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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
262/300

第262話 仮装集団?

 牢を抜け出した冬華は、通路をひたすら走っていた。

 両手の枷は獅子のぬいぐるみであるオンが手刀? で、破壊してくれたため、今はもう精神力も使えるようになっていた。

 それを利用し、冬華はクリス・ライ・水蓮の三人の気配を探っていた。

 すでに二つの強い気配が動いていた。

 それが、クリス達なのかは分からない。

 何故なら、三人も冬華と同じく精神力・魔力を封じる手枷をされていたとすれば、気配など探る事は不可能だったからだ。

 もしかすると、その気配は敵なのかもしれない。

 それでも、冬華はその気配の場所へと進んでいた。

 何の手掛かりもなく、この広い牢獄を探し回ると言うのは、効率が悪い。

 もし、それが敵だとしても、気配は単独で動いている。

 ならば、これだけの人数がいれば何とかなる。そう考えたのだ。

 冬華の足音と、他三つの奇妙な足音。

 全くもって緊張感の欠片のない足音に、思わず冬華は苦笑してしまった。

 先頭を行くのはクマ。

 基本的に感知能力が優れているのか、分かれ道になると、冬華よりも早く進路を決める。

 しかも、それが、的確に気配のする方へと向かっていた。

 二番手に冬華が続き、リュー、オンの順に続いていた。

 ヒクヒクと鼻を動かす獅子のぬいぐるみオンは、チラリと後方を見た。

 それとほぼ同時に、リューも耳をピクピクと動かし、同じく後方を見る。

 冬華の耳には届かない程の足音、冬華の嗅覚では感じる事の出来ぬ臭いをリューとオンは感じ取り、足を止めた。

 二体の動きが止まった事により、奇妙な足音が途切れる。

 それに気付き、冬華も足を止め、クマも足を止めた。


「どうかしたの?」


 冬華が二体に尋ねると、オンは腕を組み、


「追っ手だニャ。複数の血の臭いがするニャ」


と、右手で鼻頭を掻く。


「気配は消しているようだが、鉄の擦れ合う僅かな音から、騎士ゴン。恐らく、白銀の騎士団の面々だと思うゴン」


 コクリコクリと頷き、リューは呟く。

 追っ手が来たと言う事は、冬華が牢を抜け出した事がバレたと言う事だろう。

 しかも、白銀の騎士団が追っ手として来たと言う事は、間違いなく仕留めにきていると見て間違いなかった。


「ど、どうしよう?」


 うろたえる冬華は、チラリとクマを見た。

 すると、クマはニコリと笑う。


「大丈夫クマ! リューとオンに任せておけば」

「で、でも……。相手は白銀の騎士団だよ?」


 不安げに眉を曲げる冬華の潤んだ瞳に、クマは右手で困ったように頭を掻いた。

 すると、オンが深く息を吐き出す。

 その吐息に、冬華の視線は自然とオンへと向く。


「安心するニャ。こう見えても、俺は強いニャ!」


 丸っこい手で胸を叩く。


「オンちゃん……」


 不安げに冬華が呟くと、


「私もいるゴン。無理はしないゴン」


と、リューは胸を張った。


「リューくん……」


 やはり不安そうに冬華は呟く。

 すると、クマは丸っこい手を冬華の右肩に置いた。


「クマ達はココまで侵入できたクマ。マスターもある程度の戦闘能力をインプットしてくれてるクマ」


 えへへ、と笑うクマの顔を真っ直ぐに見据え、


「クマ……」


と、冬華は呟く。

 だが、その瞬間にクマは両手を振り上げる。


「クマーっ! どうして、クマだけ、呼び捨てクマ! リューくんとか、オンちゃんとか、クマも呼ばれたいクマー!」


 両手をバタバタとバタつかせ、駄々を捏ねるクマに、オンとリューは冷めた眼差しを向ける。


「まさか、その為に……」

「今の台詞を言ったゴン?」


 二人の眼差しに対し、クマは頭から湯気を蒸し、


「そうクマ! そうクマよ! クマだって、クマちゃんとか、可愛らしく呼んで欲しいクマ! 二人だけずるいクマ!」

「え、えっと、じゃ、じゃあ――」


 大騒ぎするクマに、冬華は戸惑いながらそう口にし、考える。

 そして――


「クマさん?」


と、冬華は頭を右へと傾ける。

 すると、クマは激怒する。


「何で、さん付けクマ! それじゃあ、距離があるクマ! クマだけ、凄い壁があるみたいクマ!」


 両手を何度も頭上へと突き出し怒るクマ。

 だが、その顔は愛らしく、見ていて和んでしまうほどだった。


「じゃあ、クマ様は?」

「様は嫌クマ! もっと可愛いのがいいクマ!」

「うーん……じゃあ、クマも――」

「それはダメクマ!」「それはダメゴン!」「それはダメニャ!」


 ぬいぐるみ三人が声を揃え、そう言う。

