表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第五章 私とお兄ちゃん 参上アリス
18/37

空虚

 小磯はこれで夜会は終わりだと言ったわ。

 時計は夜八時をまわっていた。私を気遣っての配慮なら要らないと思った。

 けれど、恐らくそうなのだ。彼の目が優しかった。そんな優しさはいらないのに。


「トランプはここまで、後は各自解散」


「早すぎない~?」


 波旗は残念そうに呟き、対照的に響鬼野はほっとしたようだった。


「良いか波旗さん! 僕は時間通り眠らないと人格が崩壊してしまうんだ。どうなっても知らんぞ。僕を寝かせろ!」


「それはちょっと見てみたいですよ、小磯先輩!」


 響鬼野が相変わらず馬鹿な発言をしている。私は蔑む目で小磯を見つめた。


「なに? 僕の顔に何かついているのか?」


「お前は私の兄に似ているのよ……顔だけね」


「アリスちゃん、お兄さんがいたの?」


 響鬼野……この女。


「なれなれしいわね」


 小磯は部屋の鍵を手に立ち上がる。


「人違いだよ? 僕は天涯孤独の身の上だし……」


「当然よ。私の兄はもっと清楚で美系で頭の中が図書館な天才肌よ! 口から吐いた怪音波でミサイルだって落とせるんだから!! 超人なのよ!」


「凄いね~。美化されているんだね」


 響鬼野の反応がおかしいわ!

 小磯は私の熱を測った。


「壮絶な兄貴だな!」


「最後のは冗談に決まっているじゃない! 馬鹿じゃないの!」


「馬鹿で悪かったな……」


 私は言葉に詰まった。


「……その壮絶な兄貴にあなたが似ているのよ。不本意ながらね!」


「僕が?」


「仕草とか、ふとした表情が……まあこれは言ってもしょうがない事なのだけれど……」


 小磯は鼻を膨らませた。


「なら、今日からぼくが兄貴だ。一万円やるから、ついて来い! 引き算を教えてやるぞ!」


「死ね、小磯!」


 私はトランプを小磯に投げつけた。馬鹿ばかりで反吐が出るわ。


「あんたなんか大嫌い。二番目に八つ裂きにしてやる!」


 小磯は深刻な顔をした。


「ひょっとして一番目がいたのかな?」


 その空虚な目はいなくなった兄を彷彿とさせた。


「いるに決まっているでしょう?」


「なら一番目を殺したら、僕を殺しにくるといい。待っている」


「当然でしょう!」


 私は駆けだした。駈け出して、走って、走って、三号車に辿り着いた。


 私は泣いていた。


「お兄ちゃん。お兄ちゃん」


 そっくりな人を見たから懐かしさに胸が潰れそうになった。


 愛しさに胸が潰れそうになった。


「お兄ちゃん。どうして私を連れて行ってくれなかったの!」


 私が歪んだのはお兄ちゃんの所為で、私は……私はこの世界に捨てられた。


 お兄ちゃんに捨てられた。

 もう会えない。


 私は涙する。


「お兄ちゃん迎えに来て!」


 兄はきっと来ない。もう来ない気がする。この招待状は参上の家に届いた兄宛の招待状だったというのに。きっとここに兄が来るに違いないのに。


 一時間くらい泣いていた。用事を済ませて自室に帰ってきて……。

 その時、知らないアドレスから携帯に知らせが届いた。


 小磯が殺人事件に巻き込まれて、その容疑者になったのだと、そう告げられた。


 私は愕然とその画面を見つめ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