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六銘鑑  作者: 朝倉新五郎
ADAM30戦役
3/9

第3話 -奇策と戦術-

 クラムラン惑星要塞、元自由共和国連邦軍所属で、ADAM30星系の守備惑星要塞でも有る。

数年前に銀河共和国連邦軍に奪取されて以来上層部は要地ではないとの判断の上で放置してきたのだが、惑星系行政組織からの度重なる救援要請により今回の奪還作戦が行われることになった。



 「今、提督と艦長、上級参謀が第9艦隊のバートン元帥達と作戦会議を行っているらしい。

こちらはこちらで準備を怠ることのなきよう。

作戦が決まれば各大隊及び自由戦闘部隊の編成を考えるので、

次のブリーフィングに備えて各自待機だが本日は自由行動でよし!」


オーウェン少将はそう言い残しブリーフィングルームを出て行った。



 艦内では基準時間が有るとはいえ昼夜関係なく24時間誰かが動いている。


 艦内時間では11時だが、レイにとっての体内時間では今は夜である。

”一杯飲みに行くか”と艦内に数ある中でもお気に入りのバーに入った。


 「マスター、いつものをダブルで。」と注文したところ

「あ、中佐!」と言われ振り向くと


カリン・ジーン少尉、ヒュローイ・モト少佐、キャロル・フィフスバール大佐、レギル・レギオン大尉、ブラン・ロロルド中尉が居た。


 「トップエース達が骨休めか?まぁ今日は自由行動だしな。

俺は今回みたいな作戦は初めてで気休めに来たんだが。」


とこぼし、出されたウィスキーを一口飲んだ。


 「中佐もこっちに来なよ~」


ジーン少尉が「自由戦闘部隊の作戦会議だよ」と言うので、席を変えてみた。

 カウンターのほうが落ち着くのだが”隊の中ででのコミュニケーションは大切だ”と自分に言い聞かせる。


 「ジーンはギャロップ中佐がお気に入りのようだね」とフィフスバール大佐に言われ

 レイは「ん?」と言う顔をした。


 その顔を見て「ギャロップ中佐は鈍感ですな、わはははは!」

 モト少佐に言われた。


 ジーン少尉は何も言わずに二人を睨んで目の前の酒を飲み干した。


 「ジーン少尉には色々と世話になっているが?話しやすいんでね。他に何か?」

 とレイが言うと


 「中佐の技術を盗むのよ~」とジーン少尉は言ったのだが

 「心もか?」とモト少佐に冷やかされた。


 レイは

 「どういうことかわからんが、技術なら教えられる範囲で教えるぜ?俺程度のもので良ければだが。」

 話の内容がわからずにそういうだけだった。


 「ほら、鈍感だ」とモト中佐たちに笑われたが、わからないものはわからない。


 考えるべきことは”今回の作戦でどのように戦うかということだけだ”とレイは思っていた。



 レイは、少し酔って部屋に戻って眠ることにした。

 酒には強い方なのでふらつくこともなく、顔色も変えず、ただ眠くなったので戻っただけだ。


 しかし、作戦はまだまだ先とはいえ興奮か焦燥か、とにかく寝付くことは出来ない。

 寝返りを打ちつつなんとか寝ようとするが、

そうすまいと考えれば考えるほど戦闘のことを考えて眠れないのであった。



 レイはガバッと起き上がり「ダメだな、今日は眠れん。」と呟き落ち着くためにデッキに行くことにした。

 ”ハルピュイアの仕上がりを見に行くか”という理由を自分でつけて改修格納庫へと足を運んだ。



 格納庫へ到着し、10機並んだハルピュイアを見ると、漆黒の塗装に塗り替えられていた。


 2機は右肩にF20と書かれており、レイの機だとわかったが、他の機にはナンバーは入れられていなかった。

 連隊マークであるクロスしたランスが左肩に入れられているだけで、今回の出番は無さそうであった。


 「中佐殿、何か?」と整備兵に聞かれ

 「いや、どうも落ち着かなくてな、自然と此処に足が向いた。」と答えた。


