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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
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第71話 クレリンス大陸

 冬華達はクレリンス大陸で最も大きな島リックバードへ着ていた。そのリックバードにある唯一の港に船は停泊し、冬華・クリス・シオの三人を降ろす。

 冬華は船を降りると、その船の船長であるグリーに対し、深々と頭を下げる。


「ここまで、ありがとうございました」


 と。そんな冬華の姿勢に船長のグリーは無精ひげを右手で触りながら、静かに微笑み、


「いいって事よ。ウチの船には女っ気が無かったから、久しぶりに楽しい航海が出来て楽しかったしな」


 大らかに笑い、穏やかに告げるグリー。その寛大さに冬華は顔を上げ笑みを浮かべた。優しく暖かく見送ってくれるグリーやその船員に対して、自分が出来るせめてもの事だった。その笑みにグリーも笑みを返し、右手の親指を突きたて冬華の方へと向ける。


「グッドだ。笑顔で別れて笑顔で再会だ。また、どこかで会おうじゃないか」

「はい。本当に、ありがとうございました」


 笑顔でそう告げると、船は汽笛を鳴らし出航する。ゆっくりと、岸から離れ大海原へと動き出す。その船尾を見据え、冬華は大きく右手を振り続けた。船が見えなくなるまでずっと。

 船が見えなくなり、立ち尽くす三人。冬華は腕を振り続け右肩が重く辛そうな表情を浮かべ、シオは暇そうに頭の後ろで手を組み大欠伸をしていた。クリスは腕を組み今後の事について考えをめぐらす。整った綺麗な顔で真剣に考え込むクリスの姿は絵になる程綺麗で思わず行き交う人は足を止めていた。頭の後ろで留めた白銀の髪を煌かせるクリスは、右手の人差し指で唇を触り静かに息を吐く。考えがまとまらず困り果てていたのだ。

 静かに息を吐いたクリスへと視線を向けた冬華は、そのチェックのミニスカートを揺らし愛らしい笑顔を見せた。


「どうかしたの?」


 考え込んでいたクリスへ自然体に問い掛けると、クリスは小さく口元へと笑みを浮かべると、珍しく困った表情で答える。


「えぇ。実は、今後どうするのかを考えていまして……」

「どうするも何も、冬華を元の世界に帰す方法を探すんだろ?」


 金髪の無造作な髪から覗く獣耳をピクッと動かし、怪訝そうにそう言ったシオへと、クリスは鼻から息を吐き両肩を落とす。

 あからさまなクリスの態度に、ムッとした表情を浮かべるシオは目を細めると不満げな声をあげた。


「何だよ? その態度は?」

「いや。すまん。私も、そう考えていたんだが……」


 シオに軽く頭を下げたクリスだが、その表情は浮かない。その為、シオは不満そうな表情を浮かべたまま、冬華は不思議そうに首を傾げる。

 クリスもシオの言っている事は分かっていた。だが、その方法を探す方法が見つからないのだ。過去に一度、クリスはこの大陸を訪れている。その為、冬華やシオよりもこの大陸については知っており、この大陸がとても面倒な大陸だと言う事を良く知っていた。

 ここは一人の王が統治する場所ではなく、数ある島の代表達による民主主義国家となっている。故に、ある島では民に情報を偽り流したり、全く情報を与えなかったりと、島によって集まる情報が変わってくるのだ。

