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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
30/37

余興

「ブラインドネスのプロデューサー幸運P……? お前、そのまんまだな」


「これが僕の今の二つ名だよ。今は色々あって、僕は謎解き機関に所属している」


「噂には聞いたことがあるぜ。謎解きのエキスパート集団。謎解き機関。各界の著名人が秘密裏に集い、陰ながらリドルと戦っているってな」


「詳しいんだな」


「ネットの掲示板に書いてあった。来夢の記憶を探ればこれくらい、昼寝の後の夕飯前だぜ」


「ずいぶん気楽なんだな」


「美春ともそこで出会ったのか?」


 唐突な質問に、僕は憮然とした。油断させて自分の本当に知りたい事を聞きだそうとする鬼野特有の話術に思えた。


「おいおい小磯、怒るなよ。だんまりかよ。胆の小さい奴だなあ。人の恋愛話なんて楽しいじゃないか。俺はそう言うのを詮索するのが大好きなのさ。探偵だから仕方ない」


「探偵は理由にならないだろう? ただの君の趣味だろう」


 僕は声を硬くした。


「腐れは馬鹿か? 探偵は普段浮気調査をしている。人の恋愛話が好きでないと務まらないんだぜ。仕方ないだろ」


「僕は……腐れじゃない。僕は……探偵になりたかった。でもなれなかったんだ」


 誰が美春を殺したか、突き止められなかった。座敷牢の中であんなに一緒にいたのに。

君を世界に送り出したのに。だから僕は運命を呪った。参上アリスと出会う前に出会った少女、美春。


「僕は三日前、謎解き機関に入った。謎を解くために。これは潜入訓練。悲劇がおこりそうな場所に潜入し謎を解決する訓練。この乗客の中から犯人を探し出して、ここで起こるリドルの事件を解決することが謎解き機関に所属する僕の使命だ。それが謎解き機関から与えられた僕の最初の仕事なんだ。邪魔するな!」


 認められるか認められないかの瀬戸際に僕はいる。この試練で、僕は役に立つか立たないか、振るい分けられる。


「なんだ。やっぱりお前はもと妖精『幸運』もどきかよ?」


「今は人間だ」


 僕はそう名乗った。そう名乗るしかなかった。


「大人になったピーターパンよりも役に立たない存在だよ。僕は……妖精『幸運』崩れだ」


 ただの少年になりつつある。今の僕は……脆い存在だ。

 鬼野は僕の冷たい頬に触れた。


「なるほど、道理で良い面をして居やがる。いいぜ。俺がここで謎を解いてやる。今度は冗談じゃない。本気だ」


「冗談だったのか……最悪だ……」


「お前の占いじゃ……来夢はもうすぐ死ぬんだろう? ならさ。俺に幸運を分けてくれよ。俺も甘い物が好きなんだ。長生きさせろよ、腐れ」


 鬼野はそう言って八号車B室に置いてあったイチゴのマカロンをパクリと食べた。


「解った。僕は君に生き残るために努力すべき時期を教えよう。だから君は僕の持ってきた謎を解くんだ」


「謎って何だよ」


「一人の少女の事件を解決して欲しい」


「へえ、そんなんでいいのか。だがここのウエイトレスの事件はどうするんだ? お前、犯人になっちまうぜ?」


「それも解く。僕は犯人と言う人種が嫌いだ。大嫌いだ! 憎くて憎くてしょうがない!」


 鬼野は射抜くような目で僕を見た。


「へえ、加害者も被害者も、危ういバランスの上に俺は居ると思うぜ。ヤジロベエって知っているか? お前は今、危ないラインにいるんじゃねえのか。右が加害者で左は被害者なんて線引きなんてどこにもありゃあしないんだよ。あるのは上か下か。やり過ぎると、お前もやつらとおんなじになるぜ? お前の面は加害者の面だ。誰かを殺したいほど憎んでいる。だが、俺は全ての犯人に厳しいぜ。覚えておくと良い。腐れ」


「わきまえておくよ。僕は、彼女の謎を解くまで……被害者だ」


「なら聞きこみを始めようじゃないか? お前は死体と楽しくデートでもしていろ。俺は聞きこんで来る。探偵だからな」


 僕らの捜査はそんな風に始まった。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 時計も真夜中を過ぎた数時間後、鬼野は僕の所に帰ってきた。僕は眠れないし、恐いし、この部屋で震えていたというのに、鬼野は優雅に菓子をつまんでいた。今度はカヌレを食べている。ああ……。


「何をやっているんだ」


「色々と聞きこんできたぞ。腐れ。お前は何をしていた?」


「僕は震えていたよ! 当然だろ!」


 鬼野は高いスルースキルを持っていた。最悪だ。


「この八号車は、ラウンジ車に繋がっている。ラウンジ車では殺害時刻の九時に車掌がうろついていた。九号車の……ラウンジの天井の電球が切れたからだ。ラウンジの向こうに十、十一号車がある。ここは列車の風景を楽しむための特別室になっていたらしい。聞きたいことは?」


「車掌の証言は白か黒か?」


「白だ。なにもおかしな所はなかった。当然だ。車掌は、何年もこの列車に乗るために訓練されたその道のエキスパート。そんな車掌が、無計画に乗客を殴り倒す……刺す……毒殺なんかすると思うか?」


「しないだろうな。よっぽどのことが無い限り」


「ああ。だって損じゃないか? このご時世、高級寝台列車でいまわしい事件が起きたら、食いっぱぐれるってもんだぜ、それに」


「それに?」


「一番に疑われるのは車掌だぞ。どんな場所にも行き来ができるんだ。勿論、質問責めにしたとも。けれど、みんなに目撃されていて、何かする暇なんてなかったみたいだぜ」


「みんなが嘘をついている可能性は?」


「それはない。この列車にはお前を含め、三十人の乗客が乗っているが、ほとんどが赤い招待状を貰って来た連中で出身もバラバラ。スイートルームは老夫婦が多く、奴等には動機も、今日会ったばかりの車掌を庇う理由もなにも無いんだからな」


「じゃあ、車掌の線は消えるわけか」


「九時ごろにはラウンジにたくさんの人が集まっていた。来夢たちと入れ違いに、談話を楽しんでいた。九号車から後ろの車両の人間に犯行は不可能だ。なにせ、みんな、前の車両には行かなかったんだからな」


「どうしてそんな事が言える?」


「余興があったんだよ。あの後。ビンゴでプレゼントが貰えるってイベントだ。同時刻、五号車ではクレーム騒ぎがあって、乗務員が対応していたから、あの時間に八号車近辺をうろついていたのはお前を含め、来夢たち六人だけだよ」

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