 「分かります。私は後方で試作機体整備を担当していたのですが、

 こんな前線に出るのは初めてで・・・」

 整備兵は困惑した表情でそう話したので


 「この鑑が沈むことはない、君は整備に集中してりゃいいんだ。俺達が命懸けで守るんだぜ?」と励ました。

 「そうだな、最前線は俺達だ・・・」とレイは考え直し、士官用の部屋の並ぶ廊下を戻っていった。



 無意識なのかそうでないのか、レイはジーン少尉の部屋の前に立っていた。

 そして、そうするのが当たり前かのようにインターフォンを押した。

 一連の行動が無意識であったことを示すように、その時レイは自分の行動にはっとした。


 「どっちっら様でしょうか~」とジーン少尉が部屋から出てきて

 「ギャロップ中佐!?どうかしましたか?」と驚かれた

 

 「いや、気がついたら来ていた。寝るところだったらすまん」

 レイが答えた。


 「ジーン少尉、誰が来たのー?」

 部屋の奥から声が聞こえた。


 それに答えて「いや、なんでもないよ、あんたは寝てて」とジーン少尉が言うと

 「了解―」と声がして 再び静かになった。


 「ちょっと場所を変えていいですか?」ジーン少尉がそう言って部屋に戻り、すぐに制服に着替えて出てきた。

 部屋のドアを閉め

 「あの、その、ギャロップ中佐?」と聞かれ


 「はっ」と気が付き「気がついたら来ていた、気分が高ぶっているらしい」と答えた。


 ジーン少尉が

 「じゃあ散歩がてら食事にでも行きますか?私はお腹が減って寝付けなかったんです」

 「乗務員食堂じゃないですよ」と笑いながら続けた。



 今回は秘匿性を伴う作戦のため、各艦隊の提督と旗艦艦長のみが残され、参謀ですら追い払われた。

 第87打撃艦隊の上級参謀バーデン・シュヴァイツァー大佐も帰還し、不確定要素を考えていた。


 行政官からの再三の要請と聞くが、民間の輸送船でそんなに要請が出来るものだろうか?

 銀河共和国側が敢えて見逃させている可能性も捨てきれん。


 となると、要塞の守備艦隊の他に打撃艦隊や機動艦隊がどこかに控えている状況も考えの中に入れておかねばならない。

 ブリッジで最悪の事態を想定し、決断した。


 「俺の権限でサーチャーを数隻出せ、ADAM30周辺に控えている艦隊がないか、10光年単位で調べさせろ。」


 敵は基幹艦隊のみで攻撃してくると思っていただろう。

 しかし、先日の敵偵察艦隊に我が艦隊が発見されてしまった。

 恐らく合流を予期して手を打ってくるはずだ。



 サーチャーとは単独偵察艦である。

高速巡航とジャンプの早さだけが取り柄だが、

小型艦のため発見されにくく、偵察任務には極めて重要とされる鑑である。



 「期間は3標準日だ、準備が整い次第発艦。

出来るだけ多くの範囲を策敵し帰還後報告せよ。帰還まで通信は不可とする。」


 シュヴァイツァー大佐は命令を下した。



 数時間後キサラギの下部格納庫が開き、サーチャー10隻が発艦していった。


 サーチャーがジャンプ航法を駆使して索敵を行っている頃


 各艦隊の提督はクラムラン惑星要塞を如何にして奪取するかを話し合っていた。

 「敵守備隊撃破後、第9艦隊の海兵隊旅団を要塞に突入させるのはどうだね?」


 バートン提督が言うと


 「敵要塞には少なくとも500万人規模の民間人と要塞守備の陸戦部隊が居るはずです

持久戦に持ち込まれたら援軍が来る可能性があります、それに民間人に被害が及ぶ可能性が

ここは拙速を重視しましょう。


一個旅団で制圧するのは下手をすると失敗の可能性が伴います、各艦隊のトルーパーにて完全制圧後

余裕を持って師団クラスの兵力にてとどめを刺すと言うのはいかがでしょう?」


 スクオーラ提督が提案した。


 「6000人の旅団ではなく2万人の師団単位の陸戦部隊を投入すべきということかね?

