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闘球  作者: 鳶尾
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第一章 再誕

目が覚めた。昨晩、1度目を覚ましてからけっこう長い時間寝ていた気がする。今日は祝日だから授業もないが、外は明るいしそろそろ起きようか。そんなことを考えながら体を起こそうとして、勝吾は異変に気づいた。

(体が動かない…?)

ピクリとも動かないというわけではないが、起き上がることができない。これが世に言う金縛りというやつか、と勝吾が慌てていると、更なる異変に気がついた。

(目、見えなくねぇ?)

なんだこれは。なんなんだ。勝吾はたちまちパニックになり、助けを呼ぼうと大声をだしたが、うまく声が出ず、泣き声になってしまった。するとそれを聞きつけたのか誰かがやって来る気配がした。

(おお、誰でもいい、助けてくれ!)

そんなことを考えていたが、ふと冷静になる。自分は1人暮らしだったはずだ。何故家の中に自分以外の人間がいるんだろうか。そのことに解を出す前に、目の前の人間が何事か喋ってから自分を抱き抱えた。勝吾は決して軽くはない自分が軽々持ち上げられたことに驚いた。そして同時に、これは夢ではないかと疑い始めた。悪夢の次はわけわからん夢か…俺もいよいよおかしくなってきたかなーと、半ば思考を放棄して考えてみる。とてつもない睡魔に襲われて、勝吾は再び眠りについた。


次に目覚めたときは目が見えるようになっていた。そして、明らかに若き日の母親としか思えない女性が、自分の世話をしてくれるのを見て、勝吾は現状を正確に理解した。

(俺、タイムスリップしてないか…?)

疑問系なのは勝吾がオカルトを信じるような人間ではないからだが、ほぼ確信していた。精神だけ、赤ん坊時代にタイムスリップしている。毎夜、確かに高校時代に戻してくれと祈ってはいたが、戻りすぎだろ。と誰に突っ込んでいるにかもわからないが、それほど勝吾は気が動転していた。 しかし、事態を把握してから10分後には落ち着きを取り戻していた。

(これは神様が俺に与えてくれたチャンスだ!)

彼は本来切り替えの早いタイプだ。怪我のせいで本来の性格がねじまがってしまっていたが、こうなると思考は目的に向かって一直線に進んでいく。

(絶対にあいつを叩きのめしてやる…)

この体はまだ長い間起きていることは難しいようだ。勝吾は起きようとしていたが、また眠ってしまった。


彼は3歳まではとにかく目立たないようにした。赤ん坊のふりをし、色々と今後の計画を考え続けた。

(まずは勉強だな)

勝吾の選択肢のなかに蔵内高校以外で二階堂に、常勝高校に勝つプランはなかった。あの高校で倒すことが、花園に出ることが重要なのだ。

実は蔵内高校はかなり偏差値が高い。県内でも公立では一位、二位を争う進学校なのだ。1度目の人生では中学から推薦で入れたがあれはたまたま部活の成績が良かったのとたまたま面接官に気に入られたからだった。

2度目も同じように入れるかはわからない。万全をきすために、体ができていない幼少期は極力勉強することにした。もちろん、毎日外で元気に走り回って遊ぶ。体の使い方を幼少期に覚えるのは重要だ。

これを3歳~小学校入学までの基本方針とし、まずは3歳まで我慢した。3歳まで我慢した理由は、あまりにも成長スピードが人間離れしていると世間の注目の的になってしまうと思ったからだ。


勝吾はこの世界を出来る限り前回と同じように回そうと思っている。自分が派手な行動を取ることで、周囲の人間が別の行動を取っていき、結果的に二階堂と戦えなくなったりしたら意味がないからだった。とにかく地味に、地味に。そして着実に力を蓄えることを意識した。



3歳を迎えてからは親にバレないように勉強するのは無理なので、英語教室に行きたいと言った。割りと教育熱心な両親は、それはいい!と英語教室に通わせた。人間は10歳までが最も言語を習得しやすい時期らしい。勝吾はいい加減な英語教室ではグズついて嫌がり、本格的に英語を教えている英語教室では喜ぶそぶりをすることで、自分の望む英語教室に入学した。

(英語さえマスターしておけば人生でだいぶ有利になるぞ…!)

そんなことを考え、幼い体にどんどん英語を吸収させていった。

小学校入学頃には、英語を日常的なものならペラペラ話せるようになっていた。両親は勝吾のことを天才だと喜んでいた。勝吾には2つ年下の加奈という妹がいるが、嫌がっているのに自分と同じように英語教室に通わされているのは、少し気の毒だった。



小学校に入学後、真っ先に両親に頼んだのは地元のラグビースクールに通うことだった。ニュージーランドやオーストラリアといったラグビーの本場ならともかく、日本の小学校にはラグビー部など殆どない。中学校もあるところはとても少ない。勝吾の1度目の中学校もラグビー部はなかった。1度目は小学校から両親のすすめで野球をやっていたが、この世界ではラグビーをやると決めていたので、ここは譲れないポイントだった。

両親は優秀な息子が意外なことを言い始めたので最初戸惑っていたようだが、勝吾があまりにも真剣に頼むのでほどなくしてラグビースクールを探してくれた。

見つかったのは勝吾の家から車で30分ほどの場所で活動している小学生~中学生までのチームだった。そこまで強くはないが、週4回練習しており、来たい人は何回来てもいいというスタイルを勝吾は気に入った。

1度目の人生では中学からラグビーをやっていた連中のボールセンスの良さを羨ましく思っていた。しかし、今度はおそらく自分が一番ラグビー歴が長くなるだろう。しかも一周目の経験もプラスされる。

