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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
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信用する

「響鬼野さんも容疑者に入るか? まさか響鬼野さんが……って落ちは無いんだろうな?」


「入らないに決まってんだろ。俺を信じろ!」


「お前のことはわからないけど、響鬼野さんは……信用する」


 鬼野は楽しそうな顔をした。


「そうこなくっちゃ」


 僕が選んだ探偵を疑う事は本末転倒である。よってその可能性をここで外した。


「死亡推定時刻が九時だとする理由について」


「ああ、それは簡単だ。食堂の仕事仲間から、波隠に――ウエイトレスの名前だ。偽名だった――に連絡が入った。早くシフトに戻れと。で、その電話の最中に苦しみ出したそうだからほぼ間違いない」


「なら、毒なのか? 刺殺僕殺の可能性は?」


「俺は毒に詳しくないんだ。さっき、生命反応の話をしたが、刺殺僕殺に関しては、ダミーか、工作か……直接の死因じゃないみたいだ。正直、俺の読みは当たっていると思うぜ?」


「自信満々だな。じゃあ、やはり毒殺なのか……?」


「ワインに毒、だろうな」


「なら、早く謎を解かないと……この列車が止まる前に」


 じゃないと奴らが。


「何を焦る必要がある? 腐れ、駅に着いて鑑識に調べて貰えばいいだろうが」


「そうはいかない」


 僕は答える。僕の想像通りなら……。


「リドルは旅人を食うんだ……謎を解けなかった旅人を。この列車から降りる時、恐らく僕らはもうこの世にいない」


「おいおい、冗談だろう?」


 大げさにおどけて見せる鬼野の隣で僕は首を振った。


「冗談じゃないんだよ。最近の神隠し事件はみんな、そんな風な結末を迎えているそうだ。謎解き機関の諜報員を巻き込んで……ごっそりいなくなっている。僕は急募に答えた善意の一般市民だよ」


「そりゃ笑えねえな。俺は安全な所で、高みの見物をしているつもりでいたが、そうもいかねえのか。おもしろくなってきやがった。くくく」


 不謹慎な奴だ。


「解ったら、ここで謎を解け。なんだったら、波旗さんを連れて来て、毒の検証を……」


「波旗は何号車だ?」


「七号」


「近いな」


「疑うのか? あの人は白だ!」


「理由は?」


「……いい人だから?」


「それじゃあ外せない。あいつは何時までトランプをしていた」


「八時まで。その後、僕としばらく会話をした」


「どんな会話を?」


「学校の話だよ。どんな進路に進むのかとか、将来の話とか、夢とか。あいつは僕のお姉さん気取りなんだよ。困った奴だ」


「で、波旗はその後、何を?」


「響鬼野さんとお菓子を食べていたじゃないか。覚えてないのか?」


「ああ、そうか、そうだったな。あはは。それは白だな!」


 鬼野は焦ったそぶりで溜息を吐いた。ATMから情報を引き出しているらしい。


「俺も菓子を食べたかったぜ。巨大マカロンを一口で喰いたいもんだ」


「顔が崩れるぞ。響鬼野さんが色々食べたんだから我慢しろ」


「……クソ。味覚の共有が出来たらよかったのに」


「お菓子ぐらいでへこむなよ、名探偵」


「俺に奢れ」


「腐れだなんていう人におごるお菓子はありませんが何か?」


 鬼野は意地悪な顔になった。


「それじゃあ、波旗を連れてこいよ。たっぷり毒の話をしようぜ」


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 波旗さんは白衣に袖を通すと死体に手を合わせ、その前にしゃがみこんだ。


「調べてもいいのかい?」


「当然だ」


 鬼野は波旗さんの前でも大活躍だった。現れっぱなしだった。引っ込む気配が無かった。


「さっさと、判別しろ、のんびり女。イライラするんだよ」


 鬼野の暴言に、波旗さんは大仰な溜息を吐いた。


「失敬だな。どうしちゃったの? 響鬼野ちゃん? 虫の居所が悪いの? そう言えば小磯くん、このウエイトレスは猫のバッチをつけていたよね。あれが事件と何か関係あるんじゃないかな~? 無くなっているよ~」


「そう言えばそうだったけ……?」


 そんな物あっただろうか? 良く見ていないな……。


「あれはエジプトの神かな~?」


「エジプトの何かか……なるほどな」


 鬼野はしばらく考え込むと溜息を吐いた。


「まあ、とにかくだ。波旗、何の毒で死んだか判別してくれ。よろしく頼むよ」


「うーん、はっきりとしたことは言えないけど。この毒はアルカロイドの一種、ストリキニーネかな? ミステリーでは有名な毒だよね。少量なら胃薬に使われたりする奴だよ」


「なんでそんな事が言える」


 鬼野は疑いのまなざしで、波旗さんを見る。


「私が毒を間違えるはずがないじゃないか。この探偵さんは瞳孔が開いて笑った表情で死んでいる。ストリキニーネは脊髄を麻痺させる効力があるアルカロイド系の薬だよ。ミステリー小説によく登場するポピュラーな毒だよ。アルコールに溶けやすい性質も持つから……八十六パーセントの確率で間違いないさ」


「じゃあやっぱり、この飲みかけのワインが……」


 波旗さんは首をかしげた。


「それはないんじゃないかな。致死量のストリキニーネが入ったそんな苦いワインなんて……誰も飲まないと思うよ? 飲み干す前にポイポイだよ」


「じゃあ、この人は苦いのを解っていて自分で毒を飲んだって言うのか?」


「もしくは寝ている間に飲まされたとか~? 苦さをあまり感じなかったとか?」


 僕は唸った。


「でも電話中だったんだぞ。被害者が苦しみ出したのは」


「じゃあ、カプセルとかかな。もしくは胃が悪かったとか? なんにせよ、最寄りの駅で、警察に調べて貰った方がいいよ」


 鬼野は厳しい顔で僕らの会話を聞いている。


「次、五反田に話を聞くぞ!」

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