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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第33話 二つの炎

 周囲を包む炎。

 その炎を吸収し、クリスの頭上で大刀の刃に炎が渦巻く。火力を増し、威力を高めていく。消費される精神力。失われていく体力。それでも、落ち着いた様に静かに深呼吸を繰り返し、意識を集中する。

 炎の渦の向こう側で、強い魔力の波動を感じる。あの魔族の少年が魔力を練っているのだと、クリスはすぐに気付く。まだ不安定な魔力の波動に、彼が魔力を扱いなれていないのだと分かり、クリスは少しだけ安心する。

 魔力を扱いなれていない者は、それだけ余分に魔力を消耗するのだ。どれだけ、魔力量が多くても、どれだけ純度の高い魔力を持っていても、結局は扱う者次第だと言う事だった。

 安堵し、落ち着いた様子のクリスはやがて右足を踏み込む。


「紅蓮大刀!」

「業火……」


 クリスが叫ぶとほぼ同時に、少年の声が僅かに耳に届く。燃え盛る炎の音をすり抜ける様にして、クリスの耳へと囁く様な声が。一瞬驚くが、クリスは気にせず奥歯を噛み締め、右足へと体重を掛けると、上半身ごと頭上に構えた大刀を一気に振り下ろす。


「極炎!」


 と、叫びながら。その声に僅かに重なる。


「――爆炎斬」


 と、叫んだ少年の声が。

 大刀を振り下ろすと、その刃がまとっていた炎が地面を砕き一気に前方へと噴出す。僅かに金色の光を放ちながら。クリスを囲う炎の渦の壁を突き破り、紅蓮の刃と化した炎が地面を抉り、風を呑み込みその火力を増幅させる。

 一方で、魔族の少年も静かに剣を振り下ろす。クリスに少しだけ遅れて。赤黒い炎をまとった剣が振り下ろされると、一瞬その場を静寂が包んだ。まるで時が止まった様に。だが、その後に訪れる大きな爆発。その凄まじい衝撃により、刃がまとっていた赤黒い炎は前方へと一気に放たれる。津波の様に大きな唸りを起こして。

 二つの炎はやがて衝突する。紅蓮の刃を呑み込もうとする赤黒い炎。その赤黒い炎を突き破ろうとする紅蓮の刃。

 二人の最大級とも言える技がぶつかり合い、当然起きる。眩い光がその場の全てを呑み込む。その景色も音も何もかもを。

 そして、一瞬の後に広がる。轟音――衝撃――。道を塞いでいた赤黒い炎の壁を――ローグスタウンの外壁を――吹き飛ばし、かき消した。地面は大きく抉れ、衝撃はクリスと魔族の少年をも大きく吹き飛ばす。

 ジェス達もその衝撃に吹き飛ばされそうになったが、幸い距離があった為何とか踏み止まっていた。


「な、何て衝撃だ……」


 ジェスが独り言の様に呟き目を凝らす。大きく抉れた地面の両端から一直線に抉れた跡が残されており、その一方に魔族の少年の姿を確認したジェスは反対側へと視線を向ける。一直線に抉れた地面の跡の向こうに映る仁王立ちするクリス。互角に見えた二人の技のぶつかり合いは、どうやらクリスの方にやや分があった様だ。


「かはぁ……はぁ……」


 それでも、クリスは殆どの精神力、体力を使い果たし、これ以上戦闘をするのは非常にまずい状況だった。

 横たわる少年の姿を目視し、クリスは「立つな、立つな」と心で願う。このまま動くなと。だが、その願いは届かない。彼は左手を地面に着くと、右肘を立て、ゆっくりと上半身を持ち上げた。


「くっ!」


 その瞬間、クリスの表情は険しくなり、大刀を持ち上げ小さく息を整える様に呼吸を繰り返す。

 魔族の少年も地面へと顔を向けたまま、苦しそうに肩を揺らす。先程の技で大分魔力を消費したのか、それもと衝撃で吹き飛ばされ相当のダメージを負ったのかは分からないが、もう息は上がっていた。膝も震え、とても戦える状態には見えなかった。

 それでも、彼は地面へと剣を突き立てると、それを支えにして膝を立てる。

 やっとの事で顔を上げた少年は、大きく肩を揺らしながら周囲を見回す。何かをチェックする様にゆっくりと目を凝らしながら。ゆっくりと周囲を見回すと、少年は小さく息を吐き空を見上げた。僅かに唇が動いたが、その声はクリスには聞こえなかった。

