表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
56/300

第56話 ゼノア

 衝撃が魔動車を襲う。

 車内は激しく揺れ、その揺れに冬華が悲鳴を上げ、クリスは表情を歪める。その中でジェスだけが不適に笑みを浮かべていた。フロントガラスを襲う眩い光が徐々に弱まり、衝撃も緩やかに変わる。だが、車内は何事もなかった様に静まり返り、傷一つついていなかった。

 恐る恐る瞼を開く冬華は、そんな車内を見回し不思議そうに首を傾げる。あれ程の炎の弾を浴びてなんとも無いなんてありえない事だと。不思議そうにする冬華の隣で、クリスは訝しげな表情をジェスへと向ける。


「どう言う事だ? 今のは?」

「言っただろ? 実践だって」

「実践も何もあったもんじゃないだろ! 一体、何を考えてるんだ!」


 怒鳴り声を上げるクリスに、ジェスは困った様に笑みを浮かべ、今起こった原理を説明する。


「この魔動車には特性がある。それは、魔法石の属性によって、特殊な力を発揮する事だ」

「それは分かった。それで、今、何が起きたんだ? 何故、私達は無事なんだ?」

「土属性の魔法石。この力は守護。全ての攻撃を防ぐ守りの壁となる。ただし、欠点があって……」

「欠点?」


 表情を曇らせるジェスに冬華が小首をかしげ尋ねると、ジェスは小さく頷き言葉を続ける。


「土属性の魔法石を使用した場合、この魔動車は動けない。

 原因として言えるのは、守りの壁となるこの時の魔動車の重量は数十トンにも及ぶ為、走行不能となるからだ」

「……全く持って使えんな」


 ボソッとクリスが呟きジト目をジェスへと向けると、ジェスの表情が引きつる。クリスの言っている事が正しいと言う事を本人が一番分かっていたのだ。やや落ち込み気味のジェスに対し、セルフィーユは興奮気味に声をあげていた。


『す、すす、凄いですっ! 人間の科学力もここまで進歩してたんですねっ! 私、感動ですっ!』


 両拳を胸の前で握り締め、ジェスの方へを目を輝かせるセルフィーユに、冬華は一人苦笑した。感動を伝えたいのだろうが、その声が聞こえるのは冬華とシオだけ。クリスとジェスにはその声は聞こえていない為、そのセルフィーユの感動も半減されていた。

 うるんだ瞳で冬華の方へと近付くセルフィーユは、クスンと鼻を鳴らすと落ち込んでしまった。流石に自分の声が届いていない事に気付いた様だった。

 落ち込むセルフィーユに、冬華は「大丈夫。気持ちは伝わってるはずだから」と慰めの言葉を掛けた。

 落ち込んでいたジェスは気持ちを切り替えると、クリスへと真剣な眼差しを向け静かに口を開く。


「それより、行くぞ」

「行く? ここからどうするって言うんだ?」

「もちろん、自分の足で突き進むに決まっているだろ? それに、ゼノアに聞きたい事があるんだろ?」


 ジェスの言葉にクリスは僅かに俯き表情をしかめる。何故、ゼノアが反乱を起こしたのか、その事を問いただす為にここに来たのだ。僅かな沈黙の後、クリスは小さく頷きジェスを真っ直ぐに見据える。その真っ直ぐな瞳に、ジェスも小さく頷き、二人はほぼ同時にドアを開く。


「冬華。あなたはここで待っていてください。すぐに戻りますから」


 外へと飛び出したクリスがそう告げると、ドアを閉め駆け出す。その後姿を窓ガラス越しに見据える冬華はその視界に妙な黒い影を見た。それは、以前見た事のある黒いモヤの様な影だった。その瞬間、体が硬直し、僅かに肩が震える。直感していた。また、あの力を使わなければならないと。あの痛みを、あの苦しみを、また――。

 瞳孔を開き震え出す冬華の姿に、セルフィーユはどうしていいのか分からず、オロオロとその場でうろたえていた。

 外へと飛び出したクリスとジェスは、激戦地の中でゼノアの姿を探す。どっちが反乱軍でどっちが王国軍なのかの区別も着かない程混戦になっていた。皆同じ鎧、同じ甲冑をしている所為だろう。その為、クリスとジェスは向かってくる兵士を片っ端から切りつけていた。


