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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第27話 光り輝く槍

 蒼い火の粉と真っ白な粉雪が降り注ぐ。

 その衝撃は凄まじく、周囲の木々をなぎ払い冬華とケルベロスの体も軽々と吹き飛ばす。茂みから弾かれ集落へと戻された冬華は、二度・三度と横転した後、体勢を整えるとすぐに茂みの方へと視線を向け、槍を構えた。


「冬華!」


 そこで、フリードを抱えたシオが冬華の名を呼んだ。だが、その声は冬華に届かない。何故なら、冬華の意識は茂みの向こうにいるであろうケルベロスへと集中していたからだ。遅れて茂みから飛んで来たセルフィーユ。手は蒼い炎に包まれ、そこに形成されていた壁が音も無く消滅する。


「セルフィー――」

「うがああああっ!」


 シオが叫ぼうとしたその声を遮り、飛び出す。漆黒の髪を振り乱す蒼い炎をまとったケルベロス。その姿を確認し、冬華は臨戦体勢を取り、セルフィーユもその手をケルベロスの方へとかざす。その刹那、轟く。シオの叫び声が。


「ケルベロォォォォス!」


 大気を揺るがすその声に、ケルベロスの動きが止まり、冬華とセルフィーユもそこでシオの存在に気付く。三人の視線を浴びるシオ。その腕の中で力なく横たわるフリード。その姿に、冬華は表情を険しくする。何かがあったのだと、すぐに理解したのだ。


「セルフィーユ!」

『ふぇっ? あっ、はいっ!』


 冬華の声に、一瞬戸惑った表情を浮かべたセルフィーユだが、シオに抱き上げられたフリードの様子と、冬華の声質から何をすべきなのかを理解し、そのままシオの方へと飛び立っていった。

 ケルベロスを睨みつけるシオは、セルフィーユが近付いてくるのを確認すると、フリードをその場に下ろし、唇を噛み締めた。集落の状況から、分かったのだ。この集落を襲ったのがケルベロスである事を。だから、怒りをその顔に滲ませていた。


『い、一体、何があったんですか! ひ、酷いき――』

「後は、任せる。フリードを……助けてくれ」

『えっ?』


 静かなシオの口調にセルフィーユは驚き、シオの顔を見据えた。その表情はいつに無く怖く、殺気を帯びている様に見え、セルフィーユは息を呑んだ。シオから二度目となる魔族だと感じる波長に、手に汗を滲ませる。

 そんなセルフィーユの視線など感じていないのか、シオはジッとケルベロスを見据えると、右足を踏み出し一気に地を蹴る。その瞬間に爆音が響き、地面が砕け砕石と土煙が舞い上がった。


「シオ! 待っ――」


 冬華が叫ぶが、そんな声など聞かず、シオの右拳がケルベロスの右頬を貫く。横から受けた衝撃にケルベロスの体は吹き飛び、地面を転げる。土煙だけが舞い上がり、その土煙の中へと向かいシオは更に怒鳴り声を上げた。


「どう言うつもりだ! ケルベロス!」

「うぅぅぅぅっ……がぁぁぁぁっ……」


 シオの声に対し、呻き声の様な声が返ってくる。その声に眉間にシワを寄せたシオに駆け寄った冬華はその肩を掴むとシオの体を自分の方へと向けた。


「シオ! ちょっと落ち着きなさいよ」

「落ち着いていられるか! コイツが……ここを……」

「違う! コイツが来る前にすでに人間達がこの集落を襲ったの! その後で、コイツが現れたの!」


 冬華がそう怒鳴ると同時に二人の視界の端に青白い光が映りこむ。ケルベロスだ。二人の言い争っている間に体勢を整え突っ込んで来たのだ。その拳に蒼い炎をまとわせて。その光にすぐさま反応したのはシオで、右足を地から離すと素早い上段蹴りを放つ。それにあわせる様にケルベロスの右拳が突き出され、シオの足とケルベロスの腕が交錯し弾かれる。


「ぐっ!」

「うがっ!」


 弾かれよろめくシオ。一方、ケルベロスも大きく仰け反り後方へと押し戻される。両者が睨み合う中、その視界を遮る様に冬華が間へと入り込む。

 その行動に、シオは青筋を浮かべ、握った拳を震わせる。


「どう言うつもりだ……てめぇ……」

「あなたは引っ込んで」

「ひ、引っ込めだと! 馬鹿言うな!」

「大人しくして。それに、彼……何かに操られてるだけ。彼の意思でこんな事をしてるわけじゃないわ」


 シオに背を向けたままそう返答した冬華は、小さく長く息を吐くと、その肩から力を抜いた。体を包む金色のオーラに、シオはそこで初めて気付き息を呑む。妙な力を感じた。冬華では無い別の力を、冬華自身から。だから、シオは大人しく引き下がり、フリードに手をかざすセルフィーユの横へと移動した。

 手の平から薄らと光を放つセルフィーユの額には汗が滲み、フリードの傷口が徐々に再生されていく。その不思議な光景を見据えるシオは、静かな口調で問う。


「なぁ。冬華の奴、何かあったのか?」

『何かあった様ですが、私にはわかりません。ただ、あの人に殴られた後から妙な力を感じて……』


 シオに目を向けず淡々と答える。すでに数回絶対障壁を使い、セルフィーユの聖力(聖霊の力)もかなり消耗していた。その為、シオの目でもセルフィーユの姿は薄らとしか見えなかった。だから、シオはそれ以上セルフィーユに言葉を掛けず、冬華とケルベロスの方へと視線を向けた。

 静かに息を吐く冬華が右足を踏み出し腰を僅かに落とす。吐き出す息が白く凍り付き、二人の視線が交錯する。体を包む光が、槍先へと集中し、冬華の鼻から血が静かに流れ出した。膨大な神の力を受け、体に相当の負荷が掛かっていたのだ。


「うぐっ……」


 表情が歪み、膝が僅かに落ちる。この一撃が最後だと、冬華自身分かった。だから、全ての力を刃先へと集めた。静かに時が過ぎる。数秒、数十秒。どれ位の時間が過ぎたの変わらない。それでも、ケルベロスは冬華の行動を待つ様にただその場に仁王立ちしていた。

 真っ直ぐにケルベロスを見据える冬華。その冬華の視線に映るケルベロスの胸の辺りに黒い霧が映る。それが、ケルベロスの体を操る力。そう確信した冬華は、右足へと力を込め、柄を握る手にも同時に力を加える。


「シャイニングスピア!」


 踏み込んだ右足に全体重を乗せ、槍を一気に突き出す。光り輝く槍が一直線にケルベロスへと迫る。それでも、ケルベロスは動かずジッと冬華を見据えていた。そして、切っ先は捉える。ケルベロスの胸を。

 血飛沫が放射線状に飛び散り、ケルベロスの背中から突き出す光り輝く刃。


「ぐふっ……」


 ケルベロスの口から血が吐き出され、冬華は静かにその刃を抜いた。刃を抜くと冬華は後方へとよろめき、輝いていた槍は光を失い消滅した。それと同時に冬華は倒れこんだ。それに遅れ、ケルベロスの体から黒い煙が上がり、それと同時にケルベロスは膝が地へと落ちた。その胸から血を溢れさせながら。

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