第4話 -白銀の脅威-
「ヒャッホー!初出撃だぜ!愛しのアテナちゃん」
ギャリー・ウィリアムズ中佐がフルバーニア状態で先行した。
「オイ、ウィリアムズ中佐、はしゃぎ過ぎるな。我々の相手はあのブラックナイツだぞ?」
連隊隊長のアイドワ・クーン准将がたしなめた。
「全く、海兵隊上がりは血の気が多くて困る」
自身のことは棚に上げてぼやいた。
以前から企画されていた新部隊である第1特殊攻撃連隊の隊員は各軍の壁を超え、
宇宙軍、空軍、海兵隊、その他から集められた。
寄せ集め部隊のため当然規律は浸透しておらず、ウィリアムズ中佐のような連中もかなりの数含まれる。
それ故に初代隊長として攻撃宇宙軍の英雄であるクーン准将が隊長に推された。
彼の名を知らぬ者は銀河共和国軍には居ないだろう。
また、自由共和国軍にもその名は轟いていた。
海兵隊所属時に自由共和国軍所属重母艦の着艦デッキに単騎で強制着艦し
遅延信管式質量エネルギー弾を内部に打ち込み、
重母艦だけではなくその護衛艦隊もろとも葬り去ったのだ。
海兵隊パワードトルーパーパイロットとして士官学校を出た入隊後すぐのことである。
その異常な攻撃性は経験を重ねても衰えず、攻撃宇宙軍に転属となった後も戦果を上げ続け、
半ば生ける伝説と化していた。
◆
「あれか?」とオーウェン少将が望遠モニターで確認した。
1列横隊に見えるが魚鱗の陣を布いているようだ。
「白銀の機体が準亜光速で接近してくる!実力は不明だが、
この時点で少数投入してくるということは恐らく強敵だろう。大隊各機相対速度を利用し広範囲攻撃開始!」
と命令し「自由攻撃部隊は俺に続け!」
と巡航モードから高機動モードに変更し敵部隊に突入した
「F1よりF20まで自由戦闘開始、各大隊は敵機を引き付けた後広範囲攻撃を基本として各小隊長の判断にて1対3の優勢戦闘を心がけよ、可能な限り一撃離脱にて戦闘開始!」
「イエッサー!」の返答で101連隊全機が敵部隊と戦端を開いた。
◆
「オイ、ランゲート、どっちが多く戦果を上げれるか賭けようぜ!」
ギャリー・ウィリアムズ中佐が全部隊通信で言ってきた。
ランゲート少佐は「良いですよ、ビール1ケースでどうですか?」
とこれも全部隊通信で返した。
クーン准将は「お前達もっと緊張感を持て、相手はトップエースの集団だ」と言い
「俺もその賭けに乗らせろ」と准将らしい言葉を吐いた。
◆
「準亜光速ドライブをまだ続けるか?」
オーウェン少将が呟いた瞬間に前衛が散開し高速ドライブに速度を落とした。
目の前では大隊の攻撃による爆発が広範囲に散って見える。
「来るぞ!後続がこの宙域に達する前に片付ける!」
オーウェン少将は急速旋回を行いつつ散開した敵に向かっていった。
目の前に丁度胴体下部を見せる白銀の機体に粒子砲とレイルガンを撃ち込んだ。
しかし一瞬もしない内に小型エネルギーポッドと広範囲レーザー射撃で全弾防がれてしまった。
「ほほぅ、少しはやるな。」オーウェンの攻撃が全て防がれることは滅多に無い。
「これでどうだ!とバルカンファランクスを叩きこみつつギリギリの距離で敵機とすれ違った。
流石に50ミリの雨は防ぎようが無かったらしく、その白銀の機体は火を吹き、速度を落とした。
しかし次の瞬間に敵上方に抜けたオーウェン少将の機体に向かって粒子砲とレイルガンが放たれた。
「その程度なら!」
と機体を起こし前面投影面積を最小に抑え、ひねり運動で回避した。
すかさず粒子砲とレイルガン、質量エネルギー弾を発射し、敵は爆発しベイルアウトした。
再度ベイルアウトした機体に照準を合わせ粒子砲を撃とうとした時に高速で別の機体が目の前を横切った。
それに続いて自由戦闘部隊の機影が続く。
狙いを定めたはずのパワードトルーパーは消えていた。
◆
「ジャベス中尉、問題ないか?」
フッキングで救出したクーン准将は
「こちらに回収機を回せ!敵に張り付かれている!」
と通信すると
後方で待機していた回収機が超高速移動でクーン准将の機の前方にポッドを放出した。
救出したアテナの胴体フックをポッドに固定するとポッドのスイッチをONにし、
回収機に向かって一直線に飛んでいった。
回収機は安全な宙域で相対速度を合わせてポッドとアテナを回収すると、準亜光速で艦隊に戻って行く。
一方クーン准将を追っていたのはヒュローイ・モト中佐であった。
数度のロックオンで撃破しているはずなのだが、
クーン准将はアテナの高機動と小型ポッドの放出で切り抜けていた。
「しつこい野郎だ」
