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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第68話 朱色の髪の少女

 冬華は一人ノーブルーの町を散策していた。

 ムスッとした表情で黒髪を肩口で揺らす冬華は、ミニスカートをはためかせ足を進める。


「全く、何処行っちゃったのよ!」


 頬を膨らしそう呟く。実はシオと一緒に町を散策していたのだが、途中で居なくなってしまったのだ。

 シオを探しながらブラブラと町を見ていた。体が動かせない間、この世界の文字を勉強した為、これでもある程度の文字は読める。その為、冬華はシオを探しつつも露店の看板に足を止めては中を覗いていた。

 ただ、文字は読めてもそれが一体何なのかは分からない為、店を覗いては肩を落とし出てくる。現在、冬華の予算は少なく、基本的に買える物が無い。出来れば、服を買いたいと思っていたが、やはり衣類は中々値が張る物ばかりだった。

 時折、飲食店らしき場所に入ったが、メニューを見ただけでは一体どんな料理なのか分からず何も頼まずに店を出ていた。どれ程の時間歩き回ったのか、冬華はこの町の中心にある広場のベンチに腰掛ため息を吐く。


「はぁ……折角、クリスがお金くれたのに……字が読めても何がなんなのかさっぱりだよ……」


 小言の様にぼやく冬華は、もう一度大きくため息を吐き両肩を大きく落とす。シオが居ればどんな料理なのかも分かるのに、と思いながら。こんな時、セルフィーユが居ればとしみじみ思う。物思いにふける冬華は小さく息を吐き広場へと目を向ける。

 広場は賑わっていた。パフォーマンスをする者が居れば、座り込み商品を広げ販売する者も居る。こう言う所は自分の居た世界とあんまり変わらないのだと妙に懐かしく思う。少しだけ心が安らぎ、自然と口元に笑みが浮かぶ。子供の頃休みの日に何度かこう言う光景を目にした覚えがあった。その時、誰かが一緒に……。そう思った時、頭に僅かに痛みが走る。


「イッ……」


 表情を歪め、右手で頭を抱える。今、明らかに拒絶した。その記憶の中の人物を思い出そうとすると、激しく頭が痛む。記憶の中にポッカリと空く穴。そこに彼は居たはずなのに、その顔が思い出せない。大切な思い出だったはずなのに――。

 頭を押さえ苦痛に表情を歪める冬華はその痛みから逃げる様に思い出す事をやめる。すると、自然と痛みも消えた。

 静かに息を吐き、冬華はゆっくりと顔を上げる。暫し、ボンヤリと広場を見据え、冬華は静かに鼻から息を吐きベンチから立ち上がった。迷子になったシオを探す為に。

 歩き出して数分。冬華は不意に足を止める。一軒の武器屋の前で。別に武器に興味があったわけじゃないが、何となく目に止まったのだ。いろんな武器が並ぶ店頭を見据える冬華に、店の亭主が気付き笑顔で接客する。


「いらっしゃい! お嬢ちゃん買い物かい?」

「い、いや――」

「それなら、コレなんてどう?」


 戸惑っていると、ここぞとばかりに亭主は身を乗り出し商品を勧める。もちろん、持ち金の少ない冬華は武器など買うつもりは無かった為、困った様に表情を引きつらせていた。

 亭主はその手に持った剣を冬華へと差出、満面の笑みでその剣の説明をする。


「コレは、今はやりの逆手刀。こうやって逆手に持ち使う剣だよ」

「へ、へぇー……そ、そうなんですか?」


 表情を引きつらせながら返答すると、店の亭主は更に身を乗り出しその剣を鞘から抜き、逆手に持ち軽く振っていた。全く武器に興味など無く、買う気も無い冬華だが、あまりに積極的な亭主に圧倒され思わず買ってしまいそうになる。

 だが、そんな冬華の後ろで幼い声が響く。


「買っちゃダメッスよ? それ、嘘ッスから」

「なっ! なんて事――」


 突然聞こえた声に、店の亭主が怒鳴り声をあげようとしたが、すぐに言葉を飲む。冬華もその幼い声に振り返ると、そこに一人の少女が居た。小柄な体に朱色のショートの髪を揺らし、背中に小さなリュックを背負ったその少女は亭主の握る逆手刀を見据え、目を細めるとそのまま亭主の顔へと目を向ける。