 何を考えているのか分からず、クリスはただ大刀を構えたまま、少年の姿を見据える。大きく肩を上下に揺らす少年をジッと見据え、クリスも僅かながら肩を上下に揺らす。と、その時、少年の視線がクリスと合う。その瞬間、クリスの背中に汗が滲む。まだやる気なのだと。静かに息を吐き、備える。少年の攻撃に対し。

 ゆっくりと立ち上がった少年は地面に突き立てた剣を抜く。互いに顔を見据える。薄らと笑みを見せる彼の姿に、クリスは表情を僅かに歪めた。

 少年の右目の赤黒い炎はいつの間にか消え、その目の輝きも弱まっていた。彼も限界なのだと、クリスは悟り、何とか自分が優位に立とうと強気な姿勢を取る。

 だが、この時、クリスは異様な空気を感じ取った。あの少年の魔力が増幅していた。体から染み出す様にジワジワと外に溢れる魔力の波長に、クリスは自然と足を退く。と、その時、少年が叫ぶ。表情を強張らせて。


「ここから離れろ!」


 と。その声に、ギルドの面々は笑う。少年の言葉をバカにする様にヒソヒソと。だが、その中でも数人は笑わない。その数人は気付いていた。少年の体から溢れ出す不気味な魔力に。

 失笑が溢れる中、クリスは視線をジェスへと向け叫ぶ。感じ取ったのだ。更に少年の体から溢れる強大な魔力に、身の危険を。


「ジェス! 早く――」

「くっ……もう、もた……」


 少年の震えた声が呟く。それにやや遅れてジェスが指示を出す。


「おい! ここから退避し――!」


 だが、間に合わない。そう悟り、ジェスはその場を飛び退く。異変に気付いていた数人のメンバーもその場から離れ、クリスもすぐに大刀を消しその場から飛び退く。

 全てをかき消す。人の声も――音も――光も――全てを包む闇。それが一瞬の後に周囲を包み、収縮されると同時に全てを裂く様に轟く雷鳴。漆黒の雷撃が全てを呑み込んだ。光に消えていくギルドのメンバー。その姿を見据えながら飛び退くジェスは小さく舌打ちをし、表情をしかめた。と、同時に全身を襲う強い衝撃。それにより、ジェスは大きく吹き飛び地面を転がる。

 飛び退いたクリスもその広がる衝撃に大きく弾かれる。殆ど体力など残っていないクリスに、その衝撃に踏み止まる力は無く、何度も地面を転がる。

 一瞬にして、周囲は静まり返る。そこに居たはずのギルドのメンバーは雷撃により灰と化し、僅かな異臭が漂う。

 体から放電した魔族の少年は体から黒煙を噴きながら膝を落とした。皮膚が裂け血が滲む。それほどまで体に負担が掛かる強い力。手に持った剣は元の錆びれた剣に戻り、肩が大きく上下に揺れる。

 周囲一帯を黒焦げにし、木々を焼き払い、地面は更に大きく抉れていた。

 静かに顔を動かした少年は周囲を見回した後、静かに前のめりに崩れ落ちる。力尽きたのだ。

 そんな中、彼の元へと歩み寄る足音。地面を激しく転げた為腕に深い擦り傷を作り、血を滲ますクリスが、右手に剣を出す。ゆっくりと足を引き摺る様に歩みを進め、やがて立ち止まる。少年の前で。そして、剣を振り上げ、一気に振り下ろした。

 鈍い音が僅かに聞こえ、鮮血が舞う。だが、その瞬間、クリスは表情を歪める。


「ジェス……どう言うつもりだ?」

「ぐっ……悪いが、そこまでだ」


 刃を右腕で受け止め血を流すジェス。深く刃は食い込み、骨まで届いていた。だが、それは力の無い一撃だったからだ。もし本来のクリスの力だったなら、ジェスの腕は今の一撃でスッパリと切り落とされていただろう。

 睨み付けるクリスを見据えるジェス。二人の視線が交わり、クリスは声を上げる。


「お前、仲間をやられたんだぞ! それでいいのか!」

「やられたのは奴等が悪い。コイツは、逃げろと忠告した。その忠告をバカにしあざ笑った。その結果だ。それに、直に手を合わせたお前が一番分かってるはずだ。コイツが人を殺さない様に力を抑えていたのは」

「くっ……」


 険しい表情を見せたクリスに、ジェスは小さく吐息を吐く。拳を握り締めたクリスは、その手に持った剣を消すと、奥歯を噛み締め怒りをこらえた。クリスが一番わかっていた。あの魔族の少年が明らかに魔力を制御していた事は。

 だから、何も言えずただ拳を震わせた。

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