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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第69話 出航!!

 ざわめき起つ船着場へと辿り着いた冬華とシオ。

 黒服に鉄の胸当てをした兵士達が港を往来しているのが視界に入り、二人は足を止める。あの兵士達はここノーブルーの警備兵で、冬華達が飛行艇を降りる際に現れた兵士達だった。

 完全武装し、慌ただしく走り回る警備兵達の姿を横目で見ながら、冬華とシオはジェスの船を捜す。船着場に着けばすぐに分かるはずだと、ジェスは言っていたがそれらしい船が見当たらず、途方に暮れていると、シオが頭の上に獣耳をピクッと動かし周囲を見回す。


「ぬあっ!」


 驚き声を上げたシオに、冬華も僅かに驚き「どうしたの?」と声を掛ける。その声に、シオは表情を引きつらせ、指差す。首を傾げる冬華は、その指差す先を見て驚き、目を丸くした。いつの間にか、そこには多くの人が集まっていた。一体、何があったのか分からないが、明らかに人だかりはざわつき始めていた。

 困惑中の冬華は、辺りを見回す。そして、彼らの視線の先へと自らも視線を向ける。皆の視線を惹くのは海上。そこに浮かぶ五隻の船。高らかにかざされる旗にはドクロを囲う二つの長い剣が描かれていた。そのドクロの旗を見た瞬間、冬華の脳裏に浮かぶ。一つの文字。海賊。

 間違いなく、そうだろうと確信し、シオへと視線を向ける。シオもその旗に眉間にシワを寄せていた。シオもそれが海賊の船だと気付いたのだ。もちろん、冬華と違いその海賊旗がどの海賊の旗なのかもわかっていた。

 この海域を縄張りとする最大級の艦隊数を誇る、漆黒の牙と呼ばれる海賊団だ。船長の名はオバール。残忍で人の命を平気で奪う男。度々、このノーブルーへと姿を見せては強奪を繰り返すと言う事は聞いていたが、まさか鉢合わせするとは思っていなかった。

 険しい表情を浮かべたシオは、冬華へと顔を向け、叫ぶ。


「行くぞ!」

「い、行くって何処に?」

「ジェス達の所に決まってるだろ?」

「で、でも、何処にいるか……」

「オイラに任せろ」


 シオはそう告げると、鼻をヒクヒクと動かす。鋭い嗅覚でジェスとクリスの匂いを探る。多くの人が集まり、匂いなど分かるのだろうかと、心配に思う冬華だったが、そんな心配は無用だった様で、


「こっちだ!」


 と、シオは左足を引き摺りながら走り出す。

 走り出し数分。船着場の隅に停泊する大きな船。その前では赤い服に黒のパンツを穿いたクリスが白銀の頭の後ろでまとめた髪を僅かに揺らし立っていた。胸を強調する様に腕を組むクリス。本人にその気は無いのだろうが、その姿は妙に大人っぽく男性の視線を惹いていた。

 そんな彼女は冬華の姿を見つけると、右手を大きく振り上げ手を振る。


「こっちです! 冬華!」


 その声に、冬華は軽く右手をあげ苦笑する。あのクリスのスタイルを見るとどうしても自分と比べ、憂鬱になってしまう。もちろん、クリスは冬華よりも四つも年上の為仕方ないと言う事もあるが、それでも気分は落ち込んだ。

 急に元気の無くした冬華に、シオは険しい表情を浮かべつつも首を傾げ、クリスへと問いただす。


「一体、何なんだ? 何で漆黒の牙が?」

「さぁな。また、強奪にでも来たんじゃないのか?」


 クリスが静かに返答すると、シオは表情を歪める。

 一方、冬華は膝へと手を置き呼吸を整える。流石に全力で走った為、呼吸が乱れていた。同じ距離を走ったはずのシオは全く呼吸を乱さず、僅かに肩を上下させるだけ。それだけ、自分と差があるのだと、冬華は感じていた。もっと、体力をつけて、もっともっと力を身につけなければならない。そう実感した。