「ジェス。これじゃあ、きりが無いぞ」

「仕方ないだろ。俺も情報が少ないんだ。と、言うか、この兵士の数はおかしいだろ。数万は居るぞ?」


 響き渡る剣と剣がぶつかり合う音、魔法と魔法がぶつかり合う音。その騒々しいまでの轟音の中、戦う兵士の数は数万と言うほぼイリーナ王国の全兵力がここには集まっていた。各所の護衛部隊から討伐部隊、偵察機動部隊と言った全ての部隊がそこには集まっていたのだ。クリスも知らない部隊長から何度か顔を合わせた事のある部隊長まで狂った様にその力を振るっていた。

 明らかにおかしな現状だ。高々数千――いや、数百人程の反乱軍に対し、この国全ての兵力をぶつける意図が分からない。各地の守備部隊までこの場に呼び寄せてやる事ではない。幾ら、この国の王が無能と言え、そんな事を各部隊長が許すわけが無い。

 小さく舌打ちをしたクリスは、その視界の端に見慣れた部隊長を発見する。それは、ゼノアの友人であり二極を争うこの国の最強の盾と呼ばれる護衛部隊隊長であるリゼット。彼を見つけ、クリスは叫ぶ。


「リゼット隊長!」


 だが、クリスの声にリゼットの口から吐き出された声は――


「うぐぅぅぅぅっ! あがぁぁぁっ!」


 と、言う呻き声の様な言葉にならないモノだった。その変わり様にクリスは驚きたじろぐ。その瞬間、リゼットはその手に持った剣を振り上げクリスへと襲い掛かる。戸惑いから僅かに反応が遅れたクリスに、ジェスが叫ぶ。


「クリス!」

「くっ!」


 奥歯を噛み締め身構えるクリスに重々しく剣が振り下ろされた。咄嗟に剣を体の前へと出し刃を受け止める。鈍い金属音が響き、火花が激しく散る。後方へと大きく弾かれたクリスは足元に土煙を巻き上げ衝撃に耐えると、表情を歪めリゼットへと視線を向けた。

 今の一撃は間違いなく本気の一撃。刃が未だに震え、腕が痺れる。これが、元自分の所属していた部隊の隊長であるゼノアと対を成す男の本気。それを肌に感じ、クリスは表情を引きつらせる。今の一撃だけで分かった。リゼットがどれ程強いのかと言う事を。

 改めて自分がまだまだ弱いのだと実感するクリスは、覚悟を決めた様に静かに息を吐き出すと真剣な強い眼差しをリゼットへと向けた。


「うぐぐぅぅぅぅぅっ……」

「リゼット隊長……。何があったかは分かりませんが、立ちふさがるなら、私はそれを超えていく」


 半開きの口からヨダレを滴らせるリゼットに、クリスは肩口まで腕を上げ水平に剣を構え切っ先をリゼットへと向ける。そんなクリスに対しリゼットは左足を踏み込み、大きく外側から力任せに剣を振り出す。だが、クリスもそれを迎え撃つ様に左足を踏み出し腰を回転させ両手で握った剣を振り抜く。

 重々しい金属音が響き激しい火花を散らせ交錯した二つの刃が大きく弾かれる。力と力のぶつかり合い。後方へとよろめくクリスに対し、リゼットはすでに右足を踏み込み大きく剣を振りかぶっていた。クリスが僅かに力負けしていた。これでも力には自信があったクリスは表情を歪め、剣を振りかぶるリゼットの姿をジッと見据える。


「うがあああああっ!」

「クリス! 倒れ込め!」


 唐突に背後から聞こえた聞き覚えのある声に、クリスは踏ん張る足から力を抜き後方へと身を投げ出す。その瞬間、舞い上がる白銀の髪を掠め、クリスの顔の前を大剣が通り過ぎ、リゼットの鎧で守られた腹を叩く。鉄の鎧が砕ける音が響き、リゼットは吐血し後方へと弾き飛ばされた。

 地面へと仰向けに倒れたクリスはすぐに身を翻すと顔を上げる。


「ゼノア隊長!」

「あんたが、ゼノア……」


 クリスの声に渋い表情を浮かべるジェスは、クリスの横で大剣を携えるその男の姿に目を向ける。三十代半ばの渋い顔立ち。白髪混じりの短い黒髪を僅かに揺らし、雄々しくそこに立つその男は右手に持った大剣をかざし、叫ぶ。


「グランドスマッシュ!」


 大剣が輝き、その切っ先を地面へと突き立てる。刹那に前方へと広がる衝撃が地面を砕き、土の波が前方に居た兵士達を呑み込んで行く。その一撃は広範囲に広がり、未だ地面は緩やかに波打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