しかも敵要塞を丸裸にした上で?」


 バートン提督が続けて

 「用心するに越したことはないが、師団規模の陸戦隊は基幹艦隊といえども用意は出来んぞ?」


 と言うと


 「我が艦隊の海兵隊旅団と装甲歩兵を第9艦隊の指揮下に入れましょう。

出来れば229艦隊からも陸戦隊を出して貰えれば圧倒的な戦力差を見せつけ

最小限の被害で最大限の結果を出せると考えます。」


 スクオーラ提督は更に安全策を示した。


 「これは、自由共和国軍最強のブラックナイツを指揮する提督の判断としては少し弱気に過ぎませぬか?」

 と第229機動艦隊提督のショーン・ブレイディン大将が口を挟んだ。


 「トルーパーや艦艇だけで奪還戦闘は終わらんよ、

陸戦部隊無しには要塞奪還は不可能だとわかっていると思っていたのだが?


それに我が艦隊の101連隊は生きて帰還することを最重要任務として命じている。

あまり誇張された表現を使わないで頂きたい」


 きっぱりとスクオーラ提督がブレンディン提督に言ってのけた。



 「まぁ冗談はさておき、我が艦隊からも合計4000人の海兵隊連隊と装甲歩兵を出しましょう。

指揮官は第9艦隊の旅団長で問題無いでしょう。」


 ブレンディンもスクオーラの意見を聞き入れた。


 「229機動艦隊の陸戦隊と言えば、不死のグラウズ大佐の指揮する部隊か?」


 スクオーラがブレンディンに尋ねた。



 「ドゥーラン・グラウズ大佐か、

確かに彼は総指揮官だがそれも誇張された表現ですな、スクオーラ提督。


彼は陸戦指揮官として稀有な才能を持っているだけで、結果として勝利し生還するだけです。

一時はその用兵の腕を見込んで上級参謀にとも考えましたが・・・

彼には陸戦の指揮が向いている。非常に優秀な男ですよ。」


 ブレンディンはそう答えた。



 その日の内に作戦内容が知らされた。

基幹艦隊を押し出し、両翼に第87打撃艦隊と第229機動艦隊にて陣を敷く。


 要塞砲の射程距離ギリギリのところで敵守備艦隊を迎え撃ちつつ、

要塞所属の敵トルーパーと要塞の武装を全てこちらのパワードトルーパーで叩き潰す。


 ざっくりとこのような作戦となった。



 スクオーラ提督からそう聞いたシュヴァイツァー上級参謀は


「私の権限でサーチャーを10隻、索敵任務に当たらせております。

私の杞憂であれば良いのですが敵が打撃艦隊や機動艦隊を準備している場合

不意を突かれる可能性がありますので。事後報告となり申し訳ありません。」


 スクオーラに報告した。


 それに対しスクオーラ提督は


 「不測の事態は常に想定しておかねばならん、シュヴァイツァー大佐、ご苦労」と答えた。



 ”伏兵か、総攻撃の時に不意打ちでもされれば艦隊が混乱して無用の犠牲が出るな。

確かに頭のなかに入れておくべきだったな”


 スクオーラ提督は考えなおした。



 「我々の主要任務は敵トルーパー部隊との戦いと、砲艦等小型艦の撃破と決まった。

中心付近の母艦や先行してくる戦艦、重巡洋艦は無視してよし。

装備は各大隊は広範囲攻撃型、自由戦闘部隊は局地戦闘型とする。

各自自機の点検及び補給を確保しておけ。」


 オーウェン少将は簡単にブリーフィングを行い、部屋を後にした。



 ”守備部隊のトルーパー数は3~4万程度だろう、こちらは10万を超える・・・

数の上では圧勝だが・・・補給か、その通りだな”