クーン准将がぼやき、一瞬アフターバーナーを吹かし、90度上昇からモト中佐機の後方に回りこんだ。
「うわっ!と一瞬モニターがブラックアウトし、回復した時にはモト中佐の目の前から敵機が消えていた。
代わりに後方から質量エネルギー弾が飛来した。
「そんなものでやられるか!」
機体をひねり躱すと、直ぐ目の前で質量エネルギー弾が破裂した。
「何だと!?」
と急旋回で逃れると、次は背面に粒子ビームとレイルガン、フレシェット弾が雨のように降ってくる。
「く・・・躱せん・・・ベイルオフ」とレバーに手を伸ばした時、
モト中佐の機体が爆沈した。
「さすがと言うべきか、このレベル相手ではまだまだ我が隊と言えど苦しいな。」
やっと1機撃墜したクーン准将は
「各自無理はするな、敵は噂通りのトップエースだ。下手に追うとやられるぞ!」
と部隊通信で危険を知らせた。
◆
トルーパー同士の激しい戦闘が続く中、銀河共和国軍の艦隊は全てゼロ距離状態での戦闘に突入していた。
敵味方が入り混じり、互いにかなりの損害を出しながらも戦闘は膠着状態に陥っていた。
通信が飛び交い、なんとか混乱を抑えようと各提督は命令を出し続けた。
◆
混乱の中、レイは自機の座標を見失っていた。
艦隊同士の激戦の中に居ることだけしかわからない状態から補給のために一旦キサラギに戻らなければならない。
通信がやたらと飛ぶ中、必要な情報を聞き逃さぬように耳にも神経を集中させ、
敵機や敵艦に粒子砲を撃ち続けた。
その時部隊通信で
「101連隊F17ジーン!被弾しました!コントロール不能!ベイルオフします!」と聞こえた。
レイはその時すぐ目の前で炎を吹き上げながらベイルオフする機体を見た。
漆黒の機体が炎のゆらめきに映しだされ、
望遠スクリーンでそのパワードトルーパーの右肩にF17と書かれているのを見てすぐにジーン少尉だと分かった。
パワードトルーパー本体の装備する武装は限られている。
超高速ドライブも準亜光速ドライブもパック無しでは不可能でこの混戦の中に宇宙服で飛び出すのとほとんど変わらない。
スライサーを多用しながらトルーパーの固定武装とツインライフルで
周囲の敵を蹴散らしつつ離脱しているようだ。
と、その瞬間FS16サイレーンのAXXパックが爆発した。
衝撃でトルーパーが吹き飛ばされてくる。
レイは瞬間の判断でジーン少尉の機体に近づき、少々強引にフッキングを行った。
固体振動通信で
「ジーン少尉、怪我は無いか?今から補給のために艦に戻る。連れて行くぞ!」
と言い、返事も聞かずにブースターを全開にした。
少尉の機体を下部の空になった質量エネルギー弾の格納庫に押し込め
「こちら101連隊F20号機ギャロップ中佐です、キサラギ、座標を送信してください」
と、通信を入れた。
しばらく間を置いて
「こちらキサラギ、1番通信指令です、中佐の機体はキザラギ現在位置から約100キロメートル、X軸マイナスに転回後直進してください。」
と返信が来た。
レイはすぐにキサラギめがけて突っ切っていった。
途中に敵トルーパー3機編隊に遭遇したが、3連一斉掃射で撃破した。
着艦装置に不具合があったので胴体着陸用のスキーサスペンションを出しスラスター全開の逆噴射と共に火花を散らし左右に振られながら緊急着艦を行った。
レイが操作を行うと、ガコンと機体の格納庫が開きジーン少尉のセイレーンが転がり落ちた。
レイは機を降りて駆け寄ったが、かなりのダメージを受けているようだった。
パイロットスーツに異常がないかを見てからコクピットを強制開放して中を見ると、
ジーン少尉は気を失っている。
彼女を引っ張りだして、到着デッキから格納庫へと運んだ。
衛生兵がジーン少尉を担架に乗せて医療チームの下へと運んで行くのを確認し自機へと向かった。
レイは着艦デッキから格納庫へ向かい整備兵に
「高機動型パックを用意してくれ、ハルピュイアは俺が操縦してベイルオンする。」
と告げ
着艦したての自機に乗り込み固定フックを外してハルピュイアが立ち上がった。
格納庫から整備と換装が終わった高機動戦闘用パックが出てきたのでそこまで歩き、ベイルオンを行った。
「すぐに出る!整備兵の方々、安全な場所へ戻ってくれ。」
と言い、周囲の安全を確認してから発艦デッキへシャフトエレベーターで上った。
「101連隊F20号機ギャロップ、発艦します!」
と伝えると
「進路クリア、発艦どうぞ」
通信士から返答が来たのでブースターを派手に吹かせながらきりもみ状態で出て行った。
