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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
40/300

第40話 いつもの冬華

 数日が過ぎた。

 ようやく、冬華も普通に歩ける程度まで回復し、フリードも意識を取り戻していた。あの後、何度か冬華はアオと自分の世界に帰る為の方法を考えたが、結局どんな儀式を行ったのか分らないと言う事と、この世界と冬華の世界を繋ぐ方法が思いつかず、答えは導き出せなかった。

 アオ達はギルド連盟への報告があると言う事で、すでに昨日ここから去り、ここには冬華・セルフィーユ・シオ・フリードの四人しか残っていなかった。

 ボンヤリと椅子に座る冬華は、ここを出る前にアオが言った言葉を思い出す。


「とりあえず、帰る方法を連盟に戻って探してみる。だから、元気を出せ」


 アオの優しさにニヤける冬華は、不意に思い出す。幼馴染の顔を。何となく、アオの姿が幼い頃の幼馴染に似ている様に思えた。だが、すぐに今の幼馴染の姿を思い出し、眉間にシワを寄せる。

 冬華の豊かな表情の変化を、ドアの隙間から覗くシオは、目を細め表情を引きつらせていた。


「何してるんですか? シオ様」


 ドアの隙間から隣の部屋を覗くシオに、ベッドの上で上半身を起こしたフリードが静かに尋ねる。体の傷はまだ完全に癒えておらず、痛々しく包帯が巻かれていた。レオナが居なくなってからは、冬華が包帯をマメに換えていた。その為、フリードの体に巻かれた包帯は不恰好だった。

 そのフリードに視線を向けたシオは、ヨタヨタとぎこちない足取りでフリードへ近付き、ベッドへと倒れ込む。


「冬華が壊れたー!」

「壊れたって……急にどうしたんですか?」

「だって、急にニヤけたと思ったら、深刻な顔して、最後にはムスッと怒った顔みせて……不気味なんだよ~」

「誰が不気味よ」


 部屋のドアが静かに開かれ、冬華の声がシオの背中へと向けられる。ベッドに倒れ込んだまま硬直するシオに対し、フリードは苦笑し冬華の方へと顔を向けた。二人の視線が交わり、冬華がニコッと笑う。


「体は大丈夫ですか?」

「え、えぇ。英ゆ――……冬華さんは、大丈夫なんですか?」


 英雄と言いかけ、その言葉を呑み込み笑顔を向けるフリードに、冬華も笑顔で答える。


「私は、もう大丈夫です。それじゃあ……コレ、借りて行きますね」

「え、えぇ……ど、どうぞ……」

「うえっ! ふ、フリード! た、助け――」

「ほら、行くよぉ~」

「フリードォォォォッ!」


 襟首を引かれて連れて行かれるシオの姿に、フリードは苦笑しながら小さく手を振った。次期王となる人の無様な姿に、フリードは深々とため息を吐き両肩を大きく落とし、


「あぁ……何だか、不安だ……」


 と、小さく呟いた。

 隣の部屋へとシオを引きずって来た冬華は、シオに正座させていた。いつも以上に小さく縮こまるシオが俯き、「申し訳ありませんでした」と、小声で呟いているのを聞き、腕を組んだ冬華は小さく吐息を漏らし、ジト目を向ける。


「もう怒ってないから。それより、これからどうするつもり?」

「えっ? そりゃ、フリードが回復するまでは、ここに留まるしかないんじゃ……」


 驚いた様に顔を上げ、当然の様にそう答えるシオに、冬華は右手で頭を抱えると、静かに鼻から息を吐く。


「気持ちは分るけど……もう、換えの包帯も無いし、食料も殆ど残ってないんだよ?」

「あ、あぁ……そ、そうだっけ?」

「そうよ。それに、そろそろお風呂とかも入りたいし……」


 赤面しながら小声でそう呟いた冬華に、シオは軽く首を傾げる。そんなシオに、更に顔を赤くする冬華は、拳を振り上げ怒鳴る。


「と、とと、とにかく、そろそろ、今後の事について、話し合うの!」

「わ、分ったよ……」


 冬華の迫力に押され、渋々そう答えたシオは、立ち上がり小さくため息を吐く。納得は行っていない様だったが、食料が残り僅かだと言う事を考えると、そろそろここを出ると言う事を考えなければならないと、シオ自身思っていた。

