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現在、我がシュテルン公国では死罪は禁止である。
それは偏に倫理観の問題によりそうなっている。
どんな重罪人でも悪くて牢で終身刑となるこの世の中では、刑務所内は軽犯罪者から重罪人まで多くの罪人が収用されている。
国は大国故に刑務所が幾つか存在するが、その中でも月影刑務所の悪名高さと言ったら他の群を抜いていた。
帝都から遠く離れた土地に建てられたそこは凶悪犯やワケありの囚人が収用されることが多いのもさながら、なんと言っても一番の理由としては奇妙な噂があるのである。
曰く、神隠し。
囚人がある日ふっと何処へともなく消えてしまうことがあるのだそうな。
凶悪犯が多く収用されていることもあり、月影刑務所はどの刑務所よりも鉄壁であり、それ故逃げおおせることは不可能に近い。まさに鼠一匹も逃さぬ要塞っぷりだ。
それを、しかも一人や二人ではなく全てを合わせると百近くの人間が消え失せているのだ。
そして原因不明の人の消失は今も尚続いていると言う。