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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第53話 シオの考え セルフィーユの勘

 ジェスと別れたシオは、一人村はずれの木陰で左膝を立て座り込んでいた。

 人通りも少なく考え事をするには最適な場所だと、働かない頭をフル稼働し何とか判断したのだ。ジェスに告げられた事が相当堪えていた。

 何れ、冬華と……。

 そう考えると胸が痛む。最初はただ利用するだけのつもりだったのに、いつの間にこんなに心を許してしまったのだろう。握った拳を地面へと叩きつけたシオは、目を伏せ奥歯を噛み締める。と、そこに、ふらふらと姿を見せたのはセルフィーユだった。シオとジェスの話をたまたま聞いてしまい、心配になりやってきたのだ。


『し、シオさん……』

「わりぃ……。今は、一人にしてくれ」

『でも……』

「いいから、一人にしてくれ……」


 地面に突き立てた拳を震わせるシオに、セルフィーユは何も出来ずただ心配そうな表情を向けるだけ。どうしていいのか分からなかったのだ。その場に浮遊し、ただシオの姿を見据えるセルフィーユは胸の前で手を組み心配そうな表情を浮かべる。

 やがて、静かに風が吹きぬけ、草木がざわめき、セルフィーユは静かにシオの隣へと腰を下ろす。


「一人にしろって言ってるだろ!」

『いいえ。今、一人にすると何するか分かりませんから』


 セルフィーユはシオを見ないままそう答えると、膝を抱える。そんなセルフィーユにシオは眉間にシワを寄せるが、それ以上何も言わなかった。どうせ何を言ってもそこから動くつもりは無いのだと、分かったからだ。

 静かに流れる時の中で、セルフィーユは空を見上げ静かに呟く。


『ジェス様との話、聞きました。

 正直、冬華様が前の英雄様と同じ道を進んでいるなんて思っても見ませんでした』

「そうだな……」

『でも、冬華様は冬華様です。前の英雄様とは違うんです』


 胸の前で拳を握り力説するセルフィーユに、シオは面倒臭そうに表情を歪める。


「何が言いたいんだ?」

『えっ? いや、冬華様は、シオさんと戦うなんて事無いと……。

 それに、シオさんが冬華様の敵になるなんて事無いって、私は信じてます!』

「何を根拠に……」

『それは、私の勘です! 聖霊の勘は良く当たるんですよ!』


 ニコニコと笑みを浮かべるセルフィーユに、シオはジト目を向け「勘かよ」と小声で呟いた。えへへと、笑うセルフィーユの顔を見据え、シオは深く息を吐く。何だかセルフィーユを見ていると悩んでいた事がバカバカしく思い、シオは肩を落とし口元に笑みを浮かべた。

 今、考えてもしょうがないと、割り切る事にしたのだ。そうなると決まったわけでも無いし、この先どうなるかはわからない。その時になったら考える事にした。後先考えないのが自分らしいとシオ自身思っていたのだ。

 肩を落とし息を吐いたシオは、木の幹へと背中を預け空を見上げた。青い空を流れ行く無数の雲を見据えるシオの金色の髪を、優しく風が撫でる。

 鼻から大きく息を吸い込んだシオは瞼を閉じ、心を静める様にゆっくりと息を吐く。やがて、頭の中は無になる。落ち着き頭の中を空っぽにしたシオがゆっくりと瞼を開くと、静かにセルフィーユは尋ねる。


『どうですか? 考えはまとまりましたか?』

「いや。考えるのは止めた」

『そうですか。まぁ、でも、その方がシオさんらしいですね』

「ああ。今からそんな起きるか分からない先の事を考えるなんて、オイラらしくない。だから、考えるのは止め止め!」


 頭の後ろで手を組み笑うシオだが、すぐにその表情が一変する。その表情の変化と同時にセルフィーユも突如上空へと浮き上がり一点を見据える。奇しくもその見据える先は二人共同じ方角。同じ場所だった。


