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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第五章 私とお兄ちゃん 参上アリス
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アリス参上

私とお兄ちゃん 参上アリス


 アリス参上。言わずと知れた私のあだ名よ。迷惑よね。迷惑ついでに言った奴は豆腐の平たい所に頭をぶつけて豆腐の汁が目に入ってのたうちまわってくれないかしら。くくく。


 このあだ名の所為でいつも迷惑をしているのよ。特に英語の授業。

 参上はおじさん、いいえ、お父様から貰った名前。ださくて素敵な名前だったわ。

 私みたいに可愛いと名前をくれる人がいるの。


 素敵よね。


 アリスは自分で名付けたわ。青い目のアリス。ぴったりだと思ったのよ。


 昔の私には何もなかったから、父から貰った名前は、私を浮かれさせるに十分だった。

 ああでも、時々、アリス参上なんて言われると、やっぱり嫌な気持ちになるけどね。


 お風呂でゆっくりとゆでた後、裏ごししてやりたくなるけどね。

 講演の女王と言っても、私はただの中学生に過ぎない。


 だけど私は寛大よ。今は大人に流されてあげる姿勢をとることに決めたの。

 そうすることで、大人と対等に渡り合う事ができる。


 そんな私にも思い通りにならないものがある。

 お兄ちゃんだ。

 私は血のつながらないお兄ちゃんが好きだった。


 でもお兄ちゃんはお父様と喧嘩をしてどこかへ行ってしまった。

 私はお兄ちゃんを捜している……ずっとずっと捜している。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 ラウンジ車に集まりテーブルを陣取って、お菓子をつまみながらたわいのないババ抜きをする。本当にたわいもないわ。くくく。


 挑戦者がゴミのようね。私は強運なのよ。お兄ちゃんと出会ってから。


「私ほどの存在になると、カードの裏の裏が読めるのよ」


 そう呟いたら、響鬼野が本当に感心した。


「すごいね~。アリスちゃん。千里眼だね」


 千里眼なら、もうとっくにお兄ちゃんを見つけている。


「馬鹿にしないで頂戴。刺し殺すわよ」


「難しい言葉を知っているんだね。偉いね。よしよし。エロいですね~」


「偉いって言いたいんでしょ!?」


 殺意が湧いた。五反田さんが溜息を吐く。


「子供が子供扱いをするのは感心しないぞ、響鬼野」


「はい。申し訳ない所存なのです!」


 響鬼野。そうよ、私にかしずくといいわ。


「それから」


 勝ち誇った私に五反田はこう言った。


「子供が子供扱いされて怒っているのを見ると少々忍びないな」


 私は上品に憤慨した。


「貴方達みたいな不甲斐ない大人を見ていると、猛烈な便意を感じるわ!」


 みんなは押し黙った。何よ。びっくりしたでしょう?

 度肝を抜くがいいわ。


 当然よ。私は講演の女王だもの。みんなの心にこの言葉は染み言ったはずよ。

 小磯はおずおずと手を上げた。


「あの……参上……。つき合う大人は考えた方が良いぞ。壮絶にカッコ悪いぞ」


「なんですって!?」


「女王って、持ち上げられすぎて、天狗になっているんじゃないか?」


 小磯良が面倒臭そうに呟く。


「ど、どこがよ!」


 小磯は溜息を吐きながら私を指さした。


「確かに衝撃的だけど……インパクトはあるし、辺りは鎮まるが、人格を疑われるぞ……お前」


 私は頭に来た。小磯良~。やはり、殺しておく必要があったようね。私はいつだって正しいのに。


「お前のような愚民が私に意見するつもりか!? 小磯~!」


 私の声は怒りと屈辱に満ちていた。


「ハイハイ、ごめんな~。女王様」


 言葉に言い表せないほどの怒りを覚えた。


 私は小磯の持つ肉という肉を奪い取って齧りついてやった。もちろん小磯のお菓子の肉よ。

 当然でしょう?


「何をする!」


「何をするって、小磯、お前を苦しめるためなら、私は手段を選ばないわ!」


「待て、お前はまだ勝っていない! 勝つ前に勝利の肉を飲み干すつもりか!」


 私はせせら笑った。


「馬鹿な男。私はこれから勝つわよ! 全勝よ!」


「なら勝負だ」


 響鬼野はニコニコしていた。ニコニコして私を見ていた。


 なに? この気持ち悪い女。


「あなたは小磯先輩には勝てないですよ」


「なによ!」


「前から思っていたんですけど、なんだか兄弟げんかみたいですね」


「兄弟じゃないわよ?」


「えーっと、じゃあ、姉妹げんかかな?」


 今度は小磯が憤慨する番だった。


「姉妹じゃないぞ! 断じて、断じて! 舌を噛んで死んでやる……!」


 混乱した小磯を前に響鬼野は暢気に笑った。


「私が観察したところによると、あなたたちは兄妹みたいだって思ったんです。しっかりしてください、小磯先輩。どうしちゃったんですか?」


「君がどうしちゃったんだと言いたい~!」


 私は呆気にとられた。この女……。


「まともな事を何も言わないじゃない!! どうなっているの!」


「まだ会って一日も経っていないのに? 私、まともな事を何も言わないの?」


「何かしら、貴方と話していると低能がうつりそうよ。チョコレート以外に浸かって死ね」


「アリスちゃん酷い……あんまりだよ……チョコレートがいいよ……。チョコレートにしてください。私、チョコレートと一緒だったら何処までも喜んで沈んでいきます!」


 小磯は私を視線でとらえた。なによ!


「何を怒っているんだ? 参上?」


 私の怒りは頂点に達しようとしていた。


「この女、きっと私よりアホよ! アホの中のアホよ! チョコレートの沼の中で、チョコレートを飲みほして幸せを感じてしまうタイプのアホよ! あんたはなんでそんな女と一緒にいるのよ!」


「お前の場合、言葉遣いが人よりも変わっていて、他人の心に届きやすいだけだろう? 講演の女王。言葉の暴力を振るうな。言葉は大切にしろ」


「私が低能だと言いたいの? お前の一番大好きなサラミを食ってやるわ! お前の好きな肉の順番を言いなさい! 小磯!」


「誰が言うか! 死んでもいうもんか!」


「馬鹿な小磯! お前が今チラ見した肉を一番に食すわ!」

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