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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
242/300

第242話 避けられぬ戦い

 クリスとレッドの二人は廊下を駆けていた。

 冬華を肩に担ぐレッドは時折後ろを振り返り、追っ手が無い事を確認する。

 そんなレッドに、烈火を消したクリスは、乱れた白銀の髪を揺らし眉を顰めた。

 何故、レッドがここに居るのか、天童と剛鎧の事はどうするつもりなのか疑念は多々ある。

 不満そうなクリスに、レッドは息継ぎをしながら告げる。


「安心してください。天童と剛鎧は別働隊が救出に動いてます」

「別働隊? 他にも誰かがいるのか?」

「えぇ。流石に、僕一人で乗り込むような無謀な事はしませんよ」


 苦笑し、レッドはクリスへと目を向けた。

 確かに、レッドの言う通り、一人でこんな場所に乗り込むのは無謀だ。

 だが、彼ならやりえない。何故なら、勇ましい者で勇者と言う異名を持っているからだ。

 その名の通り、彼が勇ましい者ならば、どれだけ危ない場所にも突っ込んで行きそうだった。

 暫く廊下を駆けた二人は、裏口へと出る。

 丁度、冬華とクリスが、屋敷に侵入した出入口だった。

 戸を蹴破り外へと飛び出すと、熱風が二人の頬を撫でる。

 一瞬、何事かと思うが、瞬間二人の視界へと飛び込む。

 小柄な少年、怪童ゼットの前に平伏す龍馬と秋雨の二人の姿が。

 額から血を流す龍馬の横には焔狐が突き立てられ、炎が刃を逆巻いていた。

 それが熱風を生み出しクリスとレッドを撫でたのだ。

 木の幹に持たれ根元に座り込むように蹲る秋雨。その手に握られた長刀・水月は、鉤爪状の切っ先が地面に突き刺さり、真っ直ぐに線を描いてた。

 何があったのか、クリスとレッドには分からない。

 だが、抉れた地面には黒焦げた跡と濁った水溜りがいくつかある事から、龍馬と秋雨がこの怪童・ゼットを戦ったという事だけは分かる。

 その結果が、この状況だった。

 僅かに頬から血を流す程度のゼットは、灰色の髪を返り血で赤く染め、幼さの残るその顔には清々しい笑みを浮かぶ。


「いやー。結構、楽しめたよ。僕に二本目の槍を使わせたんだから。うん。上出来上出来」


 傍らに槍を突き刺し佇むゼットは平伏す龍馬と秋雨を称える様に拍手をする。

 と、同時に、屋敷から飛び出してきたクリスとレッドの方へと体を向けた。


「んーっ……まだ、ちょっと暴れたりないかな?」


 そう言うと、ゼットは頭の後ろで両手を組み、ニシシと笑った。

 寒気を感じるクリスとレッド。まさか、ここにこの少年が居るとは、レッドも予想はしていなかった。


「最悪ですね……」


 ボソリと呟くレッドの額から一筋の汗が流れる。

 険しい表情のクリスは、瞬間的にその手に烈火を呼び出していた。

 恐らく、ゼットとの戦いは避けられない。そう感じ取ったのだ。

 静かに冬華を肩から下すレッドは、深く息を吐き出すと、瞼を閉じ胸へと右手を当てる。

 走った事により上がった心拍数を落ち着けていた。

 クリスとレッドを見据えるゼットは首を傾げる。


「アレ? そう言えばさぁ、あの着ぐるみいないの? 僕的にはあの着ぐるみと戦いたかったんだけどなぁ?」


 不満げな声を上げるゼットに対し、クリスとレッドは眉間にシワを寄せる。

 分かってはいた事だが、二人の事など最初から眼中にはないのだ。

 大きなため息と共に、ガックリと肩を落とすゼットは、頭の後ろで組んだ手を離し、うなだらせ揺らす。


「はぁ……。まぁ、いっか。誰が相手でも」


 まだ少々不満そうだが、ゆっくりと背筋を伸ばし、ゼットはふっと息を吐いた。

 それから、傍らに突き立てておいた槍の一本を右手で握る。


