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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
35/300

第35話 見える人 見えない人

 深夜。

 人間の手により壊滅した集落の中央に、ただ一軒ヒッソリと建つボロボロの家。

 ひび割れた窓ガラス。

 隙間だらけの壁。

 そこから、中の光が漏れ、小さな虫が外で飛び交っていた。

 まだ僅かに漂う冷気と人の血の嫌な臭い。そんな中、その家の入り口には二人の男が座り込んでいた。一人は小柄で、もう一人は大柄の男。

 小柄な男は夜風で茶色の髪を緩やかに揺らし、金色の瞳を闇へと向ける。足元には数本のナイフが突き立てられ、右手で一本のナイフを持ち月明かりで刃を煌かせた。

 一方で大柄の男は重々しいフルアーマーを着たまま、腕を組み柱に背を預け空を見据える。遠くで瞬く閃光が空に広がるのをジッと見ていたのだ。衝撃音が時折聞こえ、よっぽど凄まじい戦いが繰り広げられているのだと理解する。

 木々のざわめきに、小柄な男がその視線を動かす。だが、ただ木の葉が揺らめいただけで、そこには何も無かった。小さく息を吐き、肩の力を抜くと、大柄な男が視線を向ける。


「大丈夫か? ライ」


 大柄な男のしゃがれた声に、ライと呼ばれた小柄な男は、眉間にシワを寄せると肩越しに大柄の男の方に金色の瞳を向けた。二人の視線が交錯し、妙な間が生まれる。その間に耐え切れず、ライが視線を逸らし地面を見据え、小さく吐息を漏らした。

 その背中を見据える大柄な男は、鼻から静かに息を吐くと肩の力を抜き夜空へと視線を戻す。相変わらず続く激しく眩い光を見据え、大柄な男は口をへの字に曲げる。


「コーガイ。あの娘は大丈夫かな?」

「…………さぁな」

「一体、どんな力を使ったんだろうな?」

「…………さぁな」

「…………」


 静かな口調で答えるコーガイに、ライは小さくため息を吐くと、両肩を落とし目を細め地面をジッと見つめる。

 また、間が空く。二人の間に。そんな静かな場所にドアの向こうから慌ただしい足音が響く。その足音に、ライは顔を上げ肩越しにドアの方に視線を向け、コーガイも壁にもたれ腕を組んだまま視線を自分の右側にあるドアの方に向ける。足音の質からこれはシオだと判断したライは、足元に突き立てていたナイフを腰のホルダーにしまい、ゆっくりと立ち上がった。

 ライが立つのとほぼ同時だった。ドアが乱暴に開かれ、また乱暴に閉じられる。大きな物音と僅かな衝撃を広げ、家が微かに軋みを上げた。

 ドアを背に息を僅かに乱すシオ。肩を小さく上下させ、右腕で額に滲む汗を拭い「ふぅーっ」と息を吐くと、そこでようやくライとコーガイの視線に気付く。


「おおっ? こんな所で何してるんだ?」

「見張りだ……」


 しゃがれた声で返答したコーガイに視線を向けたシオは、その物静かな口振りに「そ、そうか」と、表情を引きつらせ、すぐにライの方に顔を向けた。

 出会って間もないが、シオはコーガイが苦手だった。物静かで、口数が少なく何を考えているか分からないからだ。それに加えて、あの大柄な体格が威圧的でどうも好きになれなかった。

 その一方で、ライとはすぐに打ち解ける事が出来た。お互い小柄で戦闘スタイルも近いと言う事があり、一目見たその瞬間、妙に親近感を覚えたのだ。その為、シオはライへと歩み寄り互いに笑みを向ける。


「様子見てきたのか?」

「おう」

「で、どうだった?」

「まだ寝てるよ。冬華は。相当な力を使ったみたいだ」


 シオの言葉に、ライは腕を組み「そうか」と、小さく呟く。一体、どんな力を使用したのか、と首をひねり考えるライに、シオも腕を組みうなり声を上げる。

 腕を組む二人の様子を伺うコーガイは、組んでいた腕を下ろし小さく鼻から息を吐き、また夜空へと視線を向けた。

 暫しの間、シオとライのうなり声が続き、やがて静まり返る。不意に顔を上げたシオの目の前を、半透明のセルフィーユが横切り、シオはジト目を向ける。


「人の目の前を、黙って横切るなよ。幽霊」

『私、ゆーれいじゃないですー』


 ずいぶんと投げやりな言葉が返ってくる。レオナにされたお礼がまだ尾を引いている様だった。そんなセルフィーユにジト目を向けたままのシオに、ライは不思議そうな表情を見せ、シオの視線の先へと自らも視線を移す。だが、そこには何も無い。見えるのは森とその奥で弾ける閃光のみ。その為、ライは腕を組んだまま小さな唸り声を上げると、もう一度不思議そうにシオの方へと視線を向けた。


「本当に居るのか? その聖霊って?」

「えっ? ああ……そっか。ライ達には見えてないんだよな」

『どうして、シオさんみたいな人に見えて、他の人には見えないんでしょー』

「ああ。俺には全然見えない」

『無神経なシオさんに見えて、優しいレオナさんが見えないなんて不公平ですよねー』

「…………? どうした? シオ?」


 ライとの会話の合間にブツブツと聞こえるセルフィーユの言葉に、シオは表情を引きつらせ、その額に青筋を浮かべ握った拳を震わせる。なぜ、シオがそんな行動を取ったのか分からず、首を傾げたライは、シオの視線の先へと視線を向け、「あーぁ」と、一人納得し頷いた。それとほぼ同時だ。シオが拳を振り上げ怒鳴り声を上げたのは。


「うるさーい! 聖霊だか、幽霊だか知らないけど、オイラだって見たくて見てるわけじゃねぇーんだ!」

『み、見たくて見てるわけじゃないって! わ、私だって、別にシオさんに見て欲しいとか思った事いっちども無いですよ!』


 握った拳を目の前に浮遊するセルフィーユに向かって振り回すシオに、ライは一人口を右手で塞ぎ、くくくっ、と笑う。もちろんシオの目の前には半透明のセルフィーユが居て、拳がその肉体をすり抜けているのだが、その姿を見る事の出来ないライやコーガイにとっては、シオが無邪気に拳を振って遊んでいる様にしか見えないのだ。

 もちろん、自分達の目に見えないセルフィーユと言う少女を殴ろうとしているのだと言う事は理解していたが、それでもその光景はとても笑える光景だったのだ。

 声を殺しお腹を抱えるライと、僅かに口元に笑みを浮かべるコーガイ。そんな二人に気付いたシオは、顔を赤くすると更に声を上げた。


「わ、笑うな! くっそーっ!」


 怒鳴った後、視線を戻したシオは頬を膨らしセルフィーユを指差す。


「お前の所為でオイラは頭のおかしい奴だと思われてるじゃないか!」

『実際そうじゃないですか!』

「な、なんだとーっ!」


 一人声を荒げるシオに、ライは堪え切れなくなりついに笑い声を噴出した。


「ぷはははっ! あはは……し、し……ぷふっ……シオ……くくっ……や、やめてくれ……ぷふふっ……お、俺が、ふふっ……わ、笑い死にする……ぷぷぷっ……」

「本当に居るんだよ! ここに! 信じろよ!」

『むーっ……私、あの人も嫌いです……。何だか、シオさんと同じ匂いがします』


 シオの肩を何度も叩き腹を押さえて笑うライの姿に、セルフィーユはそう小声で呟いた。もちろん、シオにはその声が聞こえたが、ライには聞こえておらず、その馬鹿笑いは夜の森に響き渡った。

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