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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
255/300

第255話 不快な力

 吹雪く中に、轟く銃声。

 右肩、左肩、胸、額、腹、左太股、右太股の順に弾丸が撃ち抜く。

 いや、撃ち抜くと言う表現は間違っているだろう。

 何故なら、弾丸はすべて光鱗で防がれているのだから。

 それでも、衝撃だけで冬華の膝は積雪の上へと落ちた。

 流石にライフルでの至近距離での一発一発の威力は凄まじいものだった。

 右手を積雪の上へと下ろし、前屈みになる冬華の口からは真っ赤な血が唾液と共に零れ落ちる。

 そんな冬華に、ライフルを持つ男は、不敵に笑う。


「可哀想に。一発で死ねたら楽だっただろうに……。お前を守るその鉄壁の守りが、逆にお前を苦しめる結果になるとはな」


 クスクスと肩を揺らす男を、冬華は表情を歪め見上げていた。



 白銀の髪を揺らすクリスは、火の剣・焔狐を振り抜く。

 炎をまとう刃は、冷たい空気に触れ、大量の湯気を噴かせていた。

 空色の髪がサラリと舞い、白装束の女性は、軽い足取りで後方へと下がる。

 この積雪だと言うのに、その動きは鮮麗された軽やかな動きだった。

 左目を細めるクリスは、すぐに刃を返すと、白装束の女性との間合いを詰め、焔狐を振り抜いた。

 刃を覆う炎は不安定で、切っ先の方に行くにつれ、火力は弱く、白装束の女性はその刃を紙一重でかわし、それを確認している様子だった。

 その事をクリス自身が一番知っていた為、表情をしかめ、奥歯を噛む。


「くっ!」


 踏み込んだ右足が積雪に減り込み、クリスの体勢が崩れた。

 しかし、白装束の女性は、その大きな隙を見逃し、距離を取る。

 もちろん、それはミスではなく、あえて見逃したのだ。

 それだけ、彼女には余裕がある。この地では負けないと言う自負があるのだ。

 不快そうに表情を歪めるクリスは、真っ白な息を吐くと後ろをチラリと見た。

 三人の事を気にしていた。

 一般兵程度なら、すでに片付けて合流してもおかしくない。

 それに、何発も轟いていた銃声は。

 気になる事は沢山あり、クリスは集中力を欠いていた。

 白装束の女性は、そんなクリスの気持ちを知ってあえて手を抜いているのだ。

 不安を煽り、焦らせる為に。

 奥歯を噛むクリスは、眉間にシワを寄せる。

 このままだと、どっち道、追い詰められるだけ。

 そう思ったクリスは、左手を右目の眼帯へと伸ばす。


(くっ……これだけは……使いたくなかったんだが……)


 左目を閉じたクリスは、奥歯を噛み左手で眼帯を掴んだ。

 苦渋の決断だった。

 これ以上、醜態を晒すわけにはいかない。

 冬華を傷つけさせるわけにはいかない。

 今度こそ、冬華を守らねばならない。

 その想いから、クリスは目を見開くと左手で眼帯をひきちぎった。

 眼帯が外れ、唐突にクリスの体が魔力を放つ。

 体はそれに鼓動するように高熱を帯び、全身からは湯気が上がった。

 クリスの右目がゆっくりと開かれる。

 すると、そこには赤い瞳が輝いていた。

 ミラージュ王国で開発された義眼だ。

 最上級純度の魔法石を使用し作られた、最高傑作。

 それを、ジェスはミラージュ王国から盗み出し、コレクションとして保管していたのだ。

 どうせ、俺が使う事は無いだろうから、とジェスはクリスのこの義眼を譲った。


“綺麗な顔のお前に眼帯は似合わない”


 そう言って。

 正直、クリスはこの義眼を入れるのが嫌だった。

 魔力を体内に取り込む事になると言うのが、どうしても嫌だったのだ。

 それでも、冬華を守る為には必要な事だと自分に言い聞かせ、義眼を移植した。

 今まで使う事に躊躇っていたが、もう躊躇っている場合ではないとクリスは判断したのだ。


「悪いが……私は不機嫌だ。この義眼は……不快だ……。だから、最初から全力で行くぞ」


 赤く輝く義眼から魔力が溢れる。

 その魔力に、白装束の女性は、くすんだ右目を細め、失われた左目を左手で押さえた。

 左手が薄らと輝くと、白装束の女性の顔の左半分が凍り付いた。

 まるで顔半分を仮面が覆ったような風貌へと変わった白装束の女性は、空色の髪を荒々しく吹き荒れる風に揺らすと、軽く右手を横に振った。

 すると、その手に白刃の刀が現れ、白装束の女性はその柄を握り締めた。

 いよいよ、彼女も本気で戦うつもりなのだと理解し、クリスは息を呑む。

 この白装束の女性は、間違いなく強者。強さの底すら未だに見せていない程の。

 今の自分がどれだけ、この白装束の女性とやりあえるのか、そう考えながらクリスは焔狐を構えた。


「行くぞ……」


 真っ白な息を共にそう告げたクリスは、地を蹴った。

 雪に足を取られながらも、クリスは駆ける。

 そんな冬華に対し、白装束の女性は間合いを測り、重心を落とすと腰の位置に白刃の刀を構えた。

 赤く輝く義眼が魔力をめぐらせ、螺旋状の炎がクリスの右腕に巻きつき、それが、焔狐の刃まで呑み込む。

 クリスは左足を踏み込み、同時に重心を落とす。上体は前掛りになり、そのままの勢いで高熱の炎に包まれた焔狐を、右から左へと振り抜く。

 一方、白装束の女性も体重を左足へと乗せると、白刃の刀を炎に包まれた焔狐にあわせる様に振り抜いた。

 互いの剣が間合いに入ると同時にぶつかり合い、澄み切った金属音を響かせ、衝撃を広げた。

 白煙が激しく周囲を包み込み、遅れて、もう一度金属音が短く響く。

 衝撃に二人の体は一瞬大きく弾かれたが、すぐに体勢を整え、そのままの距離で打ち合っていた。

 右へ左へと炎をまとう焔狐は振り抜かれる。

 それは、荒々しく燃え上がる炎のような攻めだった。

 しかし、白装束の女性は、それを相殺するように、同じ角度、同じ力で白刃の刀を振っていた。

 二人の刃は幾度となくぶつかり合い、何重にも重なる衝撃を広げる。

 足元の積雪はすでになくなっており、水気を多く含んだ土があらわとなっていた。


「くっ!」


 どれ程打ち合ったのか分からないが、二人の体が大きく後方へと弾かれる。

 仰け反るクリスは、焔狐の柄を両手で握り、頭上へと構えた。


「紅蓮一刀!」


 クリスの凛とした声が響くと、焔狐は一層火力を強める。

 その瞬間、白装束の女性は白刃の刀を地面へと突き立て、


「絶対氷結」


と、静かな声を上げた。

 唐突に強大な魔力が広がり、周囲を包み、冷気が漂う。

 それは、一瞬にして焔狐の炎を凍り付けにすると、そのままクリスの体をも凍り付けにした。


(な、何が……)


 一瞬の事に驚くクリスだったが、その意識はすぐに失われ、氷が弾けると同時にクリスの体は地面へと倒れ込んだ。

 その手から零れ落ちた焔狐は、虚しく冷たい風に吹かれていた。

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