 レイは考え、格納庫に向かった。


 整備兵が忙しく作業を行っている中、自機の確認を行うことに専念する。


 特にAパックの固定装置がハルピュイア用に改造されているかを確かめたかった。

 レイのハルピュイアは既に局地戦闘型Aパックに固定が済んでいた。



 整備兵に指示を出している整備主任に近づいていき

 「忙しいところ申し訳ない

ハルピュイア用の局地戦闘型パックを3機用意していて欲しいんだが可能だろうか?」

 と訊いた。


 整備主任は

 「ギャロップ中佐ですか、今突貫で固定装置の交換を済ませているところです。

予備として広範囲攻撃型と高機動型も使えるようにしています。」


「FS18ハルピュイアも整備は完璧にしています、間違いなくコイツが最強でしょうからね。

艦に戻ってきてくれさえすればすぐにでも乗り換えて発艦可能な状態にはしています、安心して下さい。」


 と言われた。


 「戦況を変えられるようなものではないだろうが、敵トルーパーに対するアドバンテージは有るだろう。

整備を信じているのでエースクラスと戦っても負ける気は無いよ。」

 と整備主任に話した。



 「索敵班が帰還しました」


 シュヴァイツァー大佐はそれだけをスクオーラ提督に報告し

 「続きがあります。隣の部屋でよろしいでしょうか?」


 と尋ね、スクオーラ提督は


 「わかった、では報告を聞こう」とブリッジの後方に有る作戦ルームへと向かった。


 「結論ですが、ADAM30の周辺に合計5万隻の艦隊が控えています。

詳しくはキューブを分析し、答えを出します。」


 と言った時に

 「索敵班、入ります」

 と帰還したサーチャーの艦長たちが入ってきた。


 「まずは簡潔に結果を教えてくれ」

 と提督が言うと


 「3番鑑の艦長シャムゼ大尉です。ADMA30惑星要塞の後方20光年に敵打撃艦隊を発見しました。

艦影は約2万、移動はせず宙域に留まっていました。」


 「6番鑑艦長ダムド大尉です、同星系X軸プラス5万光年付近に敵艦隊を発見、艦数は約3万です。

打撃艦隊と機動艦隊の混成艦隊かと。」

 という報告を聞き


 「他の宙域担当は敵影無しということで良いのだな?」

 と提督が質問すると、各艦長は無しと言う答えだった。


 「これは横撃もしくは後方から攻撃される可能性が出てきたな、

シュヴァイツァー大佐、データをすぐにまとめてくれ、バートン元帥には私から報告を行う。」


 すぐに基幹艦隊旗艦に高速巡航艇で向かった。



 「スクオーラ提督、君の上級参謀の機転は見事だな。

しかし要衝地でもないADAM30に5万隻を投入してくるか・・・

我々は罠に嵌ったと考えて良いものだろうか?」


 バートン元帥はスクオーラ提督に尋ねた。


 「そうかもしれません、ADAM30の行政府からの秘匿文章、つまり救援要請ですが、

敵に利用されている可能性があります。」


 うむ、とバートン元帥は答え


 「となると、我々は約2万隻の守備艦隊に5万隻の打撃艦隊、機動艦隊を合わせた7万隻と要塞を相手に戦う事になるな」

 髭を撫でながらスクオーラ提督に確認する。


 「そうです、しかも敵は我々の動きを見ながらジャンプしてくるでしょう。

一番危険なのは後方に付かれた場合ですが、

そうなるとこちらの被害は当初予定を遥かに上回る可能性が出てきます。

最悪の場合要塞と敵守備艦隊との間に挟まれるかと。」


 スクオーラ提督は慎重な意見を述べた。


 バートン提督もまた慎重に