「い、今の……」

『な、何だか、背筋がゾワッとするものを感じました!』


 二人は同じ脅威と同じ感覚を体に感じていた。完全にセルフィーユの感知能力が戻っている事をシオは再確認し、同時にセルフィーユへと怒鳴る。


「お前は、すぐに冬華に知らせろ。何だか、嫌な感じの気配だ……。しかも、あの方角は……」

『はい。でも、シオさんは――』

「オイラは先に行く。何か妙な胸騒ぎがする」

『む、無理はしないでください! すぐに冬華様達を呼んできますから!』


 セルフィーユがギルドの方へと戻っていくのを確認し、シオは走り出す。妙な気配が漂い始めた冬華が目指そうとしている場所。イリーナ城の方角へと向かって。

 シオが感じ取ったのはこの方角に数百メートル進んだ場所から放たれる異様な殺気だった。セルフィーユが同じ物を感じ取ったのかは分からないが、この殺気にシオの毛と言う毛が逆立ち、体を僅かに震わせる寒気が襲った。それが何者なのかは不明だが、明らかにその殺気は自分達に向けられたモノだとシオは判断したのだ。

 近付くにつれ放たれる殺気の濃度が濃くなり、シオの動悸は激しくなる。視界が歪み、平衡感覚を失う程の威圧感に、やがてシオはゆっくりと足を止め、その膝に両手をつく。


「はぁ……ぐふっ……あぐっ……」


 胸を押さえ表情を強張らせる。あの魔術師と対峙した時の感覚に少しだけ似ていたが、あくまで遊び感覚だったあの魔術師と違い、今回の相手が本気で殺しに来ている事をヒシヒシと肌に感じていた。

 放たれる殺気だけで意識が飛んでしまいそうになるシオは、激しく肩を上下に揺らし目を凝らす。もう見える距離に居るはずなのだ。走ってきた距離、放たれる殺気の濃度。シオの感覚に狂いが無ければ、すでに相手の姿は見える距離にいる。そう確信し顔を上げるシオの視界に飛び込む。黒衣を纏った人物が――。

 深くローブを被り、その顔を隠しているが、間違いなくあの魔術師の仲間だとシオは確信する。同じ匂いがしたのだ。あの魔術師と。ただ違うのは、そいつは大きく開いた袖口から黒光りする一丁の銃を覗かせ、その銃口が真っ直ぐにシオへと向けられ、やがて鳴り響く。甲高い銃声が。



 ギルドへ居る冬華の下へと急いだセルフィーユは、壁をすり抜け趣味の悪いジェスの部屋へと飛び込む。


『と、冬華様!』

「セルフィーユ? どうしたの?」


 慌ただしく部屋へと飛び込んで来たセルフィーユへと、驚いた様子で声を掛ける。その冬華の言葉で部屋にセルフィーユが来たのだと分かったクリスは、冬華の見据える先へと視線を向け目を凝らす。だが、その目にはセルフィーユの姿は映らなかった。

 不満そうに眉間にシワを寄せるクリスに、冬華は苦笑しながらセルフィーユの方に顔を向ける。


「何かあったの?」

『は、はい! じ、実は――』


 セルフィーユが呼吸を乱し答え様とした時、乱暴に扉が開かれジェスが部屋へと慌ただしく入ってくる。その物音に三人の視線がジェスへと向ける。強張らせた表情で冬華とクリスを見据えるジェスは、肩を上下に揺らし静かに告げる。


「大変だ。今、連絡があったんだが……。イリーナ城で反乱が起きた」

「なっ! 反乱が起きた? 一体、誰が!」


 驚愕し声を張るクリスに、ジェスは複雑そうな表情を浮かべると、視線を僅かに落とし静かに口を開く。


「反乱を起こしたのは……第一討伐部隊隊長、ゼノア」

「ぜ、ゼノア! それは本当なのか!」

「お、落ち着いてクリス!」


 ジェスの胸倉を掴みにじり寄るクリスを、冬華は後ろから押さえる。それでも、クリスの腕力は強く、冬華の腕を軽く振り解き、ジェスの顔を睨む。

 振りほどかれた冬華は尻餅を着き、「イタッ」と声をあげ、セルフィーユは慌てて冬華の下へと身を寄せた。


『大丈夫ですか?』

「えぇ、それより……クリス! ちょっと落ち着きなさい!」

「――ッ!」


 冬華の一喝でクリスの動きが止まる。ジェスの胸倉を掴むその手から力が抜け、クリスは奥歯を噛み締めたまま息を静かに吐き出す。まだ納得はしていない様だったが、それでも感情を押し殺すクリスに、冬華はホッと胸を撫で下ろすとジェスの方へと視線を向ける。


「とにかく、話は移動しながら聞きましょう。それで、シオは……」

『そ、それが――』


 冬華の言葉に、セルフィーユが思い出した様に告げる。シオが一人で行ってしまった事を。

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