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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第64話 衝撃的な情報

 深夜。

 クリスは自室に一人篭っていた。

 机に灯した小さなランプの明かりをジッを見据えるクリスは、悩んでいた。ゼノアに告げられた。


“ここで、私の右腕として働いてくれないか”


 と、言う言葉に。

 もちろん、冬華を元の世界に帰したいと言う気持ちがあったが、それ以上にゼノアに対する恩義があった。この国に来て間もない頃、ゼノアには様々な事を教わり騎士団の副隊長にまで成長出来た。その恩義があるからこそ、ゼノアが自分の力を評価し、必要としている事は嬉しかったし正直力になりたいとも思っていた。

 本来なら、即答で断るべきなのだろう。


「私は冬華を元の世界に帰す為の方法を探さなきゃいけない」


 と。

 でも、その言葉が出てこなかった。ゼノアの真剣な眼差しに、思わず「はい」と答えそうになるのを堪えるので精一杯だった。

 奥歯を噛み締め机へと肘を着き手を組むクリスは、静かに瞼を閉じ小さく吐息を漏らした。



 静まり返った城内をシオは徘徊していた。ひんやりと冷たい廊下を素足で歩む。左足を僅かに引き摺り時折嫌な音を響かせながら。何処かを目指すわけでもなく、ただ夜の廊下をひたすら歩き回っていた。

 セルフィーユが消えた事を未だに信じられず、今もまだ見えないだけでそこに居るんじゃないかと思えてしまう。

 でも、シオは確かに見た。セルフィーユが光となったのを。

 シオは確かに聞いた。セルフィーユの最後の言葉を。

 だから、自然と涙が溢れ出す。知らぬ間にゆっくりと頬を伝い、零れ落ちる。

 ボンヤリと歩みを進めていたシオの足が不意に止まり、溢れ出ていた涙を右手の甲で拭う。その背後に浮かぶ人影は、そんなシオの姿を真っ直ぐに見据え、大人びた静かな口調で尋ねる。


「こんな時で悪いが、ちょっといいか?」


 ジェスだった。なにやら神妙な面持ちで、シオを見据える。その後ろにもう一つ誰かの影が見えるが、シオには見覚えの無い男だった。暗がりでシオの所からよく顔は見えないが、それでも印象的な蒼い短髪だけは目に留まった。

 心の奥底にポッカリと穴の開いた様な妙な感情のまま、シオは呆然とした様子でジェスの方を見据えていた。視点が上手く定まっていない様にも見え、ジェスは少々心配そうな眼差しを向ける。言うべきか迷っていた。

 現在、ジェスはシオに関する一つの情報を知りえていた。それは、数時間前、ギルドのメンバーから伝えられた重要な情報。この国の今後に係わる事でもあり、シオにとっても重大な事でもあった。その為、ジェスは悩みに悩み、静かに口を開く。


「お前に伝えたい事がある」

「オイラに伝えたい事……」


 弱々しく力の無いシオの声を聞き、ジェスは表情をしかめた。こんな状態のシオに伝えるべきなのかと。だが、ジェスは静かに息を吐き、意を決し伝える。


「獣王直属部隊、第三軍が壊滅したらしい」


 そのジェスの言葉にシオの目が見開かれ、驚いた表情で真っ直ぐにジェスを見据える。

 獣王直属部隊、三人の魔王の一人である獣王ロゼに認められた五つの部隊の一つで、人数は数百名と少ないが、その戦力は他国の数千の戦力に匹敵する程だと言われている。そんな部隊が壊滅したなどとシオは信じられず、ジェスを睨み左足を引き摺り歩み寄ると、その胸倉を掴む。