このことや、一周目に習得した知識等を利用することを勝吾は卑怯なことだとは全く思っていなかった。勝つために全力を尽くす。勝負ごとでは当たり前のことだ。それに中途半端なことをやっていては二階堂には、あの怪物には勝てない。ただ、二階堂に勝つことが目標ではあるが、二度とできないと思っていたラグビーをもう一度できることが、勝吾には嬉しくてたまらなく、最初の練習が来るまでは、楽しみで夜なかなか寝つけなかった。



記念すべき1回目の練習日、勝吾は両親に連れられ市内のとある練習場にやってきた。整備された人工芝に、ラグビーのH型のポールが突き刺さっている。勝吾は目の前の光景に、そして再びラグビーをできるこの体に感動し、泣きそうになったが、ぎゅっと目をつぶってから人芝のグラウンドを駆け始めた。

しばらく走り回っていると、1台の乗用車が駐車場に停まるのが見えた。自分たち以外にはまだ誰もいなかったので生徒が来たのだろうかと近寄っていくと、小学校四年生ぐらいの男の子が車から降りてきた。


「一年生?」


男の子は少し驚いた顔をしていた。小学校からラグビーをしようという子供はそうはいない。両親がラグビー好きで無理やりやらされる子がたまにいるぐらいだ。この少年もそうなのだろうと勝吾に同情の眼差しを向けた。


「俺、山本相馬。ここの生徒。四年生。おまえは?」


スポーツ刈りの頭からは活発そうな印象を受けるが、なかなか賢そうだなと勝吾は直感的に見抜いた。


「高津勝吾…一年生」


と、初めての場所に来て戸惑う振りをしていると、頭をぐわし、と撫でられた。


「一年生かー、そうか。ラグビーは楽しいぞー」


と、こちらを気遣ってくれる。優しい人だなと勝吾は感じた。


「練習まで時間あるしランパスでも軽くしようか」


ランパスとは文字通り、走りながらパスを繋いでいくラグビーの基本練習のことだ。ウォーミングアップ程度に軽くやる分には問題ないが、練習中にこの練習が来ると、悲鳴をあげたくなるほどキツい練習の1つでもある。見方のスピードに合わせて延々走り続けなければならない上、いつ終わるかわからなかったり、ボールを落としたら本数が増えたりする。勿論、小学生がウォーミングアップにそんなきついことをするはずもないので、野球で言うキャッチボールくらいの感覚で相馬は誘ってきた。


勝吾は頷き、二人でグラウンドを走り始めた。相馬のボールは使い込まれていてラグビー好きなのだろうと感じた。

勝吾はラグビーボールを持ち走れていることに感動していた。七歳の自分にはまだボールが大きくて、うまく持てない。それでも時折ステップを踏みながら、勝吾はフィールドを疾走する感覚を思い出していた。

(懐かしいな…相手との距離が縮まるまでの、一瞬)


ーーースクラムハーフからパスを受ける。スタンドオフとして攻撃を組み立てなければならない自分と、自分から仕掛けたいと思う自分が葛藤する。相手の目線が外にいった瞬間、内からフォワードが走り込んで来るのが見え、そこにパスを浮かすーーー


そんなことを考えながら無意識にランパスをやっていると、ボールが飛んでこない。どうしたのかと思って相馬の方を見ると呆然としていた。


「おまえ、ラグビーのことよくわかってるな!」


相馬はランパスといっても注意点はたくさんあるし、少しずつ優しく教えてやるつもりだった。しかし、いざ始めてみると、味方がパスできるよう、パスをした後は少し待って走りだすことや、貰う瞬間に加速して貰うといった基本的なことを完璧にこなすではないか。勝吾は無意識にやってしまったが、「ラグビー好きなので…」と誤魔化すことにした。

相馬は自分の妹と同い年の男の子がここまで動けることに感動した。そしてラグビーが好きなこの少年のことをとても気に入った。


「そうか!よし、おまえを弟子にしてやる!」


そう言って、また二人で走り出した。実際、この後、相馬は勝吾の良き先輩となる。相馬はスクールを卒業する中学三年生まで、勝吾が六年生の時まで毎日のように共に練習した。その間、勝吾はメキメキと実力を伸ばしていった。中学校に入ってからはスクールの県選抜にも選ばれた。体が小さかったので日本代表にはなれなかったが。また、中学三年生のとき、一気に背が伸びて175cmになったのは驚いた。1度目は170cmで止まってしまったからだ。小さいときから筋トレせずにのびのびと運動したからだろうかと思ったが、どうでもいい。嬉しい誤算だった。



中学に入ってからは勉強にも力を入れた。1度目の人生の知識もあったので、高校受験の頃には東大に合格できるのではないかと思うほど頭も良くなっていた。相馬からは自分が主将を務めている高校に誘われたが、入ったところで相馬とは入れ違いだし、何よりも目標があったので断った。残念そうだったが、蔵内高校に入ると言うと、何故か喜んでいた。



試験は余裕で合格した。難関なのでミスをしないことだけ心がけたが、英数がパーフェクトだったので問題なかった。受験会場で知ってる顔をちらほら見かけたのは面白かった。



そんなこんなでとうとう入学の朝を迎えた。

ここまで色々あったが、今度の高校3年間は負けられない3年間になる。強い意思を持って、勝吾は蔵内高校の門をくぐった。

高校生活が舞台なので、すっ飛ばすことにしました。ここまでがプロローグのようなものです

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