 「負けない戦闘」を行い勝利を手にするタイプだからだった。


 相変わらず髭を撫でながら


 「作戦を変える、まずは全艦隊で2万隻の敵打撃艦隊を叩き、

短期戦闘にて3万隻の混成艦隊に向かうことにしよう。各個撃破だな。」


 作戦が決められた。



 「要塞守備隊は動けんだろう、あえてこちらが狩られる側になる必要は無い、

ブレンディン大将も呼んでくれるか。」


 一旦綿密に決めた作戦を軽く破棄し、何事にもこだわらずただ勝利を勝ち取るバートン元帥らしい采配だった。

 戦略は変わらないが、柔軟に戦術を変える。


 スクオーラは総司令がバートン元帥であったことで安堵した。



 一旦作戦が変更されてしまえば苦労するのはパイロットや整備兵などである。

 主に艦隊守備を担当するFG9サイクロプスGHMやGS8ダイダロスGHMなどは問題ないが、

攻撃の主体になるFSやFB、FF等は要塞攻撃用から艦隊攻撃用に装備の換装が必要になってくる。


 幸いレイの101連隊は目標の変更が無かったのでブリーフィングを再度行っただけで終わった。


 「ファイターボマーやファイターフェンサーの連中は装備変更で大変だろうな。」

 と誰かが言った。


 「確かに、標的が要塞から戦艦、母艦になるからな、ヘビーボマーやヘビーファイターの装備は使いどころが難しい。」

 そう答えたのはモト少佐だった。


 そして「とにかく俺達が防御陣に穴を開けて突破口を作らないと、だな」とくくった。



 敵艦隊が動く前にこちらが動かなければならない。

 しかし目的の艦隊はADMA21から50光年以上の距離がある。


 惑星要塞なら距離は近いのだが、動く敵と動かない敵とでは全く違う。


 5回のジャンプを経て、索敵部隊の発見した敵艦隊2万隻から約1光年離れた場所で陣形を整えた。

 基幹艦隊を中心として第87打撃艦隊と第229機動艦隊を左右斜め前に置いた。


 俗に言われる鶴翼の陣である。


 しかしこの距離ではまだトルーパーを出すことが出来ない。

 最終ジャンプで敵横方向1パーセクまで迫り一斉射撃後にトルーパーを放出する作戦である。



 「各艦隊に告げる、重戦闘艦を10列横隊にて砲艦と合わせての攻撃を仕掛ける。

ジャンプ直後に敵艦隊位置を算出、拡散射撃にて第一撃を加える。」


 バートン提督から戦闘準備の激が飛んだ。


 「いよいよか・・・」

 皆がそう思っているだろうことははっきりしていた。


 8万隻対2万隻である。最初に何割かを叩けば圧倒的優位な状態で戦闘を始めることが出来る。


 「最終ジャンプを開始せよ、ジャンプ後敵艦隊を確認次第全砲門一斉斉射!」



 ここにクラムラン惑星要塞奪還作戦が始まったのである。



 正確な座標にジャンプが成功し、レーダーにて敵艦隊を識別後最初の一撃が放たれた。


 数十万もの粒子砲が火を吹き、全艦隊が距離を詰めつつ二撃、三撃と攻撃を加えていく。

 完全に虚を突かれた敵艦隊は反撃してくるが、

粒子磁気バリアによって防御された艦隊にはほとんど被害は出ない。


 各トルーパーが順次発艦し、味方艦の粒子砲の外を突き進んでいく。


 距離が数十万kmに迫った時に実体弾とレールガンが放たれた。


 次々に轟沈してゆく敵艦の中トルーパーも距離を取りつつ攻撃を始める。


 瞬く間に2万の敵艦が数百の単位で沈んでいく。



 「敵トルーパー部隊発艦したもよう、機体数約1万。各トルーパー隊はこれを撃破せよ」

