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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第60話 次期国王

 数日が過ぎ、現在イリーナ王国では葬儀が行われていた。

 十五年と言う長い間その王座に座り続けていたザビットの葬儀だ。城内の兵士達からはあまり慕われていなかったが、国民からの支持は多く、国中を上げて葬儀は行われた。三日三晩葬儀は続き、イリーナ王国領土内は静まり返っていた。

 一方、城内では騒ぎが起こっていた。それは、次の王となる者を決める争いだった。ザビットに子供は居らず、兄弟もすでに他界していた。その為、現在この国の全ての騎士兵団の各隊長と国内有数の貴族達による次期王の会議が行われ、クリスとジェスもその会議に参加していた。

 理由は数日前に起きた暴動を治めたから。本来なら英雄である冬華が参加するべきなのだが、状況が状況なだけにその冬華と一緒に居たクリスとジェスが参加する事になったのだ。

 次期王が誰になろうが全く興味の無いクリスとジェスだったが、ゼノアたっての願いだった為、渋々会議に参加する事にした。

 この国の貴族であるスターライト卿、ルバール卿、ベルゴー卿の三人が、一番奥の席を陣取っていた。

 右の席に座るスラッとした長い黒髪を頭の後ろで束ねた男がスターライト卿。歳は二十代後半程で、イリーナ王国の北に位置する小規模の複数の町をまとめ、国民から慕われる優男だ。

 その反対である左の席に座る小太りで脂ぎった黒髪の男がベルゴー卿。歳は四十代前半で今だ独身。イリーナ王国の南部にある商業都市グーパーにて、大成をなした男だ。

 そして、真ん中に座る体格の良い老けた顔の男がルバール卿。老け顔だが、その歳は二十代後半で白髪混じりの黒髪は、それ程苦労してきた証だった。彼はこの国で最も貧困層が多い西の国境付近の町を治めている。この三人の中では貴族と言うより平民に近い存在で、西部で土地を開墾し民衆と共に畑を作っており、貧困層から信頼の高い男だ。

 この三人が招かれたのは、次期王をこの三人から選ぶ為だった。国王であるザビットの死も、先に起きたあの暴動もすでに国内に広まっており、その暴動についてもこの三人は問いただしに来たのだった。

 先陣を切る様に口を開いたのはルバールだった。


「先日の反乱。その事について説明をしていただけますか? 討伐部隊隊長、ゼノア殿」


 静かにその手を机で組み、机へと身を乗り出すルバールは渋い声でそう問いただす。静かで落ち着いた口調のルバールに、ゼノアは椅子に座ったまま深く頭を下げると、静かに立ち上がる。静まり返るその中で、三人の視線を集めるゼノアは、小さく息を吐きゆっくりと口を開く。


「はい。私は確かに国王であるザビットへと刃を向けたのは事実。その私がこの様な場所に――」

「そうではなく、何故、その様な経緯に至ったのか。その説明をして欲しいのです」


 ゼノアの言葉を制する若々しいスターライトの声。少々厳しい口調の彼は、真剣な眼差しをゼノアへと向ける。これでも、彼はゼノアと親しい間柄だった。その為、ゼノアが国王であるザビットに理由も無く刃を向けるわけが無いと、そう思っていたのだ。

 その声に対し、ゼノアの対面に座る包帯を巻いた男が立ち上がり声を上げた。


「申し上げます。あの反乱は、彼の責任ではございません! ここに居る皆が、ザビット様の言いなりになり、あの薬に手を染めたばかりに……」


 拳を握り締め、表情を歪める男。彼はこの国の二極である男、リゼットだった。彼はあの日あった事を全て告げる。自分達がザビットの命で薬を飲み、その影響により暴走し町の人たちに手を掛けた事も。それが、薬の影響だとしても許されざるべき事と、自らの裁きを懇願していた。そこに集まった各部隊長皆がその気持ちだった。


「そうか……では、反乱と言うのは致し方なかったと?」

「しかし、胡散臭い話じゃありませんか? そんな人の感情を狂わせる薬など、見た事も聞いた事もありませんよ?」


 商人でもあるベルゴーがルバールの言葉に対し、鼻の穴を大きく広げそう呟く。ルバールもその様な薬は見た事が無かったが、ゼノアの為にここに居る全ての者が口裏を合わせる理由など無いと考えていた。もちろん、僅かな疑いはあったが、それでも今は皆を信じる事にしたのだ。