「彼らは、僕に二本目の槍を使わせたんだけど……キミ達は、どうなのかな?」


 無邪気な笑顔を浮かべたゼットは、自らの背丈を悠に越える槍を片手で軽々と抜くと、長い柄をしならせ、矛先で地面を叩いた。

 衝撃が土を巻き上げ、地面には振動が広がる。

 地面を叩いた槍は弾むようにポンと矛先を上げ、ゼットはそれをピタリと止めた。


「どいつからやる? 二人いっぺんでもいいけど?」


 微笑するゼットに、沈黙を守るクリスとレッド。

 正直、どうすればいいのか、迷っていた。

 ここで、ゼットとやりあうのは得策ではないのは分かっている。

 だが、どうやっても逃げる事は不可能だろう。

 その為、レッドは静かに一歩踏み出すと、ゼットへと鋭い眼差しを向ける。


「君が相手になってくれるのかな? でも、武器はないの?」


 ゼットは訝しげに首を傾げる。

 一目見ただけで、レッドが肉弾戦をするタイプではないと気付いたのだ。

 ゼットの言葉に、レッドは目を細めると、ゆっくりと歩みを進め、


「申し訳ないのですが、僕は現在、武器を失っていまして、よければ、彼らの剣をお借りしたいのですが?」


 丁寧な口調でレッドはそう言い、龍馬の使っていた焔狐と、秋雨が使っていた水月を指差した。

 レッドの申し入れに、腰に左手を当てるゼットは右足へと重心を移動し、目を細め鼻から息を吐き出す。


「いいよー。僕はさぁー楽しみたいだけだしー。でも、君はいいの? 不慣れな武器使って、言い訳されんの嫌なんだよねー」


 不満そうに唇を尖らせそう言うゼットに、レッドは苦笑すると足早に龍馬の傍へと駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 小声で龍馬に呼びかける。

 返答はない。

 だが、肩が上下している事から意識を失っているだけで、死んではいなかった。

 安心するレッドは、その傍らに突き刺さった焔狐を抜くと、振り返り、


「クリス! コレはあなたが使ってください!」


と、焔狐を放った。

 刃をむき出しにしたまま放られた焔狐は回転し、やがてクリスの足元へと切っ先から落ち、地面に突き刺さる。

 レッドが狙って投げたわけではなく、その焔狐自身の意志でそうしたのだ。

 足元に突き刺さる焔狐の柄を左手で握り締めたクリスは深々と息を吐く。

 朱色の刃は、まるでクリスに扱われるのを待っていたと言わんばかりに発光すると、魔力を注いでいないにも関わらず、その刃は炎に包まれた。

 その現象に驚くクリスは、思わず柄から手を離す。

 一方、ゼットも興味を持ったのか、その目を輝かせていた。


「すっげぇ! 武器が主を選ぶってよく言うけど、信じてなかったんだよなぁー。でも、これって、まさにその証明だよな! その剣、さっきの奴が使ってた時も凄い力を放ってたけど、あんたが触れた瞬間に更に力が爆発したぞ!」


 やや興奮気味のゼットを他所に、レッドは秋雨の下へと急いだ。

 龍馬同様に声を掛けても返答は無く、意識は失われていた。

 その為、レッドはその手に握られた透き通るような蒼い刃の剣・水月を手に取った。


「少しの間。借りるよ。僕には恐らく使いこなせないだろうけど……」


 レッドはそう告げ、水月を持ったままゆっくりと立ち上がった。

 レッドの言う通り、水月はクリスが焔狐に触れた時の様な反応は示さない。

 それでも、レッドの握る水月の柄からは強い波動が感じ取れた。

 水月を構えるレッドは、その刃へと精神力を注いだ。

 遅れて、焔狐の現象に驚いていたクリスも、もう一度焔狐の柄を握り締め、その刃を地面から抜いた。

 その瞬間に溢れる炎が天へと登る火柱と成り、周囲一帯へと激しい熱風を広げた。

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