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第10話 「デスパレートこんでぃしょん Bパート」

 この学校には何のために存在するのかわからない空っぽの教室がある。たまに使われることがあるが普段はまず使わない。使うときでも、あるから使うか程度であって、なくても実は問題ない。

 そんな教室が今回の検査で使われていた。

 そうだ、アニメ講座もここでやるのがいいかもしれないな。いや、ダメか。確かここを使っている人がいたような気がする。


「…………」


 順番が近づき、俺は教室の中に入った。

 そこには明るい髪をした背の低い少女がいて、先程の橘という女もいた。

 バックには何やら特殊部隊といった雰囲気の人達も控えていた。顔を隠してるから性別もわからない。

 そして、部屋の中央には視力検査で使う覗き込む機械のような物が置かれていた。

 あれでウィルスがあるかわかるのか? 血液検査とかじゃないんだな。


「…………」


 なんか胡散臭さが一気に増したなぁ。本当に大丈夫なのか、この人達は。


「次は……菅谷鉄平君?」

「はい」


 俺の前の男子が台座に乗り機械の中を見る。一体何が映されてるんだろう? 

 俺はそわそわしながら終わるのを待った。

 やがて、女性の合成音声が流れる。


「シークエンス1グリーン、シークエンス2グリーン、シークエンス3グリーン、オールグリーン……侵食率グリーン、感染は確認できません」

「はい、次は高岡雅樹君ね」


 何だ、何だ! すごい未来的じゃないか! 柄にもなくテンションが上がってきたぞ。

 俺は事前に渡されていたカードを橘という女に渡す。

 橘という女はカードをジロジロと見て、俺を台座へ乗るように促す。

 

 台座に足を乗せて機械を覗き込むと、そこではアニメが映し出されていた。

 見たこともないアニメだ。もしかしたらこれ用に製作した物なのかもしれない。

 素晴らしいストーリーに俺はずんずんと引き込まれる。

 これは良作だ。テレビでも放送したらすごい人気が出るんじゃないか?

 もう終わりよ、と言われたような気がした。

 気のせいだ。

 アニメの続きを見なきゃ。 


「ハァ……ハァ、ハァハァ!」


 アニメから目が離せない。

 もっとこのアニメが見たい。

 この先が見たい!


「あ?」


 ブツりと音が断たれた。アニメも止まっていた。

 今いいところだったのに何だ? 故障か? ふざけんなよ。俺は感情のままにバンバンと機械を叩いた。 

 アニメが途中だというのに別の映像に切り替わる。

 いや、その先はただの黒い画面があるだけだった。つまりアニメを切られたんだ。


 そこで俺は自分が何をしていたのか思い返した。

 俺、何をやってんだ!?

 俺の耳にあの無機質な女性の声が響く。

 

「シークエンス1レッド、シークエンス2レッド、シークエンス3レッド、オールレッド……侵食率レッド、感染の可能性が高いです。直ちに確保してください」

「な……何だよ、これ!?」

「確保」


 橘という女の声がした。ひどく事務的な声だった。

 俺は白い特殊スーツを着込んだ人達に押さえこまれる。

 身じろぎも出来ない。その道のプロということだろうか。


「ぐっ!! 何をする……!」

「高岡君、申し訳ないけど我々と来てちょうだい」

「あんた達が何者かは知らないが、こんなことしていいと思ってるのか!?」


 橘という女が顔をそばに寄せて囁いた。全くときめかないな。


「いいのよ。我々はそれだけの権限をこの国から与えられている。この国の中枢といったところね」

「中枢だと?」

「説明は搬送先でするわ」

「説明? 期待できないな。あんたの説明は色々と足りてない」

「なかなか鋭い子なのね。安心して……あっちでなら、あなたの望む説明をしてあげる。だから、大人しく付いて来て?」

「どうせ逃げられないだろっ!」

「それでいいのよ。さっ、行くわよ。霜月、後はお願いね」

「了解しましたー!」


 霜月と呼ばれた少女は元気のいい返事と共に敬礼を送った。

 軽いな。あんなんでいいのか?

 人の心配なんかしてる場合じゃないよな。俺、これからどうなるんだ?

 俺は無理やり立たされ、犯罪者のように特殊スーツの人に囲まれて連行されている。

 当然、多くの生徒が奇異の目で俺を見ていた。

 ううっ、居心地悪いな。何で俺がこんな目に?


「あれ、何?」

「感染してたんだって」

「いやぁ……私、うつされてないかな?」

「大丈夫っしょ。あんなオタクに近づく人はそうそういないから」

「…………」


 見慣れた二年生の列から見慣れない三年生の列の横を通り過ぎていく。

 誰もしらない。先輩だらけの列。そんな中に見慣れた人間を俺は見つけたんだ。


「あ……先輩」

「あれ、高岡君? どこ行くの?」


 涼香先輩は口元を手で覆い、驚いていた。そりゃあそうだよな。友達が知らない人達に連れてかれてたら俺でも驚く。


「俺にもどこかまでは……ウィルスに感染していたとかで……」

「大丈夫なの?」

「わかりません」

「また会えるよね? 高岡君がいなくなったら私…………」


 涼香先輩、そんな悲しそうな顔をしないでください。自由になるという保障がなくても言ってしまいたくなるじゃないですか。


「絶対! 絶対俺は……っう!?」


 橘という女が俺の体をグイッと引っ張り、耳元で囁く。


「彼女さん? 可愛い子ね。悪いけど感染拡大しないためにも、これ以上の接触は禁止よ」

「くっ……!」

「ああ、そうそう。もうこの学校に戻ってくることはないだろうから、覚悟しておきなさい」

「何だって!?」


 そんな……せっかく涼香先輩と仲良くなったのに。これで終わりなのか。こんなことで。

 嫌だ。そんなの認められない。諦められない!


「先輩、先輩!」


 俺は無我夢中に手を伸ばした。

 涼香先輩の隣に後藤先輩がいた。クラスが違うはずなのに、なぜこの人がここにいるんだろう?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 手が届くように、と俺は精一杯前に出る。当然、そんなことに意味があるはずもなく、特殊スーツの人に押さえられた。

 これは、もうダメだな。

 涼香先輩に聞こえるように俺は声を届けた。


「……先輩、最後に会えて良かったです」

「高岡君!?」


 その言葉を最後に涼香先輩の姿は見えなくなった。

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