 静かに息を吐くルバールの横で、スターライトが不意にジェスへと目を向け、訝しげな表情を浮かべる。


「おや? 彼は……国境付近の小さな村のギルドマスターでは?」

「んっ? 俺を知ってるのか?」


 目を細めるスターライトに、ジェスは少々嬉しそうな表情で答える。ギルドの事を知ってもらえている事が嬉しかったのだ。これでも、ギルドマスター。何れは世界に名を轟かせたいと夢見ているのだ。

 そんな嬉しそうな表情のジェスに、スターライトはニコリと笑みを浮かべると、


「えぇ。一度お会いしていますよ? とある町で」

「へぇーっ。とある町で……」


 ジェスは腕を組み記憶を辿る。全く覚えていなかった為、ジェスは笑顔で答える。


「悪い。全然覚えてないや」

「そりゃ、そうでしょうね。西の魔科学研究所で行われた魔動車試作品披露会で、あなたは悠然と私の目の前で魔動車を盗み出していきましたから」


 にこやかな笑みを浮かべ答えるスターライトに、ジェスの笑顔が凍る。その隣で拳を握るクリスは引きつった笑みを浮かべジェスの顔を横目で睨んだ。


「貴様……そんな事をしてたのか?」

「い、いや。まぁ、昔の話……ですよね?」

「えぇ。つい一年も前の事ですから」


 ニコッと笑みを浮かべるスターライトにジェスは目を細め、クリスは握った拳を震わせる。完全に怒っていると分かったジェスは、どうやってこの場を乗り切ろうか考えていた。

 一方で、驚いた表情を見せるベルゴーは、スターライトの方へと顔を向け、汗を拭きながら尋ねる。


「スターライト卿はミラージュ王国によく行かれるんですかい?」

「まぁ、知人がおりまして。彼を経由してよく魔科学研究所へは、お邪魔していますよ」

「ほほーっ。魔科学研究所へ。もしよければ、次回は私も――」


 ベルゴーが口角を上げ言葉を告げていると、唐突にゼノアが机を激しく叩き真剣な顔で三人を見据える。その音にベルゴーは驚き「何の真似ですか!」と声をあげ、スターライトも訝しげな表情をゼノアへと向ける。一方で、ルバールは小さく吐息を漏らし、静かに口を開く。


「今は、その様な話をしている時ではない。我々が呼ばれた理由。それは、次期王の事ですな?」


 真っ直ぐにゼノアの目を見据えるルバールの淡い青色の瞳に、ゼノアは静かに頷き答える。


「はい。私は、ルバール様。あなたにお願いしたいと思っております」


 ゼノアの言葉に、各部隊長達は小さく頷く。皆の意見は満場一致でルバールだった。スターライトを押す者も居たが、彼は放浪癖がある為、王には向かないだろうとの理由で却下されたのだ。その事を知ってか、スターライトも小さく何度も頷き、ベルゴーも額の汗を拭い二度頷く。

 ベルゴーも、その意見に賛同していた。彼は元々玉座に興味が無く、それに国を動かす様な器の人間では無いと言う自覚があった。それは、彼がローグスタウンのスラム出身と言う経緯があったからだ。そんなスラム出身の男が国王になったとアレば、国民がバカにしかねないと、彼はこの談義が行われる前にすでに断りの書文を送っていた。

 故に、ルバールが国王に相応しいと言う事になったのだ。

 静かなその中で、ルバールは静かに息を吐くと、小さく首を振る。


「いや。私は、自らの土地の事で手一杯。この中にもっと国王に相応しい者が居るんじゃありませんか? ゼノア殿」


 突然の言葉にゼノアは驚く。まさか、断られると思っていなかった。いや、それよりもルバールが自分を指名するとは夢にも思っていなかった。ザワメクその中で、ゼノアはただ呆然と立ち尽くす。

 そして、ルバールは静かに立ち上がり、その淡い青の瞳を向けゆっくりと口を開く。


「我々貴族は国を支える柱となりましょう。あなたはその地盤となり国民を導くべきなのでは?

 私は、あなたほどこの国を愛し、この国を守ろうとしている方を知りません。その強い気持ちのあるあなたが、次代を担うべきなのだと、私は思う」


 ゼノアよりも若いルバールのその言葉に、皆は息を呑む。重々しくあり、深いその言葉がゼノアの胸に突き刺さる。穏やかな表情を見せるルバールに、スターライトもベルゴーも静かに立ち上がり拍手を送った。その拍手は次第に全ての者へと伝わり、大きな拍手が起きる。

 呆然と立ち尽くしていたゼノアは、その握手に我に返り拳を握り僅かに俯く。彼の意思が伝わり、奥歯を噛み締め静かに告げる。


「不甲斐ないこんな私に、皆着いて来てくれるのか……」


 俯くゼノアに、皆心からの拍手を送り続けた。

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