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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
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第274話 集められた者達

 ルーガス大陸の南。

 唯一開拓の進んだその場所に、数万の兵が集められていた。

 南のゼバーリック大陸から西のミラージュ王国と東のイリーナ王国の兵の姿があった。

 それに加え、西の大陸バレリア、東の大陸クレリンスからも兵が集まっていた。

 そして、ギルド連盟に所属するギルドの面々とこの場に集められていた。

 総勢、数万人の人の数。皆、武器を持ち、隊列を組んでいた。

 そんな部隊の指揮を取るのは――


「しっかし……ここまで集まるとは……」


 驚き包帯の巻かれた右手で頭を掻くのは連盟の犬こと、アオだった。まだバレリアでの戦闘の傷は癒えていない。だが、事が事なだけに、休んでもいられなかったのだ。

 いつも通りの穏やかな顔で、集められた人々を見渡す。正直、予想外ではあった。

 多く見積もっても一、二万程だと思っていたが、大陸の外、船に残った者達を含めれば、十万近くの兵がここには集まっていた。

 こんなにも兵が集まったのも、英雄である冬華の人脈と、連盟の雉ことイエロの画策のお陰だ。

 こうなる事を知っていた上で、色々と手を回していたのだ。


「全く……自分の事よりも、他人の事かよ……」


 短い黒髪をかき乱し、俯くアオはそう呟いた。それから、深々と息を吐き顔を上げる。

 そんなアオの下へと漆黒の胸当てをした堂々とした男が歩み寄った。


「どうした? 連盟の犬。総大将のお前が、そんな顔をしては士気が下がるぞ」


 巨大なハンマーを背負ったその男は、現ミラージュ王国の王、ウォーレンだった。

 グレーの髪を揺らし、穏やかな表情で笑みを浮かべるウォーレンはパンとアオの肩を叩いた。


「痛いな……」


 力強く叩くウォーレンにアオはそう呟き不満そうな表情を浮かべる。

 ウォーレンとはほぼほぼ初対面だった。何度か会うタイミングはあったはずだが、そのタイミングを逃していたのだ。

 まさか、一国の王がこんな男だったとは、アオも知らなかった。


「こんな大雑把な奴が、魔科学研究の一任者とは……」

「いやいや。そう褒めるなって」


 大笑いするウォーレンに、アオはジト目を向ける。褒めたわけではないのだが、そう思っているなら、そう言う事にしておこうと、深いため息を吐いた。

 そこへ今度はボサボサの黒髪を揺らす爽やかな青年がやってくる。


「しかし、壮大ですねー。ここまで、他国の兵が集まるなんて」


 爽やかな笑みを浮かべるこの青年は、西の大陸バレリアを統括するキース。見た目的には大分だらしない風貌のキースは、アオの横に並ぶと集まった兵を見渡していた。

 軍を率いる者は、大概変わり者が多いが、キースは特に変わり者の部類にはいる。


「そうだな。俺も予想外だよ」


 素直にアオがそう答える。

 すると、今度は東の方角から和服姿の男が歩み寄ってきた。


「流石に、感じとったんだろうさ。この空気感に。これはヤバイって」


 黒の羽織に袖を通すのは東の大陸クレリンスの剛鎧だった。綺麗な小麦色の肌に、紺色の短髪を逆立てた髪型の剛鎧は、両手を頭の後ろに組んでいた。

 幼さの残る顔立ちとは裏腹に、闘争心に燃える淡い青色の瞳を輝かせる。


「とりあえず、あの島が落ちたら、開戦って事で良いんだろ?」

「ああ。まぁ、そうなるな……」


 荒っぽい口調の剛鎧に、アオはそう答え、目を細める。

 正直、不安だった。現在、この大軍勢の総指揮は、アオが握っている。とてもじゃないが、自分には荷が重いと、アオは思っていた。

 本来ならば、英雄である冬華が率いる所だ。もちろん、少女である冬華にそんな重荷は背負わせたくないが、コレばかりは英雄の肩書きがそうさせてはくれないだろう。


「それで、アイツは間に合いそうか?」


 アオはゆっくりと剛鎧へと顔を向けた。

 僅かに険しい表情を見せた剛鎧は、鼻から息を吐くと肩を竦める。


「さぁな。まだ、仕上げに時間が掛かるらしいからな。後で、兄貴と一緒に合流する予定だ」


 剛鎧の言葉に、アオは「……そうか」と静かに呟いた。

 現在、ここに、剛鎧の兄であり、クレリンスにあるリックバード島の長、天童はいなかった。

 少しでも戦力が欲しい為、天童がいないのは非常に厳しい。他にも何人か、戦力となる人物がここにはいない。

 だからこそ、アオは不安だった。このままで大丈夫なのだろうか、と。


「まぁ、ワープクリスタルは渡しているんだ。大丈夫だろ」


 ウォーレンはそう言い、空を見上げた。

 直後だった。紅蓮の炎が空で弾けた。恐ろしい程の轟音が鳴り響き、衝撃が地上を襲う。


「な、何だ!」


 突然の事にアオは表情をしかめ、空を見上げる。

 先程まで何も感じなかったが、今はハッキリと感じる。膨大な魔力の波動を。

 何が起こっているのか分からない地上の者達はただ空を見上げる。炎が飛び散るその空を。



 浮遊していた島が地上へと落ちた。

 その衝撃は凄まじく、広場にいた兵はバランスを崩し倒れていた。

 その中で、クマと番犬ケルベロスの二人はその場に佇んでいた。


「はぁ……はぁ……」


 呼吸を乱すケルベロスに対し、


「クマママ! 危ないクマ」


と、クマはふざけたようにバランスを取る。

