第5話 女騎士クリス
謁見の間にて、冬華はイリーナ王国、国王ザビットと謁見していた。
玉座に座るふっくらとした男。歳は五十代前半ほどに見え、白髪混じりの黒髪に歳相応に老いた顔。威風堂々と玉座に座るザビットの斜め後ろには騎士らしき赤い鎧を着た女性が一人佇んでいた。
他に兵士の姿は無く、護衛が少ない様に感じた。よっぽど彼女の事を信頼しているのか、それともこの城の防衛に自信を持っているのか、どちらにしても中々の自信家の様だった。
周囲を探索する様に飛びまわるセルフィーユは、部屋の中を一周して、冬華の元へと戻り囁く。
『やっぱり、護衛は彼女一人だけの様です。相当、腕に自信があるんでしょうか?』
その言葉で、チラッと女性の方へと目を向ける。しかし、女性の方は冬華になど感心がないのか、目を閉じたまま静止していた。綺麗な銀色の長い髪を頭の後ろで束ねて留めた美しい女性。こんな人が何故、騎士なんかをしているのだろうと、冬華は疑問を抱いた。
玉座に腰をすえた国王ザビットは、マジマジと冬華を見据え、静かに口を開く。
「召喚されたと言う英雄はキミなのか?」
「えぇ……まぁ」
突然の質問に戸惑いながら答える。
王様なんて言う存在に会うのも、こんな場違いな場所にいるのも初めてで妙に緊張する冬華は、引き攣った笑みを浮かべた。
不満げに腕を組むザビットは小さく息を吐く。
「しかし、今回の英雄も女とは……英雄は女と言う決まりでもあるのか?」
「えっ? い、いや、私に聞かれても……」
困り果てる冬華が、隣りのセルフィーユに目を向けると、セルフィーユも困った様に「あはは」と笑った。
「まぁいい。前回の英雄も、女だったが能力的に問題は無かったし、今回も問題は無いだろう」
渋々と言わんばかりにそう口にしたザビットに、冬華は少しだけイラッとした。完全に女を馬鹿にしていると、感じたからだ。僅かに眉間にシワを寄せ、怒りを堪える様に目を伏せる。そして、自分を落ち着ける為、「大丈夫、大丈夫」と、小声で何度も呟く。
すぐ隣りにいたセルフィーユには、その声が聞こえ、「一体何が大丈夫なんだろう?」と小首を傾げた。
玉座に踏ん反り返る様に座るザビットは、顔を横に向けると、斜め後ろに立つ女性騎士の方に目を向け、
「クリス。後の事は任せる」
「はっ」
静かにそう返答したクリスは、軽く頭を下げる。すると、ザビットは玉座から立ち上がり部屋を出て行った。不満気にその背中を見送った冬華は、眉間にシワを寄せたまま小さく息を吐いた。すると、その背後で、小さく咳払いが聞こえ、足音が近付く。
「私は、クリス……。よろしく」
振り返った冬華に対し、軽く頭を下げたクリスに冬華も慌てて頭を下げ、
「こ、こちらこそ、よろしく」
と、右手を差し伸べる。だが、その手は握られる事無く、クリスは冬華の横を通り過ぎる。「あれ?」と言わんばかりに、頭に疑問詞を浮かべる冬華に対し、クリスはゆっくりと振り返り、
「何をしてるんですか? 行きますよ?」
「えっ、あっ……はい……」
差し出した右手を引き、不服そうな表情を僅かに見せつつ、彼女の後へと続き応接間を出た。不服そうに眉間にシワを寄せる冬華の横で、『まぁまぁ』と苦笑するセルフィーユを、冬華は睨む。
「でもさぁ。普通、握手求めたら、するでしょ? この世界じゃしないの? そう言うの?」
『えっ? ま、まぁ、その様な習慣はありますけど……地域によってその意味合いが違ってたりする所もありますから……』