 張り詰めた空気の中、船の上ではジェスの声が響いていた。


「急げ! 出航の準備だ!」

「ですが、マスター! このまま行ってもオバールの艦隊の餌食になるだけですよ?」


 ジェスの声に、冷静に返答する一人の男。短い黒髪に無精ヒゲのその男は、ジェスのギルドのメンバーにして、この船の船長であるグリーだった。海の怖さを一番知り、幾度と無く海賊との戦闘を重ねてきたグリーは、よく知っていた。海賊オバールと言う男の恐ろしさを。とてもじゃないが、この船一隻で対抗出来る相手ではない。

 その言葉にジェスは眉を寄せると、小さく声を漏らす。細身でとても船長と言う器に見えないグリーはそんなジェスの姿に小さく吐息を漏らすと、眉間にシワを寄せ頭を掻く。オバールの怖さを知る以上に、ジェスと言う男がどれ程無謀な性格の持ち主なのかを良く知っている為、今考えうる策を搾り出す。

 船へと乗り込んだ冬華達三人。出航出来るのかわからず、不安げな表情を浮かべていると、唐突にそれは起きる。号砲が轟き、一発の砲弾が海賊オバールの船から放たれた。白煙を激しく吹き上がらせるその先数十キロ程の場所に砲弾は着水し、爆音と共に水柱を激しく吹き上がらせる。

 爆発で生まれた激しい衝撃が波を生み、船は大きく揺れ、冬華はバランスを崩しその場に尻餅を着いた。


「イタッ!」

「だ、大丈夫ですか? 冬華」

「だ、大丈夫……で、でも、今の……」


 差し出されたクリスの右手を取り立ち上がった冬華は、その視線を海上の艦隊へと向ける。

 悲鳴がこだまし、港に集まっていた人達は我先にと逃げ惑う。混乱する人々。その姿を見据え、クリスは拳を握る。許せる行動ではなかった。いきなり砲弾を撃ち込むなど。幸い負傷者は出ていない様だが、それでも――。

 怒りを押し殺すクリスに、冬華も静かに呟く。


「許せない……でも、私達だけじゃ……」

「はい……。海の上で私の力は無力ですし……何より、私達には海上の戦い方を知りません……」


 クリスも分かっていた。陸で戦うと海上で戦う事の違いを。何より、火属性の剣術を使うクリスにとって海上と言うのは最も力が発揮されない場所。故にクリスはただ堪えるしかなかった。

 二人の視線が漆黒の牙の艦隊へと向けられる中、シオは眉間にシワを寄せ不満そうな表情を浮かべていた。今の自分の状態から、まともに戦う事が出来ない事を考えると、自然とそうなった。この左足が全快だったなら、今すぐにでも乗り込んで行くのにと。

 一人でイリーナ城へ乗り込んで大暴れしたシオだ。その気になれば、あの艦隊の船を一・二隻は一人で沈める事が出来るだろう。それだけの実力があった。だが、それも左足がこんな状態でなければの話。今のシオに大勢を相手に戦うだけの力は無いのだ。

 その事を考え、シオは下唇を噛み締める。牙が唇を切り血が僅かに流れるが、そんな事気にせず悔しげに俯いた。

 静まり返るその一帯に突如、野太い声が轟いた。


「海賊女帝、パル! そろそろ、俺の女になる気になったか!」


 一帯へと轟くその野太い声に反応を示したのはグリーだった。驚いた様子で瞳孔を開き、オバールの艦隊へと目を向けるグリーはその口元へと薄らと笑みを浮かべ、ジェスの方へと体を向ける。

 その行動に訝しげな表情を浮かべるジェスは腕を組んだまま眉間にシワを寄せていた。だが、その肩をグリーは掴むと、力強い口調で告げる。


「マスター! いい作戦があります! 今すぐ、飛行艇に戻ってください!」

「は、はぁ? 何で、俺が飛行艇に? 出発するのはこの船で、飛行艇じゃない」

「そうじゃありません! いいから、飛行艇へ!

