リドル
「さて。なら、そろそろ私服に着替えるか」
鬼野さんは響鬼野さんの鞄の中から、着替えを取り出した。
「今から、俺の服に着替える。お前はそのイヤラシイ目を閉じていろ。いいな」
僕は言われるがままに目を閉じた。
「鬼野さん。どうして、響鬼野さんは僕をここに……」
鬼野さんは上着を脱いだようだった。
「それはお前、簡単な事さ。犯人をここに監禁しておけば、第二、第三の事件は起こらないだろう?」
「それは僕が犯人だった場合だろう?」
「そうだ。それに推理が外れていても、もう一つメリットがある。犯人はお前が間違って捕まった方が都合いいと思っているはず。お前が全て罪をかぶってくれるんだからな。こんなに素晴らしいことはない。その可能性も捨てきれない。その場合こうしておけば、本当の犯人がぼろを出す可能性がある」
そうだ、本当の犯人がいるんだ。
「僕を信じてくるのか?」
「いいや、お前を容疑者からはずすにはまだ状況証拠が足りない。調べるしかないな。お前はそこでしばられて悶えていろ」
響鬼野さんの温かいスカートが縛られた僕に飛んできた。これは何の輪投げなのだろうか?
僕は目を閉じたまま叫ぶ。
「僕は犯人じゃないんだ!」
「わかんねえよ。来夢が優れているのは観察力だ。推理するのは俺の仕事だが……俺はまだ現場をよく見ていない。来夢は血が嫌いなんだ。当然と言えば当然だがな。今のところ、誰が犯人かなんてわからないし、お前が犯人じゃないとも言い切れない。だからお前をここに監禁したんだぜ、腐れ! お前は白か黒か!」
彼女は僕の喉首に触れた。
「何をする!」
僕は思わず目を開いた。
眼の前に、響鬼野さんの控えめな胸があった。綺麗な胸だった。黒いブラジャーの紐が見えた。
「どうも初めまして、小磯です」
「この腐れがー! 変な場面で自己紹介するんじゃねえ!」
「僕は変身中の正義の味方を写真に撮って平日に戦いを挑むような……そんな悪人になるのが目標です!」
「腐れ!」
僕は殴られて撃沈した……。
「なにをするんだ!?」
「お前が何をするんだ~!? この腐れドアホが!」
鬼野は連続パンチで僕を殴り捨てたのだった。ああ、無情。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数時間後、僕はよれよれになっていた。気を失わなかったからだ。さんざん殴られた。
もうボロボロだ。鬼野さんはハンチング帽をかぶり探偵のような服装で立っていた。
「行くぞ、腐れ。まずは気分から入らないとな。ゾクゾクするぜ」
僕らは列車の廊下を歩く。色んな人が僕らを見ている。縛られた僕と変な格好の鬼野。
哀しい。
「君って、少し酷くないか?」
「酷いのはお前だ。俺はあの時お前を試していたんだぞ。いい奴か悪い奴か。そしてお前は俺の下着を見るべく目を開いた。クロだ」
「君のパンツの色か?」
僕は投げられて床に倒れた。
「黒は喪服の色だ!」
「不可抗力だ! 元はと言えば君が僕の首を絞めるから!」
「彼らの仕掛け虫がいないかどうか調べていたんだぞ!」
イタタタ。良くわからないキレ方をされた。ブラが黒だったから、パンツも黒だと思っただけなのだが。
「てめえは邪悪が身体からにじみ出しているんだよ!」
「そうだろうか?」
「そうなんだよ!」
鬼野は僕を拘束した腕を握りしめて歩く。とても女の子の力とは思えない。
「現場に行くぞ。現場は保存してある。この列車の車掌がな」
鬼野は僕に探偵バッチを見せた。バッテンの傷がついていて……古びた勲章のようだった。
「探偵ライセンス。九五一〇響鬼野……当夜?」
「来夢の親父のライセンスだが、それがここで役に立つようだぜ。これでこの列車で捜査ができる。楽しいなあ」
「捜査って、名探偵はもうこの世にはいなくて、響鬼野さんは名探偵になりたくないんだろう? たとえ死んだとしても?」
響鬼野さんの固い決意を鬼野は踏みにじろうとてもいうのだろうか?
「なんだよ、腐れ。それがどうした。早く謎を解かないと、ここにリドルが来るぞ」
「……それを誰から聞いたんだ?」
僕はとても驚いて……鬼野はそんな僕に不審の目を向けた。
「当然だ。来夢の父親だよ。あれの父親が死ぬ時にそう言ったそうだ。赤い招待状のあるところにリドルが来るってな。来夢にとってリドルは因縁の相手なんだ」
僕は呆然と、鬼野が語るリドルの話を聞いた。