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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第43話 腫れ上がった顔

「ど、どうしたの? その顔?」


 朝、シオと顔を合わせた冬華が驚愕の声を上げる。

 腫れ上がった右頬と左瞼。紫色に変色し、なんとも痛々しいが、それでもシオは無理やり笑顔を作った。


「いや……久しぶりに師匠に指導してもらったんだ」

「し、指導? そんなレベルには見えないけど……。普通に体罰になっちゃうわよ」

「体罰?」

「あっ、ううん。なんでもない」


 不思議そうな顔をしたシオに、冬華は慌ててそう答えると、ニコニコと笑い右手を軽く顔の前で振った。首を傾げたシオは「そうか?」と納得していない様子だったが、それ以上冬華を追求する事はなかった。

 苦笑する冬華はマジマジとシオの顔を見据え、痛々しく腫れ上がったその頬を右手の人差し指で突付いた。


「いだっ!」

「あっ、ご、ごめん」

「な、なな、何すんだ! 痛いだろ!」

「痛そうだなーって、思ったらつい……」

「ついじゃねぇーよ!」


 怒鳴るシオに対し、あはは、と笑った冬華は「知的好奇心がまさって……」と頭を掻く。ジト目を向け鼻息を荒げるシオは腕を組むと冬華に背を向けてしまった。あははと、また笑った冬華は困った様に眉を八の字に曲げ、「お、怒った?」と、申し訳なさそうに尋ねるが、シオからの返答は無かった。

 その後、シオは一切冬華と口を利かず、仏頂面で旅路の準備をしていた。冬華も流石に悪い事をしたと言う罪悪感から、なかなかシオに言葉を掛ける事が出来ず、ただ時間だけが過ぎていく。

 屋根の上でボーッとするセルフィーユ。空を見上げ何度もため息を吐く。昨夜のシオとバロンのやり取りを聞いていた為、悩んでいた。いつか、冬華とシオが本当に戦う時が来るんじゃないかと言う不安から。自分の事を幽霊だと言うシオの事は嫌いだったが、それでもシオが冬華と戦うかもしれないと思うと胸が締め付けられる様に痛んだ。


『どうしたらいいのでしょうか……』


 一人、ボソリと天に向かって呟く。もちろん、答えは返ってこない。その為、セルフィーユは寂しげな瞳で空を見上げていた。



「それじゃあ、そろそろ」


 ベッドに横になるフリードに、シオはそう告げ椅子から立ち上がる。残念そうな顔をするフリードは寂しげな笑みを浮かべ、


「もう行くんですか?」


 と、静かに尋ねる。そのフリードの言葉に、顔を腫らすシオは小さく頷く。


「ああ。明るい内のこの森は抜けておかないといけないからさ」

「そう……ですか……」


 沈んだ声に、シオは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「ごめん。オイラの所為で……」

「いえ。未熟な僕が悪いんです。シオ様は気にしないでください」


 優しく笑うフリードだが、その笑顔は傷の痛みにすぐに歪む。そんなフリードの姿に表情を険しくするシオは、俯き静かに呟く。


「今度は、誰も傷つけさせない……オイラが……」

「シオ様……」


 シオの決意にフリードは不安げな表情を浮かべた。何か嫌な予感がしてならなかったのだ。

 不安そうな表情のフリードに、シオは気付き笑みを浮かべる。フリードもその笑顔に、無理に笑みを作る。


「一緒に行けないのは残念ですが、近い内に僕もあなたと共に……」

「ああ。待ってるからな」


 シオが嬉しそうに笑い、フリードは「ええ」と静かに頷いた。

 冬華は外でシオが出てくるのを待っていた。段差に腰を下ろし、膝を伸ばしパタパタと動かし森を見据える。元の世界に帰る方法があるかもしれないと言う僅かな希望に、冬華の心はどこか浮かれていた。まだ可能性の段階で、確実に帰れるわけじゃないにもかかわらず。

 冬華の横に置かれた小さなリュック。なりは小さいが、これでも総重量二十キロまで詰め込む事が出来る。この世界では当たり前の様に存在するモノで、どれだけ詰め込んでも重さが変わらない特殊なリュックだ。

 元いた世界には無い変わった技術に、冬華も始めは驚いた。こんな小さなリュックに二十キロまで物が入るなんて、と。地球とは異なる技術。一体、どう言う仕組みでそうなっているのかは謎だが、ずっと前からそのリュックはこの世界に流通していた。

 ボーッと、シオが出てくるのを待つ冬華は、考えていた。どうシオに謝ろうかと。考えに考え、結局素直に謝る方がいいだろうと言う結論が出た。


「はぁ……」


 その結論に小さく吐息を漏らすと同時に、


「何、ため息なんて吐いてんだよ?」


 と、ドアを開けシオが言葉を掛ける。その声に驚き飛び上がりそうな勢いで立ち上がり素早く振り返る。


「わわっ! し、シオ!」

「何、驚いてんだよ?」

「え、えっと、あ、あの……」


 慌てる冬華に、ジト目を向けるシオは右手で頬を掻くと、小さく鼻から息を吐き、リュックを持ち上げる。


「行くぞ」

「えっ、あぅ……うん」


 小さく俯き返答した冬華の横をシオはすり抜け、歩き出す。

 静かに吐息を漏らした冬華は、そんなシオの背中を見据え重い足取りでシオの後を追った。冬華とシオが歩き出すのを、屋根の上から発見したセルフィーユは、『お、置いてかないでくださーい!』と叫びながら二人の下へと急いだ。

 暫し、黙ったまま三人は森を進んでいた。相変わらず腫れ上がった顔で先頭を歩むシオは、草を踏みしめ飛び出た枝を折り、慎重に足を進める。その後ろを静かに歩む冬華は、今日何度目かのため息を吐き、肩を大きく落とした。

 冬華がため息を吐く度に、シオの頭の上にある金色の髪の合間から覗く獣耳がピクッと動く。セルフィーユは少々不安そうに冬華の隣を浮遊し、チラチラと横目で顔を覗きこむ。声を掛けようと思うが、なかなか声を掛ける事が出来ないセルフィーユは、小さく息を吐く。冬華のため息が伝染した様に。


『はぁ……』


 そのため息にシオの足が突然止まる。それに気付き、冬華も自然と足を止め、セルフィーユも動きを止めた。

 静寂が周囲を包み込み、静かに風が流れる。木々の葉が擦れ合いざわめく中で、シオが静かに振り返る。その眉間にシワを寄せ、目を細めながら。何か言いたげなその目に冬華は思わずたじろぐ。


「な、何?」

「さっきからため息ばっかり! 何なんだよ!」

「えっ? あっ、その……ごめん」


 俯き謝る冬華に、シオは頭をかきむしり「あーあ」と声を上げ怒鳴る。


「謝んなよ!」

「えっ、で、でも……」

「いいから、謝んな!」


 怒声を響かせるシオに、冬華はわけが分からず隣に居るセルフィーユと顔を見合わせた。二人に対し、鼻息荒く背を向けたシオはまた歩き出す。


「全く……」

「ちょ、ちょっと待ってよ。シオ。何怒ってるのよ?」

「あーあ。うるさいうるさーい!」


 シオの後を小走りで追う冬華に、乱暴にそう返答したシオは足を速めた。


『はわわーっ! ちょ、ちょっと待ってくださーい!』


 足を速めた二人にそう叫び、セルフィーユも移動速度を上げゆらゆらと二人の後を追った。

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