 今、ここにはこの作戦をやり遂げる為の鍵が二つそろってます」


 興奮気味のグリーに、ジェスは困惑気味に問う。


「待て待て。まず、作戦の内容を――」

「そんな時間はありません!」

「じゃあ、その二つの鍵って言うのは何だ?」

「一つは海賊女帝パルの存在。そして、もう一つが、マスターが乗ってきた飛行艇」


 グリーの答えにジェスの脳裏にも一つの作戦が浮かぶ。そして、この町に来た時どうして警備兵があれ程早く反応したのかも確信した。


「なる程なぁ……女帝パルが……。分かった。なら、ここは任せるぞ? グリー」

「えぇ。マスターも頼みますよ」


 ジェスはグリーと右拳を突き合わせると、静かに口元へ笑みを浮かべそのまま船から飛び降りた。それを確認し、グリーは船員を鼓舞する様に叫ぶ。


「野郎共! 出航の準備だ!」


 こだまするグリーの声に、船員達も大声で声を上げる。その声に耳を塞ぐ冬華。あまりにも声が大きく、思わずそうしてしまう。クリスも迷惑そうに表情を歪め、シオにいたっては思いっきり耳を折り曲げて音をシャットアウトし、平然とした表情で海上の艦隊を見据えていた。

 慌ただしく走り回る船員達に、冬華は落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見る。自分に何か出来る事が無いかと考え、そう言う行動をとっていたのだ。オロオロとする冬華に対しクリスは静かに微笑むと、その肩を掴む。


「冬華。落ち着いてください。船の仕事は彼らに任せましょう。私達に出来る事はありませんから」

「そ、そうかな?」

「オイラ達は戦いに備えるだけだな」


 拳を握り艦隊を見据えたまま微動だにしないシオがそう呟く。珍しく真剣な眼差しを艦隊へと向けるシオの横顔を見据える冬華とクリスは、顔を見合わせ首を傾げる。どうしてあんなに真剣な顔をしているのか分からなかった。

 一方で、高らかと声が船内に響く。


「船長! 一隻船が出航しました!」


 その若々しい声に、グリーは右手を振り上げ、空を見上げる。視線の先に見据えるのは、離陸する漆黒の飛行艇。こちらも準備が出来、グリーは出航の合図を大声で送る。


「出航だ! 海賊女帝、パルの船に続け!」

「おおおっ!」


 グリーの声に地響きを起こす程の声が轟き、船は岸から離れる。ゆっくりと軋みながら動き出す。

 出航すると同時に、砲弾が放たれる音が轟き、艦隊の方で水柱が上がる。海賊パルの船が砲撃を開始した様だった。それが合図だった様にグリーも指示を出す。砲弾を放てと言う指示を。声に出さずとも、長年の経験から船員達も分かっていたのか、その指示を出すその瞬間にすでに砲撃が開始される。

 その砲撃とほぼ同時だった。飛行艇は艦隊の上空へといつの間にか移動しており、爆雷を落としていた。激しい爆発が起き、固まっていた船からは火の手が上がる。突然の爆雷にオバールの海賊団は騒然とし、慌ただしい足音と声が響き渡る。


「くっそ! 盗賊ジェス!」


 野太い声が響き、その声にグリーは笑みを浮かべる。


「盗賊か……くくっ。そう言われるとそうかもしれないなぁ」


 そう呟き肩を揺らし笑うグリー。他の船員達も口を押さえクスクスと笑い、妙な空気が生まれていた。顔を見合わせる冬華とクリス。何故、船員達が笑っているのか分からなかった。

 そんな妙な空気を漂わせながら、船はオバールの海賊団の横をすり抜け、大海原へと飛び出す。それは、海賊パルの船とほぼ同時の事だった。正反対の場所から飛び出したその海賊の船に、グリーは静かに笑みを浮かべ、飛行艇へと手を交差させる様に振った。

 降り注いでいた爆雷はその合図で止む。そして、飛行艇は静かにゆっくりと旋回するとそのまま飛び立っていく。


「ここで、ジェスとはお別れか……」

「結局、色々と世話になりましたね」

「また、会えるといいね」

「そうですね」


 冬華は少しだけ寂しそうに笑い、クリスは小さく俯き瞼を閉じて静かに口元に笑みを浮かべた。考えれば色々と問題を持ち込んだのも、色々悩んでいる時に背中を押したのもジェスだったと、クリスはこれまで起きた事を思い返していた。

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