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闘球  作者: 鳶尾
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第二章 1話 再び蔵内高校へ

門をくぐった勝吾を出迎えたのは、入学式が行われる体育館まで続く部活動の勧誘の嵐だった。

「一緒に野球部で甲子園を目指そう!」

「男ならやっぱサッカーっしょ!」

「楽器初心者でも大丈夫!みんなで青春の旋律を奏でよう!」

「初手五の五?二手目天元?三手目五の五!?君たち、ヒカルの碁読んでたね!」


そんな声があちこちから聞こえてくる。懐かしいなと感じた。勝吾もこの時ラグビー部に勧誘されたのだ。


「君、良い体してるね。ラグビーやってみないか?」


そうそう、こんな感じだったな。と思いながら振り替えるとこちらを見てにっこり笑う、懐かしい顔がいた。


(お久しぶりですね、八木先輩)


八木は勝吾の1つ上の先輩で、勝吾がラグビーをするきっかけとなった人物だった。八木に必死に勧誘されて、サッカーを辞めてラグビーをしようと決めたのだ。


「ラグビーは経験者が少ないから高校からでも大丈夫!それに1度に15人出れるからみんな試合に出れるよ!」


勝吾が経験者だとは知らず、八木は勧誘を続ける。他の部活動は半ばふざけながらやっているところも多いが、ラグビー部の勧誘は皆目が真剣だった。

蔵内高校は進学校だがスポーツもそれなりに強い。そんな中ラグビーはキツいイメージが強いからか近年、部員が減ってきている。勝吾たちの代も前回は七人しかいなかった。

選手を試合中に七人まで交代できるラグビーでは、選手の少なさ、選手層の薄さは命取りになる。後半疲れてきてるところにフレッシュな相手がガンガンやってくるのだ。体力負けのようになってしまったときは歯がゆい思いをしたものだ。

だから勧誘に力をいれる。もっと言うなら、人数が15人いなければ15人制のラグビーはできないのだ。二階堂がいる常勝高校も15人制。勝吾も部員の勧誘はキーポイントになると思っていた。


「僕、実は経験者なんです」


と言ってラグビー部に入ることを伝えると、八木は「マジか!やったー!」と叫び、注意の注目の的になってしまった。背の高い彼はチームではロックを務め、頼りになる先輩だったが恥ずかしがりなので、ここでは高い身長が仇となり、隠れることもできず顔を赤くしている。

その後二人でしばらく話して別れた。勧誘を手伝うことも伝えたら喜んでいた。


勝吾は前回の高校生活で運動神経の良かった他の部活動の人間をラグビー部に入れてしまおうと考えていた。ラグビーは体重無差別の格闘技のようなものだ。身体能力は高いに越したことはない。部活動が決まるまでのこの1ヶ月はとても重要だ。


八木と別れたあともいろんな部から勧誘されるが、「ラグビーやるんで」と断っていく。そんなこんなで体育館にたどり着き、掲示されていたクラスと出席番号を確認して、席についた。

偶然か必然か、前回の高校生活と同じクラス、同じ番号だった。

ということは…と勝吾が考えていると案の定、前の席に座っていたツンツン頭の少年が振り返って話かけてきた。

「いやー、勧誘すごかったな。どこの部活に入るかもう決めた?」


この台詞も前回と同じだ。懐かしく思いながら前回と異なる答えを返す。


「俺はラグビー部に入るよ」


「マジで!?俺もラグビー部に入るつもりなんだよ!早速仲間ができてよかったわー」


こいつ変わってねぇなあと思ったが、過去に戻っているのだから当たり前だった。


「俺、倉橋幸助。一緒に3年間頑張ろうぜ!」


「高津勝吾。こちらこそよろしくな」


「勝吾は経験者なのか?」


この会話もした覚えがある。前回の答えは「やったことない」だったが、


「一応小学校からやってるよ」


「マジかよ!?経験者が入ってくれるとは頼もしいぜ!」


今回は経験者だ。ラグビーは野球やサッカーと違い小学校、中学校でやっている人間は少ない。また厳しい中学校の部活に入っていると高校入学時に辞めてしまう人間もいる。個人的には勝吾はラグビーの楽しさに気づく前に辞めてしまうのは勿体ないと思うのだが。


なんやかんやと話してるうちに式が始まった。校長の長々とした話が終わり、入試で優秀な成績を修めた生徒によるスピーチが始まるようだ。勝吾の座っている場所よりだいぶ後ろのほうから立ち上がる音がした。どうやら自分のクラスの生徒らしい。壇上に登った生徒は黒髪を後ろでくくってポニーテールにし、眼鏡をかけたいかにも賢そうな女子だった


「それでは山本さん、お願いします」


司会役の先生からマイクを手渡され、女子生徒が話し始めた。と言っても学校側で用意されたような当たり障りない内容だったが。


「…以上で、終わります」


ぺこりとお辞儀をして壇上を降りる彼女を暖かい拍手が迎えた。通路側に座っていた勝吾も拍手をしていたが、通路を歩いてくる彼女と目が合うと、彼女はとても驚いた顔をしていた。はて、どこかで会ったことがあるのだろうかと勝吾が記憶を探っているうちに彼女は足早に通り過ぎてしまった。彼女の顔は記憶にない。前回の記憶にもだ。なので前回は一度も同じクラスにならず印象に残らなかったか、別の高校にいたかのどちらかであろう。

それにしても、と勝吾は思う。まさか二週目の自分よりも良い成績を修める生徒がいるとは思わなかった。ラグビーは瞬間的な判断で動かなければならないスポーツだ。なので頭のトレーニングがてらそれなりに勉強はしていたのだが、その自分より良い成績を取るとは。きっと厳しい家庭で育ったエリートなのだろうと勝吾はまだ話したこともない女の子に同情した。


式が終わり教室に向かう途中の人混みの中に1人勝吾の興味を引く顔を見つけた。

「おまえ、ひょっとして大崎か?」

小柄なその男子生徒はスクールの大会で何度か対戦したことのあるチームで特に目立っていた選手だった。機敏なボールさばきと相手の意表をつく個人技で手を焼かされた覚えがある。一週目はこの高校にはいなかったのだが。

「お、高津勝吾のほうから声をかけてくれるとは。光栄だね」

どうにも食えない態度で飄々と大崎大志は微笑んできた。

「おまえもここの高校だったのか!こりゃ頼もしいな」

「本当は私学に行こうと思ってたんだけど君がここの高校を狙っていると聞いて変えたのさ。君とは一度同じチームでやってみたかったからね」

嬉しいことを言ってくれると思いながらも今の自分の持つ影響力に驚いた。県選抜の中でもトップの実力を持っていたが、自分に惹かれて高校を選んだ人間がいるというのは予想外すぎた。


何はともあれ幸先がいい。ラグビー部の勧誘を一緒に手伝う約束をして、クラスが別だったので大崎と別れた。

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