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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第一章 途方もなく恨まれた人と小磯良
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乗客

「波旗さんも乗っていたんですか? この列車に」


「うん。招待状が届いちゃってね。七号車なの。よろしくね~。うふふ」


 響鬼野さんは首をかしげた。


「小磯くん。私は招待状を持っていないんですが……ここに乗っていて良いんでしょうか?」


「いいんだよ。僕だって招待状を持っていないぞ。当然だ!」


「でも……」


 響鬼野さんは浮かない顔をした。


「歩いている人たち、みんな招待状を持っているんですよ……」


 今度は僕が硬直する番だった。なんだと。確かにみんな豪奢な赤い招待状を手にしていた。


「もしかして、僕ら部外者? 疎外されている? 何の団体の集まりなんだ、この列車は!」


 ふてぶてしい金髪アフロが僕たちの前にやって来た。


「俺は司法法一。招待状ぐらい持たねえと人間、ダメだぜ? 若造が。こんな所でご馳走を食えるなんてきっと一生に一回だ。なに食うかな」


 ごちそうなど何回でも食べ放題の僕は口をつぐんだ。野暮なことは言わないでおこう。

 響鬼野さんは笑顔で僕を見た。


「小磯くんはお金が有り余っているんですよ。奢ってもらえばいいですよ」


「いやいや、大人はプライドがあるから嫌がるよ、そういうのは。あっちに行こう」


 金髪おしゃれアフロは僕に叫んだ。


「神様に魂を売るから金を分けてくれえええええ! どうかー!」


「金髪でアフロなんて四十代で毛根が死ぬぞ! 自殺行為だ!」


 司法さんは大仰な溜息を吐いた。


「辛辣な小僧だな。どうせ、親のすねでもかじってんだろうがよ!」


「僕はこう見えて、音楽プロデューサーだ」


 見栄をはっておいた。


「おお、聞いてやるよ。どんな音楽だ。歌ってみろ!」


 僕は新たに作った僕らのテーマ曲を口ずさんだ。正月の音楽のような和風音楽だった。


「それで売れるかっての! へぼい音楽歌いやがってよ。流行んねえんだよ!」


 響鬼野さんは首をかしげた。


「小磯くんはへぼプロデューサーだけではないみたいですよ。なにをかくそうは高名な占い師なのですよ」


司法さんはしばらく考えた。


「小磯ってあの……四柱推命、姓名判断、星占いに、人相手相、算命術の小磯良か?」


「まあ……そうです、その小磯です」


「すっげー! 会いたかった!」


 金髪アフロに抱きしめられた。そんなに有名だったのか、僕は。


「小磯様になら見てもらっても良いな。ついでに俺の手相、見てくれや」


「僕は僕らの音楽を聞きに来てくれた人しかみないんで。後、ネットの会員」


「友達になろうよ、小磯先生~」


 変わり身の早い男だった。跪いて合掌された。プライドは無いのか!


「俺、競馬が得意で、しょぼい当たりばっかりなんだよ。ガツンといつ来る?」


「働け」


 占うまでもなかった。


「その人相、あんたの金運は生真面目コツコツ派。ギャンブル運はない!」


「小磯様のあほー!」


 司法さんはすごすごと去っていく。少し、言いすぎただろうか。


「あの人は四号室だって~」


 波旗さんはキャンディーをくわえた。波旗さんは僕の古い知り合いだ。


「私は七号室だよ~。お嬢ちゃんは?」


「わ、私ですか?」


 響鬼野さんは慌てた。


「六号室です」


「後でご飯を一緒に食べに行こうね~。ダイニングは三号車らしいよ~。ラウンジは九号車だって。よろしくね~」


「は、はい!」


 響鬼野さんは僕を見た。


「知り合いなの? 波旗さんと……」


「うん。まあね。彼女は大学の研究院生だよ」


「その割に随分……。私よりも年下に見えたよ。背もちっちゃくってコロボックルみたいで可愛かったですよ~」


 僕は渋い顔をした。


「波旗さんは美魔法少女なんだよ」


「それは何ですか? 聞いたことないですよ!」


「美魔女のもっと若いバージョンだ。あれで二十三才なんだから……気の毒だ。もっと色々欲しかったろうな」


「身長ですか?」


「いいや、身体の曲線の話だ」


「小磯くんは大学院生をなんだと思っているんですか!」


「いいや、本人がこの前の誕生日に欲しがってな……僕はやめとけと言ったんだが」


「何をしたんですか?」


「美しい身体の曲線を求めて相撲部の連中と戦ったらしい。それで勝ってしまったのだからたちが悪い。相撲部は解散するそうだ」


「見かけは人によらないですね」


「日本語が間違っているぞ。プチセレブ! 見かけによらないのは、アレであの人……」


 残念な癖に頭が良いんだよ。若くして薬品学の権威の癖にその管理はどうでもいいと思っている人なので危険人物だ。いつも大量の薬品を持ち歩き、危ないことこの上ない。そしてその管理もずさんときている。ずさんすぎて、皆、そんな危険物を持ち歩いているとすら気がつかないほどだ。それが幸いと言えば幸いだ。


そう説明したら、響鬼野さんは。


「波旗さんって危険物なんですね。取り扱いには免許が必要ですね」


と、妙に感心して見せた。俺は声をひそめる。


「あの人の所為で何度危ない目に会ったことか。僕は辟易しているぞ」


 響鬼野さんは不思議そうな顔をした。


「どうして? どうして危ない目に会うんですか?」


「それはあの人が料理好きだからだよ。薬品の整えられた部屋で作られたドーナツなんて食べる気が失せる代物、第一位だ。その粉砂糖は本当に粉砂糖なのかよく考えろ!」


「謎の粉が振るってあるんだね!」


「その通りだ! ホウ酸ドーナツなんか食えるかー!」


 勿論ゴキブリの餌になりましたとさ。


 僕たちが三号車の通路で盛り上がっていると、大人の女の人が近寄ってきた。


 波旗さんも大人だがあの人は例外なので除外しておく。


「あんたたち邪魔だ。もっと端っこに寄れ」


 宝塚の男役のように、身長が高く、気高い女の人だった。

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