最近のケルベロス事情
去年の暮れ、郵便ポストへ年賀状を投函しに行く途中で、ケルベロスに出会った。話し掛けてみると、3つの首のうちの1つが応じてくれた。
彼らはかつて地獄の番人と呼ばれ畏れられたたと言うが、最近は野良猫に噛み付かれたりカラスに束になって突っつかれたり、普通の犬にすらなめられて威嚇されるほどに弱くなってしまったそうだ。
理由は何かと尋ねたら、更に強くなる為に人間の飲んでいるサプリメントを試しに飲んでみたところ、体に合わずむしろ中毒を起こして体重が30キロも落ちてしまったそうだ。確かに、首が3つある以外は痩せこけた黒い柴犬にしかみえない程に迫力がなかった。
特技は口から火を噴くことらしいが、やはり人間の飲んでいる芋焼酎を試しに飲んでみたところ喉を痛めてしまい、ライターくらいの火力しか出なくなってしまったらしい。
そんなこともあり、3つの頭部のうちの2つはその一番親切そうな頭部のせいで迷惑を被った事に怒り心頭し、ここ一年口を聞いていなとのことで、つまり、ずっと険悪なムードを放つものに挟まれて、このケルベロスの真ん中の頭部は日々を過ごしていると言うことになる。離れるに離れられないから、相当なストレスであったに違いない。
僕は、なんか可哀想になってきたので、友達の田中君に出すはずだった年賀状を哀れなるケルベロスの真ん中の首に差し出した。
すると、彼は嬉しそうにそれを加え、必ずお返しをすると言って去っていった。
そして4ヶ月程経った今朝、一通の宛先も差出人の表記もない官製はがきが僕の家のポストに投函されていた。端っこが黒く焦げたその葉書を裏返すと、そこには犬の肉球の後があり、その下に爪にインクを付けて書いたものと思われるかなり汚い字の一文が添えられている。
「何とか仲直りしました」
僕はそれを見てホッとしたと同時に、この混沌たるハガキを出すまでには恐らく何かひと悶着あったんだろうなと思ったのだった。




