僕にとっての春休みの朝は、昼/牛丼
特にこれといったファンタジーはありません、すいません、長編小説の合間にストレス解消で書きました、……お腹空いた。
呆れた……物も言えなくなる。
朝目覚めると時計の針は既に11時半を容赦なく示していた。
「といっても、今は春休み……」
いつ起きても誰にも何も言われない。
親は万年仕事人間で僕はいつも一人ぼっちだ。
兄弟? いますが、年がリープしすぎて、いないも同然です。
布団でごにょごにょと朝を惜しみ昼に向かって近吠えを吹きながら身体を起こす。
バッ
まるで効果音でも音屋が鳴らしてくれたのかというくらいに清々する起床音を鳴らしながら今日も一日が始まりを告げた。
いうものの、起きても別段、することもしたいこともない。
この現状をどうしよう、こうしようと頭を抱えて悩んでいると、お腹の虫がミーンミーンと唸りをあげた。
「ちょっとぉ……虫なんだから無視しててよぉ」
……寒いギャグを言っても誰も反応はしてくれない。
「は、反応してくれない方がいいじゃん、むしろ」
なぜか赤面してる自分に向かって突っ込む僕、傍見るとおかしいだろうな。
突っ込みつつも未だ鳴り続けるお腹の虫を抑える為に、片足をベッドの外にちょこんと出して、地面に着地させてその後もう片方の脚も続け、そのまま体を持ち上げる、はい着立。
いつもは、4時半くらいまで寝ているのでご飯なんかは一食だけだけど、今日は中途半端にこんな時間に起きてしまったので、何か食べないとと本能が訴えかけてきている、人間の体というものは厄介である。
とりあえず、ここは2階なので、階下に降りて冷蔵庫を漁りに行く。
「何かあるかな、あ~るぅ~かなぁー」
寝間着のままで階下に降りて洗面所の方をまるで見ずにリビングに備え付けられている冷蔵庫を開けると
「えーと、ソーセージでしょーハム、それからそれから卵」
入っている物はほぼ全部焼くか煮るかしなければ食せないものばかりで、到底火なんて扱えない僕からすれば手に余る物ばかりだった。
「買い物、行くしかないかな」
何かを諦視して、僕はそのままリビング横廊下を渡り、洗面所に向かい、顔を洗い歯磨きをする。
ゴシゴシ ゴシゴシ
歯磨きをしながら、いつも考える事がある、それは自分の未来の事だ。
僕には夢がある、其れはきっと人よりたくさん努力しても叶う事がないだろう夢だ。
自分でもわかってはいるけど、僕は其れでもその夢の事を諦めきれない。
お母さんにはこう言われた。
「夢もいいけど、ちゃんと学んでちゃんと合格して、ちゃんとした職に就くことも良い事よ」
お父さんにはこう言われた。
「お前がそうやって夢に向かって頑張る事を誰も止めはしない、お父さんはむしろ応援だってしてるよ、けどな、お父さんはお前が夢に向かって頑張ってる姿を見るのは嬉しいけど同時にお前の未来の心配もしてるんだ、それをわかってくれ、別に止めろと言っている訳じゃない」
ゴシゴシ ゴシゴシ
いつか肉親二人に言われたことを今日も思い出す。
お父さんの言いたい事もお母さんの言いたい事もわかる、わかるけど、心のどこかで分かり切れない自分がいる、……でも、それもわかってる。
バシャバシャ バシャバシャ
顔を洗いながら、今日の乱雑とした心も洗い整える。
整え終えてから、鏡を見て、自分に一言
「未来って、なんなんだろう、君はどう思う?」
鏡の向こうの自分が答えなんてくれるはずがないのに不思議とほんのちょっぴりいつも期待している自分がいるのは、若気の至りという奴でしょーか。
朝の一連をそうやってなんとなく朝の爽やかな風に押されながら終えて階上に上がり服を外出用へと着替える、特に拘りもない服装に着替えた後は、年相応らしくアクセサリーを少しだけ付けた鞄と財布を持って、買い物に行く。
階下へ降りて、電気、水道、ガスを確認してから、玄関の扉を開く。
玄関を開けて外へ出ると、春の太陽が直射してきた、眩い……。
思わず右手で太陽を覆って、天候の良さを身に浸み込ませる、そういえば春休みになってからあまり外へ出ていない、ご飯はいつも冷蔵に入っているもので適当にすませていたから。
太陽を感じながら想いつつ、歩道を歩きだす。
歩道を歩いていると今日もビュンビュンと車が次々と空気の流れに逆らうかのように走っている、忙しい。
僕の日常はこんなに暇なのに、車に乗ってる人たちの日常はいつも火に煽られているみたいに忙しそうに見える。
「あ、火車、だねぇ……」
笑顔を頬に湛えてそんな事を呟いてみる、勿論誰も反応してくれる人はいない。
時間帯の所為か、あまり外に出ている人もいない、車だけが地球にやさしくないガスを放出させて走っているのは、昼食を摂るためのサラリーマンの時間帯ということでしょーか。
