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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
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第247話 意地

 リックバードを出て数日が過ぎ、冬華達の乗った船は北の大陸フィンクにようやく到着した。

 一年中雪の降る大陸であるフィンクでは、当たり前のように雪が積もっていた。

 寒さ対策に厚手のコートを身にまとう冬華は、防寒用の黒タイツを履いていた。

 それにより、妙に足は細く長く見えると言う若干の効果が期待されていた。

 耳当てをし、はふーっと真っ白な息を吐き出す冬華は、肩口で僅かに黒髪を揺らすと、大きな目をパチクリとさせる。


「ひっさしぶりだねー」


 冬華はそう声を上げた。

 冬華が声を上げるのも無理はない。

 ここは、前回冬華達がフィンクに訪れた際に来た最初の港町だった。

 そして、魔女と呼ばれた魔族の女、ヴェリリースが居た町だ。

 懐かしく思う冬華は、白い息をもう一度吐き出し、目を輝かせる。

 一方、和服の水蓮は両手で肩を抱き身を震わせていた。


「な、なな、なんですか! この寒さは!」


 雪など降らぬ年中穏やかな気候のクレリンス育ちの水蓮にとって、この寒さは尋常ではない寒さだった。

 身を震わせる水蓮に対し、呆れた目を向けるクリスは、深々と息を吐く。


「だから言っただろ? フィンクは寒いぞと」

「そ、そんな事言っても……寒いにも限度があるでしょ!」


 下唇を震わせながらそう声を強める水蓮に、クリスは右手で頭を抱える。


「大人しくコートを着ろ。凍死するぞ」

「そうだよ。あと、草履だと霜焼けするよ?」


 冬華も振り返り、心配そうに水蓮にそう言った。

 流石に心配になったのだ。

 心配そうな冬華に、水蓮は唇を真っ青にしながら、白い息を吐き出す。

 水蓮は頑なにコートを着る事を拒んだ。

 何故、そんなに頑なに拒否するのかは冬華とクリスには分からず、顔を見合わせる。


「何で、嫌なんだ?」

「どうしても嫌なんです!」

「死んじゃうよ?」


 首を傾げる冬華の一言にも、水蓮は首を左右に振る。

 わけが変わらずもう一度顔を見合わせる冬華とクリス。

 クリスは肩を竦め首を振り、冬華は肩を落とし大きなため息を一つ落とした。

 そんな冬華とクリスに対し、水蓮は表情を引きつらせ、


「だ、大丈夫ですよ! 羽織を何枚も着込めば、この程度の寒さなど問題ありません!」


と、力強く言うが、それだといざと言う時に動きが鈍ってしまうんじゃないか、と二人は危惧していた。

 そんな二人の心配を他所に、水蓮はガクガクと震えながらぎこちなく動く。


「と、とりあえず、何処か、暖まれる場所に行こっか?」

「そうですね。このままだと本当に水蓮が凍死しかねないですから……」


 諦めたように吐息を漏らしたクリスは、以前にも使用した宿へと向かって歩き出した。

 その後に苦笑する冬華が後ろを気にしながら続き、最後尾をぎこちなく動く水蓮が続いた。

 それから、数十分程して――


「はふぅー……生き返るぅー」


 宿の一階、レストランで、水蓮はそう声を上げた。

 椅子に腰掛、丸テーブルにうつ伏せに倒れこむ水蓮の唇に血色が戻る。

 そんな水蓮の姿に苦笑する冬華は、水の入ったコップを口へと運んだ。

 口の中を潤した冬華は、深く息を吐くと頬杖を突いた。


「それで、どうして、コートは嫌なのかな?」


 当然の冬華の質問に対し、水蓮は目を細めた。


「いや……なんて言いますか……。意地ですかね?」


 苦笑し、水蓮はそう答えた。

 その答えに、冬華は訝しげに首を傾げる。


「意地? 何の?」

「うーん……そうですねー……。冬華殿のそれと同じですよ?」

