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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第51話 英雄としての道

「それで、帰る方法は分かってるんですか?」


 シオが粉砕したテーブルを片しながらクリスが尋ねる。現在、部屋には冬華とクリスしか残っていなかった。シオとジェスの二人は二つに割れたテーブルをこのギルドの外にあるゴミ捨て場へと運ぶ為部屋を出て行ったのだ。

 ホウキを手に持ち動きを止めた冬華は、その柄頭へと顎を乗せると不安そうな表情を浮かべる。


「それが、まだなんだよね。あっ、でも、召喚の儀式の方法が分かれば、帰る方法も分かるかもしれないって」

「召喚の儀式の方法ですか……。それでは、一度戻られるのですか? あの場所に?」


 クリスの表情が険しく変わる。

 あの場所。それは、冬華が召喚された場所で、二人がシオと共に脱獄した場所。イリーナ王国、イリーナ城。ゲート唯一の防壁を誇るその城に果たして無事に戻れるのか、あの国王が国を裏切った自分達の謁見を快く受けるだろうかと考えると、クリスがそう言う顔をするのも納得し、冬華も不安そうに小さくため息を吐いた。

 国王であるザビットの顔を思い出す。冬華はそんなに話した事は無かったが、あんまりいい印象は無かった。第一印象的に独裁者と言うイメージがあったのだ。その為、その顔を思い出すと戻るのが憂鬱になった。

 大きく肩を落としため息を吐く冬華に、クリスも口元に僅かに笑みを浮かべ不安げにため息を吐く。


「あんまり、気が進みませんね」

「そうね……。あの国じゃ、私達犯罪者だし……」

「そうですね。ただ、ここもまだイリーナ王国の領土内ですけど……」


 苦笑しながら答えるクリスに、冬華は驚いた様子で「そうなんだー」と呟き頷く。冬華はすでにイリーナ国内から出ているモノだと思っていた。領土内だと言うのなら、追っ手が来ていない事が不思議でならなかった。あの王様なら犯罪者として手配するだけではなく、国内の兵士を追っ手にして使ってもおかしくないと、冬華は思っていたからだ。

 だが、脱獄して数十日、数週間と言う期間があったにもかかわらず、追っ手はいまだに来ていない。情報が無いからなのか、それとも他に何か理由があるからなのか分からないが、それが冬華の頭に引っかかっていた。

 クリスも同じ考えを持っていた。その僅かな引っかかりが、不安だった。もしかすると、何かがあったのかもしれないと。

 不安そうな表情を珍しく表に出すクリスの姿に、冬華は小さく吐息を漏らすと「んんーっ」と声をあげ背筋を伸ばしてから告げる。


「大丈夫! あの国にだって優秀な人がいっぱい居るんでしょ? なら、私達が心配する事無いって」

「そう……です……ね」


 歯切れの悪いクリスに、冬華は首を傾げた。



 その頃、外へと破損したテーブルを運んでいたシオとジェスは何故か険悪なムードで対峙していた。すでにテーブルをゴミ置き場へと置いてきた後なのか、手には何も持っていない。

 拳を握り威圧的な金色の瞳でジェスを見据えるシオ。吹き抜ける冷たい風が頬を撫で、後ろ髪を優しく揺らす。金色の美しい髪が揺れ、頭の上の獣耳がピクリと動きシオの唇が静かに開く。


「今のどう言う事だ?」


 シオがいつもよりも低音の声で問いただすと、ジェスは逆立てた真紅の髪を右手で掻きシオから視線を逸らし深く息を吐く。

 数分前の事だった。テーブルをゴミ置き場に置いた後、ジェスが突然告げた言葉に、それまで笑顔を見せていたシオの表情が一変したのは。

 殺気が漂いその口元から小さな牙を見せ威嚇するシオに、ジェスは静かに息を吐いた後鋭く獣の様な視線をシオへと向けた。

 二人の視線が交錯し数秒の時が流れ、ジェスの唇が静かに事を告げる。


「もう一度言う。冬華はもう英雄としての道を歩み始めている。元の世界に帰る事など叶わない」

「ふざけるな! 冬華は英雄なんかじゃないって、さっきも話しただろ! 一体、何の根拠があって冬華をえいゆ――」

「根拠……か」


 シオの怒声を遮る様にジェスが呟く。その言葉にシオは怪訝そうな表情を浮かべる。ジェスが何を知っているのか、一体何の根拠があるのか。それを知りたかった。だから、シオは握り締めた拳を解き、肩の力を抜くと、静かに息を吐き自らの気持ちを落ち着ける。

