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第17話 「否オタクの親友 Cパート」

「アニメ見る奴って気持ち悪いよね~」

「あ、知ってる! オタクっていうんでしょ? それ!」

「…………」

「高岡君もそう思うよねぇ」

「え? ああ、確かにそうだね……」


 俺はニッコリと笑って、言った。


「オタクって本当に気持ち悪いよな」

「あはは! だよね!」


 とある女の子は本当に眩しいぐらいの笑顔だった。

 どうしてそこまで笑える?

 俺は自分のこと棚に上げて、そんな考えが頭を過った。

 ああ、いけない。顔に出てしまう。


「部活に入ってないやつは早く帰れよ~」


 先生があくびをしながら、そう言った。


「はーい!」


 女の子達は元気よく返事をした後、帰る支度をする。


「俺らも帰るか」

「そうだな」


 俺にはよく一緒に帰る友達がいた。固定ではないけど、そいつと帰ることはよくあった。

 今日も俺達はいつもの歩道を歩いていた。


「昨日さ、村井が言ってんだ」

「何を?」


 車がビュンビュンと風を切り、川の音がせせらぎが気分を落ち着かせる。


「お前はモテないって」


 友達が土手に降りて、石を拾った。


「そりゃあ……お前はモテないよ」

「おかしいだろ!? だって俺は雑誌見てるし、頭だってきっちりキメてるぜ?」


 友達が水面に石を投げつける。

 横から水平になるような投げ方だった。

 水切りを狙ったものだろうが、一回もバウンドせずにポチャリとむなしく沈む。


「そういうところがダメなんだよ」

「じゃあ、お前はどうだってんだ? ん? 高岡君よぉ」

「はは、俺も全然だよ」


 俺も石を投げたが、やっぱりバウンドしない。

 意外と難しいんだな。


「じゃあ……俺こっちだからさ」

「ああ、またなー」


 俺は手を振って、笑顔を振りまいて、振り返った。


「…………」


 何てつまらない日々なんだ。 

 面白くない。本当に面白くない。

 どうして周りに合わせて普通に生きなきゃいけないんだ?


「…………」


 川には俺が映っていた。

 ひどい顔で、死んだような目をしている。

 もし、この顔を見られたら、俺は皆の輪から外れるのかな。

 いや、俺はそこそこ人気がある。多分、「何かあったの?」なんて心配してくれるさ。


「高岡雅樹だな」


 突然、上から声がした。

 見上げると、堤防の上に座り込む男子生徒がいた。制服からして同じ学校だろうがこいつは知らない。


「……誰ですか?」


 俺はお決まりの笑顔で名を訊ねた。


「誰ですか、はねぇだろ。同じクラスだぞ?」


 同じクラス? ああ、そういえばいたな。


「高木雄介……だったっけ」


 あんまり関わらないから、忘れていた。


「おいおい、マジで知らなかったのかよ……まぁ、いいさ。本題に移ろう」


 雄介は立ち上がると、俺の近くに落ちてくる。


「お前、オタクなんだろ?」

「へ?」


 何だ、こいつは?


「……俺はオタクとかじゃないから」

「アニメ、見てるんだろ?」


 なぜ知ってる?

 学校で話したことないはずなのに、どうしてこんな奴が俺のことを。


「見てないよ」

「誤魔化す必要はないぞ。俺もオタクだし、お前のことを誰かに言うつもりもない」

「違うって言ってるだろ」

「わかるよ。会ったばかりで信用あるわけないもんな」


 どういう経緯で俺がアニメを見ていると思ったのか気になるところだが、これ以上踏み込めば学校での立場がなくなるかもしれない。


「じゃあ、こういうのはどうだ? お前はオタクじゃない。ただアニメが好きなだけの普通の高校生だ。アニメを見ているのを知ってるのは限られた人間だけってな」


 俺はスタスタと前へ進む。

 雄介は俺の前に回り込んで、手で俺を制した。


「お、おい! どこ行くんだよ」

「…………付き合ってられるか」


   *


 それ以降、雄介は俺に付きまとわり、俺もそれを拒むのは諦めていた。

 そして、なぜか遊ぶような仲になり、俺は今、雄介の家にいた。


「なぁ、アニメ見てるんだろ?」

「しつこいなぁ、見てないって」


 雄介はうんうんと唸ると何かを閃いたようにポンと手を叩いた。


「わかった! じゃあ、俺とアニメを見よう!」

「はい?」


 俺はカクンと首を傾げた。


「これな、面白いぞ」


 雄介が提示したアニメは〈ULB〉というアニメである。


「主人公はとても不幸なんだ。でもその不幸が力となって敵をバッタバッタと薙ぎ倒していくストーリーなわけだ」


 知ってるよ。何度も見てる。


「ただ、敵はもっと不幸な奴が出てきてな……」

「違う! 幸運な敵が出てきて窮地に陥るんだ! ちゃんと見ろ!」


 雄介はニタリと笑う。


「やっぱり、見てたんじゃないか」

「くっ! ぬぬぬぬぬ!」

「な? いい加減認めようぜ?」

「…………絶対嫌だ!」


 雄介はオレンジジュースをグラスに注いで、言った。


「まぁ、いいじゃん。オタクじゃなくてもアニメ見る奴はいるって」

「本当か?」

「ほら、子供がアニメ見ててもオタクなんて言わないだろ?」

「それはまた別だと思うが…………」


 俺は床に手を付いて天井を仰いだ。


「でも、そっか。アニメ見ててもオタクとは限らないんだな」

「ああ、そうだ。お前はアニメを見ててもオタクなんかじゃないさ」

「そうだよな! じゃあ……ULBを一話から見直すか!」

「おぅ!」


   *


 雄介と遊ぶことが多くなり、自然と周りも俺から離れていった。

 本当に何でだろうか?

 まあ、でもこれで良い気がした。

 今までよりもずっと充実している。

 学校が楽しいと感じたのは久しぶりだ。


「おはよう、雅樹」

「ん、おはよう、紅葉」


 どんどこ友達が減った俺だが、唯一離れない人がいた。幼馴染の紅葉である。


「何か用?」

「何だか嬉しそうね。いいことでもあった?」

「ああ、雄介と映画を見に行くんだ」

「雄介? ふーん、どんな映画見に行くのよ?」


 俺はフッと笑って、紅葉に言った。


「アニメの劇場版だよ」


   *


 俺は部屋でアニメを見ていた。かつて、雄介と初めて見た映画を。


「…………」

「侵食率100%……到達よ」


 俺は静かに立ち上がる。


「雄介……約束は守るよ」


 学校へ戻ろう。約束を守るために。

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