 第9艦隊旗艦グリフォンから通信が入る。


 攻撃用トルーパーだけでも6万機が出撃している。

 次々と砲艦や駆逐艦と共に敵トルーパーも沈んでいく。


 ここまででまだ1時間にも満たない戦闘時間である。


 「敵艦半数になりました、基幹艦隊を中心に殲滅戦に突入します。

先行するトルーパーは友軍の被弾に注意!」


 通信が入りほぼ無傷の8万隻が準亜光速突入を開始した。



 その時、スクオーラ提督が見ていたスクリーンに影が写った


 「なんだ!?」

 とキタムラ艦長がシュヴァイツァー大佐始めクルーゼ中佐、タム中佐の3名の参謀に訊いた。


 素早くシュヴァイツァー大佐が「艦影か?増援か?」とモニターに目をやる。


 「これは・・・敵後方に3万!フィールドジャンプで現れたようです」

とキタムラ艦長、スクオーラ提督に報告した。


 「3万隻と言うと例の混成艦隊か!?」


 スクオーラ提督が素早く反応し

 「グリフォンに連絡!新規部隊が出現。だ!」


 通信士官に言った。


 「提督、指示を!」とモニターに写ったバートン元帥に言うと

 「突入殲滅中止!短距離戦闘に切り替えて続行!」と全艦に響いた。



 「敵艦隊3万、亜光速航法にて本艦隊に向かってきます!敵トルーパー発艦したもよう、機体数は約5万!」

 とレーダー員が叫ぶ。


 スクオーラは

 「馬鹿な、ありえん早さだ、2時間もせずに20光年を移動してきたというのか!?」


 スクオーラは瞬間思考し

 「全チャンネルで通信せよ」と通信士に命じた。


 「我が艦隊は基幹艦隊から離れ側面を守る!第87艦隊の全トルーパー戦闘を行いつつ一時撤退準備、

帰還した機より順次補給後再度発艦し艦隊上方及び下方に待機!」

 命令を飛ばした。


 「友軍トルーパーを避けて敵打撃艦隊に再度全砲門発射、粒子砲、レイルガン、質量エネルギー弾、フレシェット弾全てだ!ここで片付ける!」



 光の尾を引きながらトルーパーが87艦隊の進路を開けるように戻ってくる。



 「今だ、全砲門斉射!」

 の声とともに光の帯やミサイルの噴射が前方を埋め、しばらくして敵艦隊の一部が崩れ去った。


 第9艦隊と第229艦隊も呼吸を合わせるかのように第87艦隊に従った。


 「今の攻撃で敵艦隊の80%が消滅しました。残存艦数4000です」

 レーダー士が報告を行った。


 「まだだ、無傷の3万隻が残っている、各艦及びトルーパー隊、

弾薬とエネルギー残量を再確認し次の戦闘に備えよ!」


 その時バートン元帥から連絡が入った。

 「敵後方の3万隻で我々8万隻に当たるつもりか?」と言った瞬間

 「我が艦隊直上1.5AUに新たな艦影、約2万隻です。」

 とレーダー士が言い

 「い、いや、基幹艦隊後方にも1万隻出現です!」


 スクオーラ提督は

 「何だと?要塞守備隊どころか惑星守備隊まで出してきたのか!?」

 少し焦り、気を静めるために一呼吸置いて


 「229艦隊ブレンディン提督に要請、基幹艦隊後方に布陣した敵を頼む、

我々87艦隊は直上の2万隻に当たる。

前方の3万隻はバートン提督にお願いしてよいでしょうか。」

 出来るだけ冷静に通信した。


 「新規敵艦隊全てからトルーパー発艦、基幹艦隊前方に2万、87艦隊直上に1万、基幹艦隊後方に1万です」

 とレーダー士から報告を受けた。


 「こんな用兵は聞いたことがないぞ、逐次投入による包囲陣形か、

待ち伏せにしても連携が取れすぎている・・・」

 スクオーラ提督は戦慄を覚えた。