 両手に蒼い炎を灯すケルベロスと、赤黒い炎を両手にまとうクマ。二人の攻防は凄まじい拳のぶつかり合いだった。

 ケルベロスが振り抜いた拳へと、クマも拳を合わせる様に振り抜く。一発一発恐ろしい程の衝撃を生み出していた。

 それでも、クマの方に余裕があり、この場に倒れる兵の半数はクマが伸したものだった。

 圧倒的な強さを見せるクマに、冬華とクリスはただただ驚いていた。透き通るような蒼い刃の槍を地面に突き立て、何とか衝撃に耐えた。


「な、何……」


 冬華がそう声を上げると、


「どうやら、地上に落ちたようです!」


と、クリスが片膝を地面に着き答える。

 揺れが治まると、ケルベロスが地を蹴った。そして、蒼い炎をまとった右拳を振り抜く。だが、クマはその拳へと自らの右拳を振り抜いた。

 二人の拳が激しくぶつかり合う。二つの拳が衝突し、衝撃が生まれる。それにより、ケルベロスの黒髪が揺れた。


「凄い戦い……」


 思わず冬華は呟く。


「何者だ……」


 弾かれたケルベロスが、クマへと尋ねる。


「クマはクマクマ。他の何でもないクマ」


 決まっているかのように、クマはそう答えた。

 表情を歪めるケルベロスは一般兵へと飛び蹴りを見舞ったクマを見据える。

 そんな折だった。


「おいおいおい。番犬が、こんなぬいぐるみ程度に苦戦しているのか?」


 ふてぶてしい男の声に、冬華は顔を向ける。

 そこには見覚えのある男の姿があった。それは、以前、ルーガス大陸へと攻め入る際に指揮を取った男、ホワイトスネークのギルドマスター、ライオネットだった。

 長い黒髪を揺らし、肩に大剣を担ぐライオネットは、ふてぶてしい笑みを浮かべ、クマを見据える。


「全くですね。こんなふざけた奴に苦戦するなんて……番犬の名が廃るんじゃないですか?」


 今度は別の男の声が響く。落ち着きのある声だった。

 その声の主は、爽やかな顔に不敵な笑みを浮かべる。冬華はその男を初めて見た。だが、クリスはその男の姿をよく知っていた。


(あれが、新緑の芽吹きの……)


 大鎌を片手に握ったエメラルド色の短い髪のその男は、新緑の芽吹きのギルドマスター、ウェンリルだった。

 名前だけしか聞いた事はないが、その男がここにいるとは思っても見なかった。


「この状況で……」


 険しい表情を浮かべるクリスは、二人のギルドマスターを見据える。

 そんな中で、冬華は声を荒げた。


「な、何で! あなたが、ここに!」


 ライオネットへと向けた言葉だった。言いたい事は沢山あったが、出たのはこの言葉だった。

 奥歯を噛む冬華に対し、ライオネットは肩を竦める。


「おやおや。これは、英雄殿。あなたは、確か、帰られたはずでは?」


 嫌味っぽくそう言い放つライオネットに、冬華は唇を噛んだ。

 言い返す言葉がない。あの時、逃げる様に元の世界に帰った。だから、何も言う権利はなかった。

 押し黙る冬華に対し、ウェンリルは答える。


「この男が何を考えているのかは分かりませんが、俺の目的は一つ。世界への粛清。この世界は変わらなければならない」


 ウェンリルの発言に、冬華は息を呑み眉間へとシワを寄せた。

 世界への粛清?

 世界は変わらなければならない?

 コイツは何を言っているんだ。

 そんな事の為に、多くの関係のない人の命を奪うなんて、許せるわけがなかった。


「ふざけないで! 変わらなきゃ行けないのは世界じゃない。あなた達みたいな危険な思想を持つ人たちでしょ!」


 冬華の怒りの声に、ライオネットは鼻で笑う。


「ふっ……危険な思想ねぇー。それは、あんただって一緒だろ? 力でねじ伏せようって言うんだからよ」


 ふてぶてしくそう言い放つライオネットに、今度はクリスが声を上げる。


「貴様らと一緒にするな! そもそも、すでに話し合う余地もないこの状況で、ねじ伏せるも何もあったものか!」


 怒りをぶちまけるクリスへと、ライオネットは小さく首を振り、


「まぁ、そうだな。じゃあ、とりあえず、始めるか? 殺し合いをよぉ!」


と、叫び地を駆ける。

 ライオネットは真っ直ぐに冬華へと向かっていた。その為、クリスは瞬時に冬華の前へと出て、拳を握る。

 現在、クリスは武器を所有していなかった。その為、表情は険しい。果たして素手でギルドマスターを相手に出来るのか、と。


「素手で私の相手が務まるのか!」


 クリスの考えを見透かしたようにそう叫んだ。

 大剣を振り上げた直後、ライオネットの横っ面をクマが蹴り飛ばした。


「うぐっ!」


 激しく地面を横転するライオネットは土煙を巻き上げる。

 一方、華麗に着地を決めたクマは、胸の前でパンと手を叩いた。

 すると、次の瞬間クマの手の中に一本の剣が姿を見せた。それは、呼び出したのではなく、完全にクマ自身が生成した剣。

 まさか、クマがここまで出来るとは、とクリスは驚きを隠せない。


「クリスはコレを使うクマ。慣れない肉弾戦なんてダメクマ」


 クマはそう言い、クリスへとその剣を渡した。

 黒い鞘に納まったとても美しい剣。軽量化された片手剣だった。


「あ、ああ……すまない」


 戸惑いながらもクリスはそれを受け取った。

 とても軽い。まるでクリス用に作られた剣の様に柄は手に馴染んだ。


「クッソが! 舐めんじゃねぇぞ! ぬいぐるみ!」


 ライオネットはそう叫び、立ち上がりクマへと向かって走り出した。

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