不意の問いに右手を頬に添えながら、そう答え困った様に首をかしげた。納得行かないと頬を膨らす冬華に、クリスは足を止め、背を向けたまま窓の外へと手を向ける。
「あれが、この城の鉄壁と呼ばれる城門です」
クリスの指す方には、大きく頑丈そうな鉄の門が堂々とその道を塞いでいるのが見えた。確かに鉄の壁と言う表現はうまい表現だと、腕を組み納得する。しかし、同時に疑問も生まれる。あんな鉄の門で本当に防げるのだろうかと。
そんな冬華の気持ちを悟ったのか、体を冬華の方へと向けたクリスは、
「不安ですか? あの程度の鉄の門で防げるのかと?」
「えっ、いや……そんな事無いけど……」
「あの鉄は魔法石と呼ばれる石を練りこんで作られた特別製です」
「へ、へぇー」
無表情で説明するクリスに苦笑する冬華。その後ろではセルフィーユが、納得した様に大きくうなずく。
『なるほど。それで、先ほどから魔力の力を感じていたんですかぁ』
「魔力ねぇ……」
魔族と戦うと言っているのに、魔の力を借りるって言うのはどうなんだろうと、冬華は表情を引きつらせる。だが、その言葉にクリスは怖い表情を見せ、
「あんな力と一緒にするな。魔法石は、奴等と対等に戦う為に作られたモノ。それを、あの様な力と、一緒にするな!」
「ご、ごめん。そう言うつもりじゃなかったんだけど……」
クリスのあまりの迫力に驚く。彼女に一体何があったのか分からないが、相当魔族を憎んでいると言うのだけは伝わった。
しかし、クリスも自分が怖い表情をしているのだと、気づくと、目を伏せ小さく息を吐く。
「すみません。取り乱して……」
「い、いえ。だ、大丈夫だから。私こそ、ごめん。変な事言って」
深く頭を下げたクリスは、冬華に背を向けるとゆっくりと歩みを進める。静かに息を吐いた冬華は、その背中に続く様に歩き出し、セルフィーユも後に続く。
静かに歩みを進めていると、セルフィーユが後ろで独り言の様につぶやく。
『凄いですねぇ。色々な所から魔力の波長を感じますぅ。人の文明と言うのは凄い速さで進歩しているんですねぇ』
「まぁ、人って、そう言う生き物だから……」
『そうですね。ホント、凄いです』
目を輝かせるセルフィーユに冬華は「あはは」と静かに笑った。そんな冬華を不思議に思いながらも、クリスは立ち止まる事はせず、歩き続ける。冬華も一人で笑いながらクリスの後へと続いた。
すれ違う人と何度かお辞儀を交わし、外へと出る。不思議に思いながらも黙ってクリスに続いていると、不意にクリスが足を止めその手に剣を取り出し振り向き様に振りぬく。
「うわっ! ちょ、ちょっと! いきなり何すんのよ!」
反射的に体を退け反らし刃をかわした冬華は、そのままバク転して体勢を崩したままクリスを睨む。振り抜いた剣を下ろすと、切っ先が地面に触れ刃が炎をまとう。
『あ、あれは!』
「な、なに? なんなの?」
驚くセルフィーユに焦りながら問うが、返答は無く、炎をまとった剣がゆっくりと振り上げられる。ゆっくりと静かに。刃がクリスの顔の前を通過し、完全に腕が振りあがる。
「ちょ、ちょっと、な、何の――」
「紅蓮一刀――」
『冬華さん! 下がってください!』
セルフィーユが叫び、冬華の前へと立ちはだかると、両手を前に突き出す。すると、眩い光がその手を包む。
『絶対障壁!』
セルフィーユが再度叫ぶと、突き出した手を中心に光の壁が形成される。と、同時にクリスが叫ぶ。
「火斬!」
刃を包む炎が一層火力を増し、勢い良く振り下ろされた。