「嘘つくな! そんな事あるわけ無いだろ!」

「嘘じゃない。これは、俺のギルドの諜報部隊が得た正確な情報だ。それと、もう一つ――」


 ジェスの唇が静かにその言葉を口にした直後、シオの表情がみるみる怒りに満ち、その拳がジェスの頬を殴り飛ばした。


「ジェスさん!」


 慌てた様子でその背後に佇んでいた若い男が声をあげ駆け寄ると、ジェスは右手で制し切れた口角から流れた血を左手で拭う。

 呼吸を乱し肩を激しく上下に揺らし、鬼の様な形相でジェスを見据える。血走ったその眼差しにジェスは獣王の片鱗を見た気がした。そんなシオの眼差しを見据え、ジェスは静かに立ち上がり答える。


「信じられないだろうが、事実だ」

「ふざけるな! 親父が……親父が……死んだだと!」

「ああ。何者かに襲撃され、意識不明だったが、先日息を引き取ったそうだ」

「な、何で、何で親父が……」


 拳を握り奥歯を噛み締めるシオに、ジェスは小さく首を振る。


「分からない。だが、もしかすると、今回殺されたザビット同様に、何かがあるのかも知れない」

「どう言う事だ」


 怒りを滲ませながらそう問い掛けるシオに、ジェスは自らが考えた仮説を語る。


「ザビットとロゼ。国を担う二人の王がほぼ同時期に殺されるなどおかしい。

 それに、ザビットは兎も角、ロゼを殺せる人間などそうは居ない」


 ジェスも獣王であるロゼの強さを知っていた。それはまさに山の様な男。威圧感があり、とてもじゃないが敵うイメージが湧かない。まさに三人の魔王の一人と言われるだけはある男だ。その男を殺すほどの力を持つ者など、三人の魔王の誰かか、それこそ英雄位のものだった。

 奥歯を噛み締め怒りを必死に押さえ込もうとするシオは、握り締めた拳から血を滴らせながら静かに口を開く。


「当然だろ……。それに、親父を襲撃したって、どうやってそんな事……」

「それは分からん。だが、ロゼが倒れていた部屋には無数の弾痕が残されていたらしい」

「弾痕……」


 ボソリと呟いたシオはふとその脳裏に思い出す。自分が対峙した一人の男の姿を。黒衣に身を包み、銃を持つその男の姿を思い出すと、シオの左足がズキズキと痛んだ。そして、確信する。自分の父であるロゼを殺したのはあの黒衣の男だと。


「アイツが……親父を……」


 低い声を漏らすシオに、ジェスは訝しげな表情を浮かべる。シオが何を考え、何を思っているのか分からない。それでも、シオの気持ちは分かった。だから、静かに告げる。


「怒りは判断を鈍らせるぞ」

「分かってる……でも……」

「相手を恨むな、憎しむなとは言わない。だが、今はそれを表に出すな」


 ジェスの言葉にシオは瞼を堅く閉じると握っていた拳から力を抜く。ジェスの言わんとしている事は理解していた。冬華を支えてやらなきゃいけないこんな状況で、自分が憎しみに囚われ暴走するわけには行かないと必死に怒りを押し殺す。

 それでも、納得がいかない。何故、父であるロゼが殺されたのか。一体、何の目的が――。様々な考えが頭の中を過ぎる。だが、その刹那、静かな廊下内に大きな物音が響く。その物音にシオとジェスは瞬時に反応し、走り出す。痛みで左足を引き摺るシオを横目で見据えジェスは先を急ぐ。



「イタタタッ……」


 廊下の隅で冬華は転倒していた。小さな棚ごと花瓶を倒して。

 まだ足がおぼつかず転んでしまったのだ。

 僅かな頭痛に表情を歪め壁に手を着き立ち上がる。すると、そこにジェスとシオが姿を見せた。


「冬華……」

「こんな所で何してんだ!」


 ジェスが静かにその名を呼び、遅れてシオが怒鳴る。その声が広い廊下に反響した。冬華は僅かにだが安心した様な表情を浮かべると、シオの顔を笑顔で見据える。


「よかった……。無事だったんだ……」


 ホッと息を吐き肩を落とした冬華の姿に、シオは唇を噛み締める。今は、父の死よりももっと重大な事があると。セルフィーユから託された冬華を元の世界へ帰すまで守ると言う約束を思い出したのだ。今、自分がすべき事を。

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