ジーン少尉の容態が気になるが、今は危機の最中であり戦闘に集中しなければならない。
「くそ!あいつはどこだ?」
艦隊同士がほぼゼロ距離で射撃しあう中、敵トルーパーや駆逐艦、砲艦に粒子砲を打ち込んでは破壊していき、先程まで対峙していたトルーパーを探し続けた。
目の前で広範囲に爆発が散らばっているのが見え「そこか!」とアフターバーナーで更に加速を行った。
これほど広大な戦場での混戦になると目当ての機や鑑を見つけるのは難しいのだが、
さっきの戦闘でわかったことがある。
爆発の近くにあいつが居るはずだ。
その時、真横で駆逐艦が轟沈した、と同時に炎の中から白銀のパワードトルーパーが飛び出してきた。
「見つけたぜー!」
と吠えながら素早く反転ブーストをかけ、
スピン寸前の状態でそのトルーパーに追尾式質量エネルギー弾と粒子砲を撃ち込んだ。
相手は小型エネルギーポッドをバラ撒きレイの真上へと急転回を行い、フレシェット弾を発射してくる。
レイはスラスターを全開にして体勢を整えつつ脅威を回避した。
「やはり、やる!」
パイロットとしての技量はレイより上かもしれない。前方から来る敵進路方向にソードワイヤを素早く打ち出したが躱されてしまった。
加減速のGで体中がきしむ中1対1の戦闘が再び始まった。
他のトルーパーや艦艇はほとんど無視しつつその敵だけに神経を集中させる、
そうせねば勝てる相手ではないことはレイ自身が感じ取っていた。
コイツを艦隊陣の後方に入れる訳にはいかない・・・被害を減らすためにも、自分の腕を量るためにもここで対処し続けなければ。
レイは焦りにも似た感覚を必死に抑えその一騎討に全力で対抗すると決めた。
◆
「流石に厄介な敵だな、101連隊とはこれほどなのか・・・
全員がこのレベルなら本隊が危険だが、どうやっても引き剥がせる相手ではないな」
シェム・ランゲート少佐はレイとの戦闘の厳しさを痛感していた。
「そろそろ弾薬もエネルギーも補給しないと、だが無理か・・・」
ランゲートは各武装のランプが黄色になっているモニターにちらりと目をやる。
「エネルギーがマズイな、ジェネレーターの負荷も激しすぎる・・・どうにか離脱せねば」
と後方モニターを確認する。
「機体を軽くするか」と言って艦隊外周方向に向かった。
砲艦や駆逐艦の集団を見つけ出し、全弾をロックオン後に発射した。
一瞬後ランゲート少佐はその間をすり抜け、爆発に巻き込まれながら高速離脱を行った。
後を追うレイは砲艦や駆逐艦の爆発に巻き込まれ自軍の巡洋艦に叩き付けられて止まった。
やっとのことでレイを振り切ったが
「ふぅ・・・あいつとは二度とやり合いたくないな」
とランゲート少佐はひとりごちた。
そして一旦戦域から離れ、遠くから母艦を探し当て帰還した。
◆
戦闘が落ち着いた後に結果報告が来た。
合計8万隻あった艦隊は2万隻の撃沈、大破しジャンプが不可能になった艦は自沈させ、
中破もしくは小破の鑑と僅かな被害で済んだ艦を除くと実に5万隻が残っただけだった。
当然銀河共和国軍も被害は大きく6万隻の内4万隻を失い、バートン元帥が勝利を手に入れたことに間違いは無い。
しかしこれでは要塞攻略は不可能であり、一旦撤退して体勢を立て直すしか無い状態である。
◆
101連隊にも被害が出ていた。
「第1大隊、戦死行方不明者2名、デリル・ローランド大尉、ウィンデル・マッカート少佐です。」
「第2大隊、戦死行方不明者1名、マクシマ・レベルランド少佐です。」
「第3大隊、戦死者無し、リン・ヤマサト中尉が現在カプセル内にて治療中です。」
うむ、と少将は頷き「自由戦闘部隊は、ヒュローイ・モト少佐戦死、クラン・マイオロメスト少佐戦死。
レイ・ギャロップ中佐が重傷でカプセルにて治療中、カリン・ジーン少尉が意識不明。脳へのダメージを調べているところだ。」
「戦果はあの白銀のトルーパー部隊機を21機撃墜、他トルーパー多数。混戦のため艦艇の撃破数は未計算だ。」
少将が締めくくった。
「あの白銀の機体の隊が出てきてから一気に戦況が悪くなったな、
奴らは何者だ・・・噂に聞くドゥアン・レンブレスト元帥が創設したというアイドワ・クーンの連隊でしょうか?」
とカトル・ラムゼ大佐が言う。
「信じたくは無かったが、そういうことだろうな。我々に匹敵する部隊が向こうにも有るということだ。
アドバンテージはまだこちらにあるが、早々に我が隊にとっても脅威となると考えて間違いは無かろう。」
オーウェン少将は沈痛な表情を浮かべそう語った。