 そこへ、セルフィーユがフラフラと戻ってくる。いつもの様に壁をすり抜け、


『ただいまですぅー』


 と、愛らしく部屋に飛び込んだセルフィーユに、冬華はニコッと笑みを浮かべ、


「おかえりなさい」


 と、返答する。その声に、セルフィーユは戸惑う。いつもと何かが違う。そう感じ取ったのだ。うろたえ、キョロキョロと部屋を見回すセルフィーユは、無意識にシオの方へと体を寄せる。


『な、何ですか? この威圧感は?』

「いや、何か、冬華の奴がピリピリしてて……」

「はい、そこ! コソコソ何を話しているのかなぁ?」


 小声で話していたセルフィーユとシオの方へと右手で指を差しそう声を掛ける冬華に、二人は苦笑し「何でも無いです」と同時に答えた。

 珍しく声をそろえた二人に、冬華は驚き「そ、そう」と首を傾げる。


『いつもの冬華様……』


 凛とした冬華の姿に、セルフィーユがそう呟いた。

 帰りたいと皆に告げたあの日、帰る方法があるかもしれないと言う僅かな希望が、今の冬華は支えていた。その僅かな希望を信じ、冬華はもう暫く頑張ろうと決意し、シオやセルフィーユに心配を掛けまいと、こうして明るく振舞っていた。

 無理をしていると、シオは何となく分っていたが、セルフィーユは完全に元の冬華に戻ったのだと喜んでいた為、その事はセルフィーユには言わなかった。いや、本当はセルフィーユも気付いているのかもしれないと、思い言えなかった。もしそうだとすると、セルフィーユがそう言ったのはシオに気を使っての事だと言う事だからだ。

 静かに息を吐いたシオは、冬華の対面へと座ると、頬杖をつき面倒臭そうにあくびをする。


「コラ、あくびしない」

「だってよぉー。どっちにしろ、フリードが完治するまでは、ここから動けないんだぜ?」

「それじゃあ、私達が飢え死にしちゃうけど、それでいいの?」

「うぐっ……そ、それは……」

「それに、そろそろクリスも心配だし……一度、クリスにもちゃんと話しておかなきゃ行けない事もあるし……」


 そう言った冬華の表情が一瞬曇り、すぐに笑顔へと変わる。その表情の変化に、セルフィーユもシオも胸を締め付けられた。皆が言葉を呑み、部屋に妙な空気が漂う。

 静寂の中で、隙間風が吹き抜ける音だけが聞こえる。俯いていた冬華は、そんな空気を変えようと、顔を上げ笑う。一番辛いはずの冬華のそんな笑顔に、セルフィーユもシオも笑顔を見せた。


「と、とにかく、一度、戻ろうよ」

「そうだな……とりあえず、フリードに――」

「フリードの事は、私が見てよう」


 唐突に玄関が開かれ、一人の男が姿を見せる。ボロボロの衣服に、傷だらけの体を揺らす無精ひげの男。瑠璃色の長髪を揺らし、家の中へとゆっくりと入ってきたその男に、冬華とセルフィーユは思わず身構えた。

 

「ば、バロン!」


 そんな中で響くシオの声に、冬華とセルフィーユは顔を見合わせる。


「えっ? し、シオの知り合い?」

「ああ。オイラとフリードの師匠で……」

「バロンだ。よろしく。見た所、君は人間の様だけど……どうしてシオと?」


 穏やかな声でそう述べるバロンの言葉。全く敵意など無いそのバロンの雰囲気に、冬華は呆然としていた。魔族と言うのは好戦的で荒々しい人なのだと言う印象が、冬華の中にはあったからだ。実際、冬華のあった魔族は皆そう言う感じだった。フリードも優しい表情を浮かべていたが、その瞳には何処か荒々しさがあったのを冬華は覚えていた。

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