 三人の声に、不満そうに目を細める冬華は、腰に手を当てると鼻から息を吐く。


「じゃあ、何がいいの? 可愛いじゃない? クマも――」

「あーあっ! それ以上はダメクマ! クマの直感が、それ以上言っちゃダメと言ってるクマ!」

「そうゴン! 何か、得たいの知れない強大な力を感じるゴン!」

「もっと他にいいネーミングがあるニャ!」


 クマも、リューも、オンも必死に言い聞かせる。

 その言葉に、冬華は肩の力を抜くと、頭をうなだらせ、息を吐いた。


「じゃあ……クマゴンでいいね?」

「クマゴン、ゴン?」

「リュー。ややこしいからやめるクマ」

「そうニャー。てか、もうクマはクマでいいニャ」


 オンが腰に右手をあて、ふっと息を吐く。


「そうだゴン。クマはクマでいいゴン」


 リューも腕を組み賛同する。

 しかし、クマは不満そうに頬を膨らせる。


「クマーッ! じゃあ、もうクマでいいクマ!」


 渋々了承する。

 しかし、長々とコントをしていた為、


「居たぞ! 脱獄だ!」


と、通路の奥から兵の声が響き、武装した純白のローブを纏った集団が姿を見せた。

 数は二〇人前後。

 一般兵としてなら数は少数だが、全員が最強の騎士団である白銀の騎士団所属のメンバーを言う事を考えると、かなりの人数だった。

 一気に不安になる冬華だが、クマ達三体は相変わらず、


「見てみろニャ。クマの所為で追いつかれたニャ」

「クマの所為クマか!」

「それ以外に無いゴン」

「何でそうなるクマ!」

「いいから、先に行くゴン」

「ここは、俺らで何とかするニャ」


 クマに対し、リューとオンはそう言い、白銀の騎士団へと体を正面に向ける。

 不安を拭えぬ冬華は、そんな二体の背を見据える。


「何だ! この仮装集団は! 邪魔をするな!」


 兵の一人がそう声を上げると、オンは重心を落とし、両手に魔力をまとう。


「誰が仮装集団ニャ? 覚悟はいいニャ?」


 圧倒的な威圧感を放つオンは、腋の下に両手を構え、


「獅子爪撃!」


と、魔力を纏った両手を交互に振り抜いた。


 ・・・?


 誰もがそんな風に思い、きょとんとした表情を浮かべる。

 何故なら、何も起きず無音で静かに風が吹きぬけただけだったからだ。

 両腕を振り抜いたまま硬直するオンはガクンと膝を落とした。


「そうだったニャ……。爪が……爪が無かったニャ……」


 床に着いた自分の丸っこい手を見据え、オンはうな垂れる。

 呆れた様に首を振るリューは、オンの横に並ぶ。


「全く……何を考えてるゴン。よく見てるゴン。私が片を着けるゴン」


 リューはそう言うと、その大きな口を開き、


「滅龍の一撃!」


と、リューは息を吸う。

 背を仰け反らせ、胸を大きく膨らませるリューの口が魔力を帯び、輝きを放つ。

 皆がそれに対し、防衛体勢に入ると、


「破滅の息吹!」


と、リューは吸い込んだ息を吐き出した。


 ・・・・・・?


 またしても誰もが頭にハテナを浮かばせ、目を白黒とさせる。

 リューの大きく開かれた口から吐き出されたのは、「ぷすん」と言う小さな吐息。

 その後は、シーンと静まり返った。


「そうだったゴン……息吹は使えないんだったゴン……」


 ガックリとうな垂れ、オン同様に、リューは膝を床に落とし両手を着いた。

 落ち込む二体の姿に、冬華の不安は一層強まり、隣に並ぶクマへと目を向ける。


「本当に……大丈夫?」


 冬華の言葉に、クマは苦笑し、


「大丈夫クマ! 信じるクマ!」


と、胸を叩き、冬華の手を取った。

 そして、走り出す。

 この場をすぐさま立ち去る様に。


「ちょ、ちょっと、クマ!」


 慌てる冬華だが、クマはそれを無視して、ただピョコピョコと足音を響かせていた。


「くっ! こんな馬鹿げた着ぐるみなど相手にするな! 奴らを追え!」


 兵士の一人がそう言うと、それに応じる様に、数人の兵が走り出す。

 そして、オンとリューの横を通り過ぎようとしたその時、オンの右足が一人の兵士の体を壁へと叩きつけ、リューの右拳が兵士の頭を床へと叩きつけた。


「おいおいニャ」


 オンの右足がゆっくりと離れ、亀裂の入った壁に減り込んだ兵士が床へと倒れる。


「ここから先に行かせるわけには行かないゴン」


 リューは床に叩きつけた兵士を片手で持ち上げると、それを兵士達の方へと投げた。


「さてさて、本気で行かせて貰うニャ」

「程ほどにしとくゴンよ」


 胸の前で両手を合わせるオンへと、リューは軽い口調でそう言う。

 そんな二体の体からは、禍々しい程の殺気が漂っていた。

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