 もちろん、中には真っ当な代表も居るが、それでも正しい情報とそうでないモノを見分けるのは大変な事だった。

 その為、クリスは面倒臭そうな渋い表情を見せたのだ。

 腕を組み考えるクリスは、小さく息を吐くとシオへとジト目を向ける。


「この大陸じゃ、情報は当てにならないんだよ」

「はぁ? 情報ってのは、正しく伝えなきゃいけないものだろ? それが当てにならないって……」

「それだけ、この大陸では情報操作や隠ぺい工作が盛んに行われているんだ」


 腕を組んだまま息を吐くクリスへ冬華も困り顔を向ける。流石に隠ぺいや情報操作をされては、正しい情報など手に入らないだろうと。

 この大陸に行くと決めたのは冬華だ。その為、少しだけ責任を感じていた。もう少しこの世界の事を、大陸の事を調べてから決めればよかったと。

 肩を落とす冬華の姿に気付いたクリスは、慌てて声を上げようとするが、何をどう言えばいいのか分からずただただ困惑していた。

 そんな中で頭の後ろで手を組むシオが、能天気に声を上げる。


「まぁ、何にしろ。こんな所で突っ立ててもしょうがないだろ?」

「そ、そうだな。とりあえず、宿を探すか」


 シオの言葉に、クリスは慌てて返答する。暫くここリックバードに留まる事になる為、拠点になる場所を確保しなければならないのだ。

 クレリンス大陸は基本的に中立だと宣言している。人間も魔族も共に育ち、生きる事が出来ると言う思念の下に皆平和を謳っている。だが、島によってはその思念を守らない島もある為、獣魔族であるシオと一緒に居る冬華達はその島選びも大切なモノとなっていた。

 今いるリックバードは、ここクレリンス大陸で最も信頼される代表が納める島の為、この港には魔族の姿がチラホラ見えていた。

 三人は町へと足を踏み入れる。美しく咲き乱れた薄紅色の花ビラを散らす木が街道を挟む様に等間隔に並ぶ。何処を見ても、その美しい花ビラが舞い上がり、人々の活気が溢れていた。

 賑わう中央通。その先には中央広場が見え、そこに一際大きな木が薄紅色の花を満開に咲かせている。どの木よりも美しく輝く薄紅色の木。それを見据え、冬華は感嘆の声を上げる。


「うわーっ」


 懐かしいその木。ここでは何と呼ばれているのか分からないが、その木は間違いなく桜。懐かしいその木を見据える冬華は、僅かに目を潤ませる。

 その隣ではシオも驚き目を丸くし「おおっ」と声を漏らす。初めて見るその木の美しさに、流石のシオも見入る。それ程、目を惹かれるものだった。

 見とれる二人にクリスは口元へと笑みを浮かべ、腕を組む。クリスも初めて見た時はそうだった為、冬華やシオの気持ちが分かった。道の真ん中で立ち尽くす三人に、行き交う人達は不思議そうな顔を向けるが、三人は全くそんな事気にしていなかった。

 数十分程中央広場に咲き誇る薄紅色の木を見据えていた三人は、現在宿に居た。持ち金も少ない為、格安の宿を一部屋だけとり、三人一部屋となっていた。ベッドは二つしかない為、シオがソファーで寝る事になり、赤い安物のソファーに横になり不満そうな表情を浮かべていた。

 ベッドに腰掛ける冬華はそんなシオの顔を見て苦笑し、クリスは全く気にせずベッドの横にある椅子へと腰掛け、窓の外を窺っていた。警戒する必要は無いがこれはもう癖になっていたのだ。


「なぁ、どうするんだ? これから?」


 ソファーに横になったまま面倒臭そうに口を開くシオに、クリスも険しい表情を浮かべる。


「とにかく、宿代を稼ぐ為にも一度、ギルドに顔を出すべきだろうな」

「ギルドか……ギルドって聞くとジェスを思い出すね」


 冬華が足をバタバタと動かしながら笑顔でそう言うと、シオが「そうだな」と小さく頷き、クリスは「そうですか?」と不快そうな表情を浮かべる。対照的な反応を見せるシオとクリスの二人は視線を合わせお互いにジト目を向ける。