「それ?」


 一層疑問を強くする冬華は、水蓮が指差す先へと目を向けた。

 それは、意外にも冬華の服装。ミニスカートだった。

 何故、それを差したのか変わらず、冬華はもう一度首を傾げる。


「どう言う事?」

「冬華殿も寒いのに、その様に足を出しているではありませんか? 私もそれと同じですよ」

「え、えっと……それって……」

「所謂、クレリンス大陸に住む者としての意地って所か?」


 熱々のスープの注がれた皿が三つ乗ったトレイを手に、席へと戻ってきたクリスが、そう口にした。

 その言葉に冬華は「えぇー」と不満げな声を上げる。

 だが、水蓮はニコニコと笑みを浮かべ、


「そう言う事ですね」


と、答えた。

 そして、すぐに俯き、


「私は、この服が好きです。クレリンスでしか着ている者は居ませんが、それでも、この服が好きなんです」


と、強く答えた。

 水蓮の答えに冬華は目を細める。


「そうなんだー。結構、頑固だねー。水蓮って」

「そうですか?」

「それより、スープでも飲んで体を温めろ」


 呆れた眼差しを向けるクリスはそう言い、トレイに乗った皿をテーブルへと置いた。

 湯気の上がるスープを目の前にし、水蓮はふっと息を吐くと、それを一口口へと運んだ。


「はふぅー……染み渡る……」

「ジジ臭いよ?」


 冬華はそう言い、木製のスプーンでスープをすくった。

 透き通る黄金色のスープ。一体、何で出汁をとっているのかは分からないが、とてもいい香りがしていた。

 食欲をそそる香り。

 その言葉がピッタリだった。

 一口スープをすすった冬華は、深く息を吐いた。


「それで、これから、どうするの?」


 クリスへと冬華は目を向ける。

 何も考えていなかったわけではないが、フィンクに来て何をするのか、と言う事はまだ話し合っていなかった。

 クレリンスの時のように特別何かが起こっていると言う事はなさそうで、目指す先がなかった。

 冬華の問いに対し、クリスは一口スープをすすり、静かに答える。


「そうですね……。とりあえず、王都へと向かうべきじゃないですか?」


 クリスがそう言った時だった。

 背後から一人の男の声が響く。


「その考えは正しい。だが、状況も知らずに王都に向かうのは得策じゃねぇぞ」


 聞き覚えのある声に、クリスは眉間にシワを寄せ、冬華は目をパチクリ。

 そして、水蓮は怪訝そうに目を細めた。

 三人の視線の先には一人の小柄な男の姿があった。

 茶色の髪を揺らし、足を組むその男の姿に、


「ライ!」


と、冬華が声を上げた。

 その声に、ライは爽やかに笑い右手を軽く上げる。


「よっ。久しぶりだな。てか、まさか戻ってくるとは思ってなかったぞ」


 ニシシと笑うライに、クリスは疑念を抱く。


「お前、本当にライか?」

「うぉい! 俺を信じてないのか!」


 席を立ち、そう声を上げるライに対し、クリスは慎重に答える。


「そうだな。以前、ここでは騙されているからな。それに、アオはどうした?」

「わおっ! 俺ってそんなに信用ねぇのか!」


 おどけて見せるライだが、クリスは鋭い眼差しで睨む。

 流石にここは真剣に行かなければならないとライもすぐに空気を読み、息を吐くと肩を竦める。


「現在、連盟は人手が足りない。アオはバレリアに、イエロとレオナ、レッドの三人がクレリンス。で、俺が、フィンクに派遣されたわけだ」

「へぇー……、ライ一人なんだ?」


 ジトーッとした眼差しを向ける冬華に、ライは目を細める。


「しょうがねぇだろ! リーダーやレオナが手を離せないんだから!」


 そう説明し、ライは肩を竦めた。

 話の辻褄は合っているし、納得も出来た。だが、以前も騙されていると言う経験から、クリスだけは相変わらず警戒心を強めていた。

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