 冷静になりつつあるシオの姿を見据え、ジェスは感じていた。この短期間でシオの冬華に対する感情の変化を。ここに来た当初のシオには英雄である冬華の力を利用すると言う思惑が見え隠れしていたが、今のシオにはその思念は感じられず、純粋に冬華を元の世界へと戻したいと言う想いだけが伝わってくる。それ程までに、冬華の存在はシオの心を突き動かすものがあったのだろう。そして、コレが英雄となる者の人を惹き付ける力なのだと、ジェスは確信していた。

 何度目かの深呼吸を終え、シオは静かにその眼差しをジェスへと向け落ち着いた声でもう一度尋ねる。


「どう言う事か説明しろ。英雄としての道って何だ? その根拠って一体」

「そうだな。まず、根拠を示そうか」


 ジェスはシオの問いに静かな声で語り出した。


「彼女が異世界から来た事。以前、この世界に現れた英雄も異世界からの者だった。

 そして、その英雄も女で、召喚した国も、召喚された状況もその当時と類似している」

「召喚された状況?」


 首を傾げるシオにジェスは深く頷くと、鋭い眼差しをシオへと向ける。


「召喚された日。それは、あのルーガス大陸への扉が開かれる日だ」

「ルーガス大陸の扉……。でも、それって、年に何度もある事だろ? 何でそれが冬華を英雄とする根拠になるんだ?」

「違う。それだけじゃない。その日ルーガス大陸周辺に停泊していた俺の船から観測されたんだ。妙な物体が空から降ってくるのを」


 その言葉にシオの表情が険しくなる。シオも聞いた事があったのだ。前の英雄が現れた際、ルーガス大陸でも妙な事が起きていたと言う事を。詳しい事は分からないが、それは間違いなく英雄が現れる前触れだったのではないかと言う説が実しやかに語られていた。それが真実なのかは、シオもジェスも知る方法は無いが、それでもそれが真実だとするなら、冬華もこの世界に現れた時から英雄となる運命を定められていたとしか言いようが無かった。


「でも、それだけで英雄になるとは言い切れないだろ」

「いや。それだけじゃない。前の英雄も希少な鉱石に認められてある武器を手にしている。世界に一つしかない彼女だけのオリジナルの武器らしい」


 その言葉でシオも先程の冬華の言葉と、冬華がケルベロスと対峙していた時に使用していた武器を思い出す。

 氷河石の声。

 見た事の無い槍。

 もしも、それらの事が事実なら冬華は――。


「くっ! でも、まだ――」

「いや、もうすでに動き出している。

 神の力。一度ギルド連盟に忍び込んだ時に見た書物に記載されていた。英雄は神の力を自らの肉体に宿し、戦ったと」

「ぐっ……じゃ、じゃあ、もう冬華は……」

「おそらく、もう英雄としての運命を歩んでいる。本人の知らない内に」


 悲しげな表情を浮かべシオを見据えるジェス。悔しそうに拳を震わせ唇を噛み締めるそのシオの姿にジェスも俯く。よっぽど酷い惨状だったのだと分かった。冬華が神の力を使用した後の状況が。

 そんな悔しげな表情を見せるシオに、ジェスは静かに告げる。


「きっと、彼女は英雄として魔族と戦う事になる。その時、お前はどうするつもりだ? 一緒に居るつもりなのか?」

「それは……」


 シオは思い出す。バロンに言われた言葉を。今のジェスと同じ事をバロンに言われた。帰りたいと願う冬華。でも、もう冬華は英雄としての道を歩き出し、それを止める手立ては無い。どうする事も出来ないのかと、シオは頭を働かせる。

 だが、答えは出ず、噛み締めた唇からは血があふれ出し、握った拳の指の合間からは赤い滴がポツポツと地面に滴れた。

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