リーマン、リーマン、妻は呑気に豪勢にーと一般的な過程を揶揄しながら歩道を歩いていると、知り合いのおばさん家の前にいつしか立っていた、母親と仲が良くてたまにご飯をご馳走してくれる(便利な)おばさんである。
「あらあら、今日はお出かけ?」
おばさんはなにやら楽しそうに私に草刈用の鋏を持ちながらにこやかに問い掛けてきた、朝の挨拶のつもりだろうか、物騒だな、手に持ってる物で今にも縁を切ってほしいくらいですヨ……。
腹の底を心底に眠らせて、おばさんのスマイルにスマイルで返す。
「あ、はい、そうでーすね、ちょっとお出かけです」
多少引き攣ってしまった、まぁいいか、僕は悪くない。
「あらあら、そうなのそうなの、おばさん今日は一日草刈なのよぉ~はぁ……イライラするわ……今頃会社で汗掻いて働いてるあの人の首切る方がよっぽど楽かも……」
朝っぱらから、じゃなかった、昼っぱらからこのおばさん何抜かしてるんだ…
「そうでーすねーちなみに、その首って社会的な方ですか? それともに続く方は聞きません」
昼からやけに胡椒が効きすぎたジョークだぜ……たくっと心中に秘めながらおばさんに言葉を返して、僕はなんだか精神的に面倒だったので、その場を逃れて歩道を突き進む。
ちなみに、僕がどこへ行っているかというと牛丼屋だ、コンビニかと思った? 残念、ああいう色んな物が置いてある場所に本能が赴いている時に出向くと途端に野性的な方の本能が目覚めてうっかり防犯カメラに映されると問題のある行為を働いてしまいそうになるので、自分的に無しと決めている。
ガードレールに沿いながら足を右へ左へと動かして、ようやく目当ての牛丼屋に着いた。
牛丼屋の店舗の壁には大きな手書きの時給表記が書かれてあって、その横に
≪バイト募集中≫と書かれたポスターの様な物が貼ってあった。
近頃忙しいらしい、僕には関係ないけど。
そそくさと店内に入り店員に案内されるがままに席に着いてメニュー票を確認する。
僕は即座にメニュー票に載っている新メニューの
≪アツアツ牛鍋≫を注文した。
店員はなにやら「お前もそれかよ」と言いたそうな顔で数秒間僕を睨んできた様な気はしたけど、気のせいだろう、だってお客様だし。
露骨なお客様アピールうざいな、と自分に想いながら店内を見回っていると、お客は僕一人だけだった。
お昼の時間帯に安穏と牛丼を食べにくるサラリーマンはいないらしい、……近頃200円で済ませるっていうのをどこかで聞いた気がするけれど、本当だったみたいだ。
頑張れ日本のサラリーマンと100%嫌味成分に昼の店内で心でぼやいていると店員さんが頼んだものを運んできた、そして一言。
「このメニューの所為で、店員不足なんですよ……」
店員はその一言だけを言って去った、知ってるから頼んだんですが何か?
鬼畜な自分にほくそ笑みながら僕は昼食を楽しむ。
なかなか家では一人が多い所為か、鍋を楽しめないので、とても美味しい。
タレに野菜を浸して、お肉を浸して、食べてご飯を口に掻き込む、そうすると無性に幸せがお口の中でハーモニーを奏でる。
「なんでこんなに美味しいんだろ……」
やっぱり春休み最高だなぁ、唱えてるうちにも僕は鍋をつつきご飯を口に入れる
基本僕は食べているうちは何も考えないことにしているので、とにかく食べる。
「ふぅ、美味しかった」
ちょっとだけ割高な春休みの学生にしてはリッチな昼食を終えて、ようやく水を飲む。
朝から水分をまるで摂取されていなかった体に口からジンワリと広がって、なんとも言えない悦楽感に満たされる、僕はどこかこの快感を味わうために水分を取ること我慢している節がある様な気がする。
水を飲み終えてからレジへ行きお金を払う。
払い終えた後出口で振り返るといつの間にか店内がお客で埋め尽くされていた。
≪ちょっと店員、こっちのテーブルに早くしてよ≫いやお前来たばっかだろ
≪注文遅いんだけど? 何時間待ってると思ってんの≫お前はもういい加減帰れよ
≪お前が今日一日働いただけの金を俺は一時間で稼いでんだよ≫じゃあもっと良い店行けよ
様々な罵詈雑言が飛び交う店内を見渡しながら一つ一つに僕的ツッコミを心で打ち込んで外へ出る。
外へ出て、息を吐く。
「はぁ……お腹いっぱいだなぁ」
もう今日はどうせこのまま家に帰ってもう一眠りするだけだろう。
僕の日常に怪奇も摩訶不思議も起こらない、起こり得るはずがない。
僕の日常には、怪奇や摩訶不思議より、皮肉や未来という余程現実的で恐ろしい物が蔓延しているから、そんな物はいらないのだ。
「帰るか」
今日の日常に僕は終わりを告げた。
牛丼屋さんに良く行きます、頼むものは大盛りで温玉です。
なぜかというと肉倍増と大盛りの値段が同じだからです、まぁ並でもいいんですけど、デブじゃないですよ、デブじゃありません。