 「やはり自由共和国軍は張り子の2万隻をまず叩きに来ましたな。」

 銀河共和国軍第27艦隊の上級参謀であるシュウ・ユキモト大佐がにやりと笑いながら言った。


 「うむ、老朽艦とドローントルーパーのみの艦隊に食いついたようだな」

 とナンセル・ワンダーク提督は表情を変えずに

 「しかしこれからだ、我々のプランの中にあの機動艦隊は含まれていなかったからな」

 と、そのよく通る声で言い


 「ともあれ、敵方のバートン元帥は冷静沈着ということだ、

あとは敵第87艦隊のスクオーラ提督と、例のブラックナイツだ。

正直戦いたく無い相手ではあったが仕方がないな」

 と続けた。


 するとユキモト大佐は

 「こちらにも相応の隊が有るではないですか、

奴らは今頃武者震いが止まらんでしょう」と口角を少し上げた。


 「では、作戦を開始しよう。全艦全砲門レイルガン連続発射。

準亜光速推進後巡航速度に減速。トルーパー部隊後続全機発艦後艦隊をゼロ距離に移動、体当たりしても構わん。」


 「流石に海兵隊の将軍らしい言葉ですな」とユキモト大佐は笑った。



 「敵艦隊がレイルガンを射出したようです」

 とグリフォンのレーダー士が報告した。


 バートン提督は

 「馬鹿な?友軍も破壊するつもりか!?X軸プラスに100km移動せよ」


 艦隊を機動運動させている中モニターには敵打撃艦隊の残存4000隻が次々に友軍に撃破されている様子が見えた。


 「やりよった・・・待てよ、あの艦隊は我が艦隊に攻撃されても反撃が少なかったな?2万隻のデコイか!」

 とバートンは机を叩いた。


 「こんなもの前例のない作戦だ、どんな精神の持ち主のアイデアだ・・・常軌を逸している」

 しかし、バートンは冷静になり迫ってくる3万隻の敵に神経を集中させることにした。


 「こちらも敵艦隊通過予測地点に対し全艦レイルガン発射、艦数の違いから考えて恐らくゼロ距離まで来るぞ、トルーパー予備部隊も含め全機発艦せよ艦隊戦装備だ」


 罠であったとしても戦力差はまだある。

 直上の敵には87艦隊があたってくれるだろう。

 背後の敵に対しても229艦隊に任せれば良い。


 「我が艦隊の敵は正面から迫る3万隻だ、奇策を使われたとて負けはせんわ」

 バートンは敵が次にどんな手段で攻撃してくるかを予想しようとしたが諦めた。


 定石通りで戦える相手ではない。



 同時に動き出した第87艦隊はX軸プラス直上の艦隊へと距離をじわりと縮めていた。

 「全艦砲撃開始、トルーパー部隊は予備部隊も合わせ全機出撃!」と号令した。

 敵の粒子砲は電磁粒子バリアで防げるが実体弾は防げない。


 堅い防御力を誇る重戦艦といえども無傷では済まず、小中破した鑑を後方に回し、入れ替えつつ短距離戦闘が始まった。


 攻撃型のパワードトルーパー部隊が先行し、既に戦闘は激しさを増していた。

 守備型のパワードトルーパーは艦隊に迫ってくる敵トルーパーと対峙し、また砲艦や駆逐艦が広範囲攻撃により何とか艦隊中央部に入り込まれることを阻止した。


 しかし

 「スクオーラ提督、敵トルーパー部隊と思われる約200機が高速で本艦隊に向かってきます。

かなりの速度です。」

 とレーダー士が報告した。


 「この距離でレーダーに映るほどのトルーパーか?まずは101連隊を向かわせろ、相手の正体が知りたい。



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