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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
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第250話 ソリ爆発

 雪がしんしんと降る中。

 冬華達は小さな集落の民宿に居た。

 部屋に備え付けられている火鉢で暖をとる冬華はホッと息を吐いた。

 冬華達がこの集落に辿り着いたのはたまたまだった。

 ちょっとした事故があり、まさかのソリが爆発。

 吹雪く中雪原に投げ出された冬華達は彷徨いながら、何とかこの集落を発見したのだ。

 非常に幸運だった。

 本来ならあのまま遭難してもおかしくない程、最悪な状況だったのだ。

 雪で濡れた上着を壁へと掛け、乾かし、火鉢で体を暖める冬華は、先程のちょっとした事故の事を思い出す。


「いやー。驚いたねぇー。まさか、爆発するなんてー」


 冬華は過ぎた事だと笑う。

 だが、一歩間違えれば大惨事だった。

 そう考えたからこそ、ライは呆れた眼差しを冬華へと向け、濡れた茶色の髪をタオルで拭いた。


「笑い事じゃないぞ。全く……」


 タオルで頭を拭きながらそう言うライは、ジト目をクリスへと向ける。

 申し訳なさそうに肩を落とすクリスは、深くため息を吐いた。

 そのちょっとした事故の原因はクリスだ。

 あのソリは魔法石で動くソリで、魔力を動力とするモノだった。

 故に、魔力を注げは動く。冬華達はそう考えた。

 そして、その考えは正しかった。

 クリスが僅かだが魔力を注ぐと、ソリのエンジンがかかり、動き出したのだ。

 そこまではよかった。そこまでなら……。

 直後に、クリスは考えた。


“魔力の量を増やせば、もっと速度は出るんじゃないのか?”


と。

 その考えが、間違いだった。

 あのソリは魔力を蓄え、それを燃料とし動く仕組みだった。

 決して魔力の量を増やしたからといって、速度が上がるわけではなかった。

 その為、クリスによって大量に流し込まれた魔力は蓄積量を遥かに超え、やがて爆発を起こしたのだ。

 それは、凄いものだった。

 火柱が空へと登るほどだった。

 そして、現在に至る。

 集落は約二十人程。

 若者は少なく、老人や子供が多い。

 寒いこの地では仕事が少ない為、若い者は大きな町へと働きに行く。

 雪が年中降っている為、畑などは作れない。

 そう言う事もあり、働き口が少ないのだ。

 火鉢に手をかざし暖をとる冬華は、肩口で黒髪を揺らす。

 髪に含んでいた水気は大分なくなり、乾いていた。

 白銀の髪をうなだらせるクリスは、部屋の隅で深々と息を吐く。

 まだ、あの事を引き摺っていた。

 落ち込むクリスに目を向ける冬華は、首を傾げる。


「クリスもそんな所に居ないで、こっちきなよ?」

「いえ……私は結構です」


 クリスはそう言い、頑なに首を振る。

 責任を感じているのだ。

 ナイフの手入れをするライは、刃を真っ直ぐに見据え深々と息を吐き出す。


「放っておいてやれよ。責任感じてんだからさ」


 ライはそう言いながら軽くナイフを振る。

 ライが何をしているのか分からない冬華は、苦笑し、


「そ、そうだね……」


と、呟いた。

 そんな折、部屋へと水蓮が戻ってきた。


「ひやぁ……凄い雪ですねー」

「おう。どうだったよ?」


 ナイフをしまい、ライはそう声を上げる。

 そんなライへと、紙袋を軽く持ち上げて見せる水蓮は、困った様に笑うと、


「一応、少しだけですけど……食べ物を恵んでもらいましたよ」


と、答えた。

 ソリ爆発事件で、食料もすべて吹っ飛んだのだ。

 故に、冬華達に食べる物は残されていなかった。

 その為、水蓮が民家を巡り少しばかりの食料を恵んでもらったのだ。

 テーブルへと並べられるのは日持ちのする乾燥肉やら乾パンなどだった。

 味は格段に落ちているだろうが、今はそんな事を気にしている状況ではなかった。

 その為、乾燥肉は軽く火鉢であぶり、乾パンを口の中でふやかす。

 堅くやはり食べ難いが、それでも空腹は凌げた。


「これから、どうしようか?」


 火鉢で乾燥肉をあぶっている最中に、冬華がそう口にする。

 この吹雪では、暫く動けそうになかった。

 しかし、冬華達は急いで王都に行かなければならない。

 調べなければならない事もあるし、何よりも人体実験と言う非人道的な行為を早く止めさせたい。そう考えていた。

 まだ硬めの乾燥肉にかぶりつくライは、鼻から息を吐くと目を細める。


「ふぉーらなぁ……」

「食べてる物飲み込んでからにしてください」


 乾燥肉を銜えたままのライへと水蓮がすかさずそう口にする。

 水蓮の言葉に不満そうな表情を浮かべるライは、乾燥肉を噛み切り顎を動かす。

 ライの様子に水蓮は小さく息を吐き、お茶を啜った。


「まぁ、何にしても、まずは移動手段ですね」

「そうだよね……」


 目を細める冬華は窓の外を見据える。

 吹雪は大分弱まっているが、それでも、歩いて王都を目指すには危険だ。

 そう考えると、やはり移動手段として犬ソリ、もしくは馬が必要だった。


「この集落では、ソリなど使っていないみたいで……月に一度、来る商人から色々と物資を調達しているみたいです」

「そっか……裏は森だもんねー。狩りに行くのに、そんなに長距離移動する必要ないもんね」


 そう。

 この集落の裏手には森がある。

 故に、この集落の人は、森に狩りに行くのだ。

 その為、長距離移動などする必要性がなく、犬ソリの類はなかった。

 困った表情で腕を組む冬華に、部屋の隅で正座するクリスは小声で謝る。


「申し訳ありません……」


 その声に冬華は苦笑し、


「き、気にしなくていいんだって!」


と、励ます。


「そうですよ。過ぎてしまった事なんですから」


 水蓮もそう言うが、クリスは一層背を丸め落ち込んで行く。


「だから、ソッとしておけって言ってるだろ?」


 ようやく肉を呑み込んだライが呆れた様にそう言い、背筋を伸ばす。

 それから、首を鳴らすと、


「とりあえず、今日は休んで、今後の事は明日考えよう」


と、言い大きな欠伸を一つした。

 流石に疲れは溜まっていた。

 ソリの操縦をしていたのはライで、ここまで歩いて来るのにも大分体力を消耗していた。

 流石に、眠気で限界だった。

 それは、冬華達も同じだ。

 お腹が充たされ、火鉢の暖かさに眠気が襲ってきていた。


「まぁ、眠気眼で話し合っても、仕方ないだろ?」

「ふぁぁぁ……そうだね……」


 眠そうにそう答えた冬華は、右手で目を擦り小さく頷いた。

 とりあえず、今は寝よう。

 そして、起きたら今後の事を話し合おう。

 そう思い、冬華達は静かに眠りへと就いた。

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