「何処ではやってるんスか? 自分、見たこと無いッスけど?」

「い、いや、そ、それは……」


 幼さの残る小柄な少女が威圧的な眼差しを向けると、亭主はシドロモドロになる。そんな亭主に対し胸を張りムスッと鼻から息を吐く。完全に言い包められた亭主は大人しく引き下がり、恨めしそうな目を少女へと向けていた。

 そんな視線を気にした様子は無く少女は冬華の方へと体を向けると、困ったような眼差しを向け、マジマジと冬華の姿を見据える。見慣れない冬華の服装が珍しかったのか、彼女はジッと冬華の姿を見据えていた。

 少女の視線に戸惑う冬華はどうしたらいいんだろうと、迷い目が泳ぐ。


「な、何?」

「うーん。見慣れない服装ッスね?」

「そ、そうかな?」

「うーん……あっ。そうじゃなかったッス。お姉さんはこの町に来たのは初めてッスか?」


 ニコッと子供の様な無邪気な笑みを浮かべる少女がそう尋ねる。可愛らしい少女の笑みに冬華は困った顔で答える。


「そうなんだよね。実は、知り合いと一緒だったんだけど……」

「はぐれちゃったんスね?」

「えっ? ち、違うから! 決して、私が迷子になったわけじゃないんだからね?」


 慌てて両手をバタつかせる冬華の姿に、少女は目を細め苦笑する。その眼差しに冬華は赤面し頬を膨らせ猛抗議する。


「ほ、本当に、違うんだから! 迷子になったのは私じゃなくて――」

「わ、分かったッスから。落ち着くッス!」


 息を荒げる冬華を見かね、少女がそう叫ぶ。周囲の人の視線が集まり、更に恥ずかしさで冬華の顔は赤く染まる。俯き「うぅーっ」と呻き声を上げる冬華に、少女は相変わらず苦笑し肩を小刻みに揺らす。と、その時、何処からか声が響く。


「ミィ!」


 猫の様な名前を呼ぶその声に、俯いていた冬華の顔が跳ね上がる。聞き覚えのある声。だが、その声を主の顔を思い出そうとすると、激しく頭が痛む。

 激痛に表情を歪め、右手で頭を押さえていると、少女は行き交う人の向こうへと視線を向ける。そして、誰かの姿を見つけたのかすぐに冬華の方に顔を向けると、嬉しそうな顔で小さく会釈する。


「それじゃあ、自分はそろそろ行くッス。詐欺には気をつけるッスよ!」


 明るく元気な声で冬華へとそう告げ、少女は走り出す。その背中へと目を向けると同時に、声が聞こえた。


「おーい! 冬華!」


 と、言う自分の名前を呼ぶ声が。その声へと視線を向けると、左足を引き摺りながら金色の髪を揺らすシオが笑みを浮かべていた。そのシオの顔に、冬華はさっきの声の事など忘れ、「シオ」と、安堵した様に息を吐き答える。

 頭を掻くシオは悪びれた様子も無く笑い、冬華の前で足を止めた。


「いやー。探したぞ? 何処行ってたんだ?」


 まるで冬華が迷子になったと言わんばかりの態度をとるシオに対し、冬華は表情を引きつらせ笑みを浮かべると、軽く拳を握り締める。そもそもの原因はそれはシオにある。


「食い物の匂いがする!」


 と、言い痛むはずの左足で全力疾走し、突然冬華の目の前から去っていったのだから。しかも、現在左足を引きつって歩いている事から、すぐに全力疾走した悪影響が出ていると分かり、冬華は呆れた様に大きくため息を吐くと、ジト目を向け小さく頭を振った。


「あんたねぇ……」

「悪かったって。いや、本当に反省してるんだって」

「……別に怒ってないから」

「ほ、本当か?」

「えぇ。それより、そろそろ港に行こうか? クリスとジェスの交渉も終わってるだろうし」


 笑みを浮かべ答えた冬華に、シオは「そうだな」と静かに答える。そして、歩き出す。二人並んで港に向かって。

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