撃艦隊、第229機動艦隊の6万隻を主力攻撃部隊とする。
白銀の部隊が出てくれば101旅団が相手をすることになるだろう。
また、他に艦隊が存在する場合は惑星守備艦隊は守備に徹し、そうでなければ攻撃部隊に合流後主力攻撃部隊の守備に付く。
という作戦内容だった。
◆
その後索敵機から連絡が入った。
敵艦隊に打撃艦隊2個艦隊、機動艦隊2個艦隊の合計6万隻が合流するという。
暗号解読に時間がかかったため作戦立案までには間に合わなかった。
それをバートン提督が耳にした時に
”いかんな、これで向こうは15万隻程度の艦隊となるか。この数は流石に厳しいな。”
と一人で考えていた。
当初の予定は変更しなければ各個撃破されてしまう可能性が出てきた。
それにその増援全てをこちらの惑星要塞攻略に使われれば・・・
敵の提督が前に行った時間差での包囲陣が頭のなかに残っていた。
どんな手を使ってくるか想像は付かない。
定石通りなら要塞守備に回してくるはずだが。これは柔軟に動けるようにしておく必要がある。
バートンは事務官に連絡を取り「コーヒーを届けるように言ってくれ。3つだ」
と言い、自室にスクオーラ提督とオーウェン少将を呼び出した。
二人がバートンの部屋に入った時
「相談がある、座ってくれんか。もうすぐコーヒーが来るんでな」
という口元は噛み締められていた。
「敵部隊に6万隻が合流するらしい」
と簡単に言うと
「ほぼ倍増、こちらの戦力と互角ですか」
とスクオーラは答えた。
「実はオーウェン少将に来てもらったのは理由がある、その増援に例の白銀の部隊が追加されている可能性だ」
バートンはオーウェンを見た。
オーウェンは
「そうですね、可能性は限りなく低い、と考えられます。理由は部隊の練度及び部隊規模の問題です。」
と言うと「それはどういう意味かね」
バートンに問われた。
長くなりますが、と前置きをして
「まず、部隊全隊の練度ですが、実際に戦ってみた感想として、
今までに存在しなかった部隊を急ごしらえで運用していたのがわかりました。
そして部隊規模ですが、約200機、その急ごしらえの部隊に新規隊員を入れてみたとて、
もう訓練や演習の時間は無いでしょう。彼らもトップエースの貴重さは知っているはずです。
全軍から集め、組織し、部隊として運用するためには相当な期間を必要とします。
私の隊の場合は既に完全に出来上がった部隊に合流させて1ヶ月以上掛けて鍛えあげました。
到着時期の都合上少なからず訓練の足りない者は居ますが、
今回の戦闘では彼らには戦闘補助として働いてもらいます。
こちらでさえそうせざるを得ないのですから、
到着してすぐに戦闘参加というのは将兵の無駄遣いにほかなりません。
何度も申し上げますが、トップクラスのエースをただ集めても消耗するだけです。
そのような愚策をあの戦術を取るような指揮官が採用するとは考えられません。
最後にこれは私自身の考えですが、
今回は白銀の部隊は出てこないとも考えています。」
と答えた。
「白銀の部隊が出てこない?彼らにとっては重要な戦力ではないか?緒戦から投入すべき部隊だと考えるが?」
とスクオーラがオーウェンに聞いてきた。
「何故そう考える。」
するとオーウェンは
「敵は索敵によってこちらの情報を得ているはずです。
私は敵に知られるように全隊員を訓練や演習に使いました。
全ての機体を黒色塗装にし、左肩にクロスランスの部隊マークを入れてです。
この情報が伝われば敵は白銀部隊の損耗を恐れて出し惜しむでしょう。
もっと言わせてもらえば後方に送る可能性さえ否定出来ません。
これは戦術ではなく戦略の部類に入りますが、前回の戦闘で我々は8機を失い5名が戦死しました。
一方データを見る限り敵は20機を失っています。
倍の機体数でこれだけの違いを知った彼らはどう考えるでしょうか?
私が指揮官であれば得難い人材を死地に向かわせるような作戦は取りません。そういうことです。」
「ふむ、では敵は敵わぬと知りつつ通常のパワードトルーパー部隊で対応するということか」
バートンに訊かれ
「私ならそうします」とオーウェンは答えた。