 視線を交錯させる二人の姿に右肩を落とし苦笑していた冬華は、不意にある事を思い出しシオへと視線を向ける。


「そう言えば、シオって私達に協力して欲しいって話してたけど……」

「ああ。知り合いを助け出す手助けをして欲しくてな」


 体を起こし、静かにそう告げたシオに、冬華は不思議そうな表情を浮かべる。


「助け出すって?」

「まぁ、捕まったんだよ。人間に」

「なっ! それじゃあ、私達に人間と戦えって言うのか!」


 怒鳴るクリスの形相にシオは両手を前へだし「落ち着けよ」と呟き、静かに鼻から息を吐く。


「別に、戦えとは言わない。ただ、人間が相手だし、オイラも詳しく分からない。

 だから、その人間がどんな奴なのか、何処に居るのかを調べる為の手伝いをして欲しいって事だ」

「まぁ、それ位なら……で、特徴は?」

「知らねぇー」


 クリスの質問に即答するシオに、クリスは呆れた表情を向ける。


「お前、それで、どうやって調べろって言うんだ?」

「いや、まぁ、何とかなるだろ?」

「なるわけ無いだろ!」


 その夜、クリスの怒鳴り声が宿に響き渡った。

 深夜。ソファーで眠るシオは寝心地の悪さに目を覚ます。暗がりにも映える金色の髪を右手で掻き毟るシオは、大きく欠伸をすると窓へと視線を向ける。カーテンの合間から差し込む月明かりに、人影が映る。

 怪訝そうな表情を浮かべ、ソファーから立ち上がる。すると、多少痛んでいる所為もあり、ソファーは軋みその音で、その人影がシオの存在に気付いた。


「すまん。起こしたか?」


 下ろした白銀の髪を夜風に揺らすクリスが、メガネ越しにシオの顔を見据え呟く。


「いや。寝心地悪くて起きた所だ」


 頭を掻き小声で返答する。

 髪を下ろしている所為か、それもとメガネを掛けている所為なのか、いつもと違う印象にシオは僅かながら戸惑っていた。

 いつもは刺々しく警戒ばかりしているクリスだが、今日は違っていた。物静かで何処か悲しげだった。理由は分からないが、シオは小さく息を吐き、ベッドで寝息を起てる冬華に一旦目を向けた後、困った様に頭を掻きながらクリスの方へと足を進めた。


「どうかしたのか?」

「あぁ。ちょっとな」


 静かに手すりに腕を置き月を見据えるクリス。その目が僅かに潤んでいる様にシオには見えた。

 そして、クリスはゆっくりと口を開く。


「今日は、母の命日でな。少しだけ母の事を思い出していた」

「そうか……」


 小さく答えたシオは、俯き眉間へとシワを寄せる。母親を思い出している時に邪魔して悪い事をしたと、妙に罪悪感を覚えるシオに対し、クリスは静かに笑みを浮かべた。


「気にするな。お前に気を遣われると気持ち悪いからな」

「悪かったな。気持ち悪くて」

「いや。でも、誰かに聞いてもらえてスッキリした。ありがとう」


 小声で礼を言うクリスに、シオはどう反応していいのか分からず、ただただ頭を掻き目を細め、


「礼なんて言うなよ。こっちの調子が狂うだろ?」


 と、自然と口にしていた。照れ隠しの様なモノだったが、その返答にクリスは静かに息を吐き「そうだな」と呟くと、数秒程瞼を閉じ、ゆっくりと背筋を伸ばす。


「んんーっ。じゃあ、寝るとするかな」

「ああ。おやすみ」

「寝坊するなよ」

「分かってるよ」


 大欠伸をしシオはソファーへと戻り、クリスは窓を閉め自分のベッドへと戻った。

 静まり返る一室。布団を深く被る冬華は薄らと瞼を開く。盗み聞きをするつもりではなかったが、クリスとシオの話し声に目を覚ましたが、起きるタイミングを逃しこうして狸寝入りしていた。

 初めて知ったクリスの母の事。何かが出来るわけじゃないが、冬華はそれを確りと記憶に刻み、静かに眠りについた。

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