紅き髪の戦乙女ビクトリアを黒騎士、魔王ダンテは剣舞へと誘う。
紅蓮の炎を吐きながら夜空を悠然と飛ぶ漆黒の大魔龍
その背には黒く光る鎧で装った若き騎士の姿。
傍らでは、小刻みに体を震わせるパトリシア姫がうずくまっていた。
ドラゴンを追う聖堂騎士団の一人が馬上から矢を射ようと弓を構えた。
その様子を見ていた後方の、一人が彼に声を掛けた。
『矢を射るでない!!』
『龍の上には姫もいるのだぞ!!』
その声にしなった弓を緩める騎士。
『くっ!』
『口惜しい!』
『聖堂騎士団ともあろう者が、あのような青二才の黒騎士一人に翻弄されるとは…………』
黒騎士とパトリシアを乗せたドラゴンはセボナ山へ降りていった。
セボナ山の頂上には、今は廃墟となった古都サラマンドの城があった。
空飛ぶ白馬サモトラケのペガサスが美女騎士ビクトリアを背にして後を追って行く。
サラマンド城を包み込む深い霧がペガサスの視界を遮る。
城壁の一角に降り立ったペガサスの鬣を優しく撫でて辺りを見回すビクトリア。
不気味な静寂が霧に包まれた城壁の長い通路を満たしていた。
ペガサスの背から降り剣を抜いて声高に姫の名を叫ぶビクトリア。
『パトリシア姫ーーー!!』
『いずこに、おられますかーーー!!』
『ビクトリアが、お助けに参りましたーーー!!』
虚しく彼女の声だけが廃墟の城に木霊する。
すると、どこからもとなく、ゆっくりとした足取りの靴音が聞こえてきた。
霧に霞んで、はっきりと姿を見ることはができないが……
どうやら、パトリシア姫でないことは理解できた。
霧の中で月の明かりを受けて剣と鎧が光を放っている。
霧の中の人物が、口を開きビクトリアに話し掛けた。
『護国の神馬に跨がる汝は何者だ……』
『見たところ……王ではなさそうだが。』
異様に長い剣を肩に乗せ次第に姿を現す若き黒騎士。
『この黒騎士に、一人で挑もうとは……』
『身の程知らずも、ここまでくると勇者と呼ばねばならぬのう……』
ビクトリアは、黒騎士の姿にたじろぐこともなく強い調子で言い放った。
『私の名はビクトリア.バレンタイン!!』
『パトリシア姫を、速やかに我が方へ返すがよい!!』
『さすれば、お前の命までは取らぬと約束する!!』
これを聞いた黒騎士は声高に笑い声を上げた。
『アハハハハハ………………』
『面白いことを言う娘だ。』
『気に入ったぞ!』
『そなたが……今、王国で評判の紅き髪の戦乙女であったか。』
『お前の、その自信のほどを我に見せてみよ!!』
『久しく名乗りなど、やっておらなんだが……そちらが名乗ったからには名乗らねばならんのう。』
『わが名は暗黒の魔王、ダンテ。』
『さぁ……』
『紅き髪の戦乙女ビクトリアよ!!』
『我と剣のワルツを踊らん!!』