表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
240/300

第240話 危険人物

 イエロは漆黒のローブをまとう男と対峙する。

 金と銀の髪を揺らすイエロは、深々と息を吐き出すと、褐色の肌をした両腕へと魔力を込めた。

 すると、褐色の腕に鱗模様が浮かび上がる。

 イエロのその様子に、漆黒のローブをまとう男は、右手に銀色の銃を取り出した。

 赤い瞳がジッとイエロを見据え、静寂が周囲を支配する。

 潮風だけがその場を吹き抜け、イエロの衣服と漆黒のローブだけを揺らした。

 一切魔力の波動すら感じさせない漆黒のローブの男に、イエロは違和感を感じていた。

 しかし、すぐにその現象の秘密を悟る。


「どうやら、そのローブが魔力を隠しているようなのですよ」

「…………そうだな」


 イエロの言葉を男は肯定する。

 男のまとう漆黒のローブは、自らの魔力を包み隠すと言う代物だった。

 その為、彼がどれ程の魔力を持つのかは分からない。

 ただ、イエロは彼の正体に心当たりがあった為、あらかたどれ程の魔力を所有しているのかは予想がついた。

 空気はピリピリと張詰め、とても息苦しい。

 その中で、イエロは眉間にシワを寄せると、拳を握る。


「一体、何の目的で、こんな事をしているのですか?」


 イエロの問いに、フードの奥に見えていた赤い瞳がスッと消えた。

 瞼を閉じたのだ。

 それと当時に、男の口から深い吐息が漏れ、ゆっくりとその頭が左右に振られる。


「聞いてなんになる? 貴様は、ここで死ぬんだ。知る必要は無い」


 瞼が開かれ、鋭い眼がイエロを睨んだ。

 殺気が周囲を包み込み、イエロは息を呑む。

 その瞬間、男は右腕を挙げ、大きく開いた袖口から銀色の銃身を出し、銃口をイエロへと向ける。

 銃声が轟くと、イエロは瞬時に右へと飛ぶ。だが、銃弾が放たれた様子はなかった。

 銃口からは確かに硝煙が舞っている。

 故に、空砲かと、イエロは思うが直後に悟る。


「それが……あの遅れる弾丸なのですね」


 眉間にシワを寄せるイエロは、表情を険しくした。

 何度かその様子は見た事があったが、実際に目の当たりにするとその現象は不思議なものだった。

 警戒心を強めるイエロは、周囲を見回しながらもしっかりと漆黒のローブをまとう男を見据える。

 いつ、弾丸が放たれるか分からないと言う恐怖は、相当のものだった。

 深く息を吐き出し、落ち着くイエロは両足に魔力を込める。

 長引かせるのは危険だとイエロは判断し、速攻でこの戦いを終わらせる事を決断したのだ。


「全力を持って、あなたを排除するのですよ!」


 両足に集めた魔力が渦を巻き、更に魔力を圧縮する。


(属性強化! 風!)


 両足に集めた魔力が風属性へと変化され、それが土煙を巻き上げる。

 獣魔族の足に風属性を纏わせる事で、更なる速度アップ。同時に、イエロは全身へと魔力を広げた。

 忙しなく変化するイエロの魔力に、漆黒のローブをまとう男は怪訝そうに眉を顰める。


(属性強化! 火!)


 体内に流れる血液へと火属性の魔力を注ぐ。

 それにより、血が沸騰し、血流が加速する。体は高熱を帯び、全身から湯気が上がる。

 これを、イエロが使用するのは初めてだった。

 その為、その高熱に、思わず足元がふらついた。

 ここまで、体を酷使するものだとは思っていなかったのだ。

 苦しげな表情を浮かべるイエロは、熱気の帯びた息を口から吐き、更に魔力を全身に広げる。


(使わせてもらうのですよ……アオアオ……)


 僅かに呼吸を乱しながら、イエロは背筋を伸ばすと、瞼を閉じる。


(――雷火!)


 強く念じると、全身に纏った魔力は青雷へと変わる。

 迸る青雷は、イエロの肌を裂き鮮血を噴かせる。

 激痛に表情を歪めるイエロだが、奥歯を噛み締め膝をゆっくりと曲げた。

 イエロの行動に、漆黒のローブをまとう男は、薄らと開かれた唇の合間から息を吐くと、銃口を向ける。


「龍魔族の強固な皮膚に、獣魔族の強靭な肉体。魔人族の膨大な魔力と人間の持つ不屈の精神力。オマケに魔族が決して持つ事の出来ない聖力まで持った化物……。人体実験とは恐ろしいものだな」


 静かに男はそう言うと、撃鉄を下した。

 カチャリと鉄音が聞こえ、男の指はトリガーへと掛かる。

 イエロは男の一つ一つの些細な行動にすら見逃さぬように、全神経を研ぎ澄ましていた。


「それを可能にしているのが、星屑の欠片と言うわけか……」

「それはどうなのですかね!」


 そう言い、イエロは地を蹴った。

 一瞬にして、男の視界から姿を消し、青白い閃光だけが残される。

 男は瞳をゆっくりと動かす。


「消えたわけじゃないのだろ? ならば――」


 男は瞼を閉じる。

 気配を探っていた。

 幾ら速く動けたとしても、その気配を消す事は出来ないのだ。

 そして、男はゆっくりと振り返り、銃の引き金を引いた。

 静寂を裂く銃声が轟き、鮮血が舞う。

 銃弾はイエロの頬を掠めていた。

 それでも、イエロは止まる事無く、右足を踏み込むと右拳を握りこむ。


「獣――ごふっ!」


 イエロの拳が魔力を帯び、輝き出した瞬間だった。

 突如、イエロは血を吐き、纏っていた魔力が全て消滅する。

 そんなイエロの正面に佇む漆黒のローブをまとう男は、不敵に笑むと、銃をゆっくりと下す。


「タイミングはバッチリだ」


 静かにそう言う男の声に、イエロの背後でもう一つの静かな男の声が響く。


「ふん……高々、女一人を相手に、三人がかりとは……」


 その声で、イエロは初めて気付く。

 この場にもう一人いたのだと。

 そして、ようやく理解する。

 自分の腹部から突き出た刃の存在を。


「ごほっ……」


 もう一度血を吐いたイエロは、口の周りを血で染め、うな垂れる。銀と金の長い髪はイエロの顔を隠すようにゆらゆらと垂れ下がった。

 奥歯を噛み締める。

 この漆黒のローブの男に意識を集中しすぎた。いやそれだけではない。恐らく、焦っていたのだ。

 だからこそ、こんな事になってしまったのだ。


「コイツを、女とは思うな」


 漆黒のローブの男は銃をしまい、ゆっくりと歩みを進める。

 その動きに合わせた様にイエロの体から刃は抜かれ、血が衣服へとあふれ出す。

 通常、この程度の傷なら、イエロの持つ聖力で容易に回復するはずだが、その傷口は塞がらず、血はとめどなく流れる。

 傷口を左手で押さえるイエロの膝が地へと落ちた。


「どう見ても、俺にはただの女にしか見えんがな」


 イエロの背後でそう言うのは和服の男だった。その男は、刀を鞘へと納めると、結った長い黒髪を揺らしゲタを鳴らした。

 そんな和服の男に対し、漆黒のローブを纏った男は鼻で笑うと肩を竦める。


「お前は分かっていない。コイツがどれ程の危険人物なのかを」

「分からんな。何故、貴様がそれほどまで危険視するのかが」


 和服の男は肩を竦めると、頭を左右に振った。

 すると、漆黒のローブの男は、倒れて動かない真紅のローブを纏った魔術師へと目を向け、


「あれを見ろ。アイツは、あれでも魔術師として高位のレベルだ。それが、手も足も出なかった」

「奴が油断していただけだ。過去にも、同じように油断して何度も負傷している」

「油断……か。そんな奴が、最初から大技で勝負を決めに行くと思うか? 奴は、最初から本気でコイツを消すつもりだった」

「…………ふん。だとしたら、奴が弱かったに過ぎん。もう、二度とこんな姑息なマネをさせるな」


 和服の男はそう言うと、背を向け歩き出した。

 その後姿を見据える漆黒のローブの男は、肩を竦め、静かにイエロへと目を落とした。


(申し訳なのですよ……アオアオ……。私は、もう……)


 目を伏せたイエロへと、漆黒のローブをまとう男はその手を伸ばした。

 そして、次の瞬間、鮮血と共にイエロの悲痛の叫びがその場に広がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