表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
239/300

第239話 目的

 鈍い打撃音が響き、龍馬は弾き飛ばされる。

 その背を巨木の幹へとぶつけ、血を吐き出した龍馬は、前のめりに倒れこんだ。

 ゼットの強さは圧倒的だった。

 龍馬と秋雨の二人がかりだが、顔色一つ変えず、ただ槍を振るっていた。

 怪童と呼ばれるだけの事はあり、その力は二人を軽く凌駕する。

 彼の持つ槍は相当の重量があるはずなのに、それを片手で軽々と操っているのだから、当然だろう。

 刀を突き立て、ゆっくりと立ち上がる龍馬は、口角から溢れた血を拭い、灰色の長い髪を風に揺らす。

 その反対側には、巨木の根元に座り込む形でうな垂れる秋雨の姿があり、意識が無いのかピクリとも動かない。


「くっそ……化物が……」


 龍馬はそう呟き、深々と息を吐き出し刀を地面から抜いた。

 龍馬の姿にゼットは幼さの残る顔に穏やかな笑みを浮かべる。


「へぇー。まだ立つのか……凄いなぁー」


 関心するゼットは、薄紅色の短髪を右手で撫でると、脇に立てていた槍を握り締めた。

 ややタレ目がちな目を向けるゼットは、右手で槍を器用に回すと、それを腰の位置で安定させる。


「じゃあ、そろそろ終わらそうか」

「やれるもんなら……やってみろよ!」


 龍馬は強気にそう言い、地を蹴る。だが、スピードは出ない。

 ゼットの一撃一撃が膝にきていたのだ。


「紅蓮一刀!」

「その技は見飽きたよー」


 龍馬が長刀を振り上げると同時に、ゼットはそう告げ両足を開くと重心を落とし槍を引く。


「第一陣! 烈破!」


 ゼットはそう叫ぶと槍を突き出す。

 精神力を纏い強化されたその槍は一瞬で音速を超え、衝撃は大気を裂く。


「がはっ!」


 正面からそれを受けた龍馬は、血を吐き、激しく後方へと転がる。

 生み出された衝撃は体に外傷を与える事無く、龍馬の体内へと大きなダメージを与えた。

 うつ伏せに倒れ、胸を押さえる龍馬は、何が起こったのか理解出来ていない。

 まるで見えない壁が凄まじい勢いで自分に衝突してきたそんな感覚だった。


「あぁ……ああ……」


 呻き声を上げる龍馬はゆっくりと顔を上げる。

 その視線の先に映るのは、槍を突き出したままの形で微動だにしないゼットの姿だった。

 その形は美しく、ゼットの強さを体現しているようだった。

 薄らと開かれた唇から深々と息が吐き出され、ゼットは槍を下ろし足をそろえる。

 そして、軽くお辞儀をした後に肩の力を抜いた。


「さぁ、これで終わりかな」


 二本の槍を地面に突き立て、ゼットは周囲を見回す。

 龍馬も秋雨も虫の息だった。


「悪いとは思ってるよ。キミ達に恨みは何にも無いんだから」


 ゼットはそう言い無邪気な笑顔で肩を竦める。

 そんなゼットの笑みに、奥歯を噛む龍馬は長刀を地面に突き刺し、体をゆっくりと起き上がらせた。

 龍馬の行動に聊か驚くゼットだが、更に、背後で聞こえた物音に振り返り驚愕する。


「わわっ! マジで! 二人共まだ動けるの!」


 驚き目を丸くするゼットの視線の先には秋雨が佇んでいた。

 額から血を流しながらも、呼吸を乱しながらも、立ち上がる龍馬と秋雨に、ゼットは無邪気に笑むと、


「いいねぇーいいねぇー。いいよ。お前達。僕も楽しくなって来たよ!」

「俺らは全然楽しくねぇけどな……」

「全くですね……」


 ゼットの言葉に、龍馬と秋雨は苦笑する。

 それから、二人は共にその手を輝かせる。


「これは……使いたくなかったんですが……」


 秋雨はそう言い、その手に透き通るような蒼い刃の剣、水月を呼び出した。刃は長く切っ先は鉤爪の様に曲がっている。

 水月を両手で握る秋雨は、鋭い眼差しをゼットへと向けた。


「ああ……俺も、コイツを丁度クリスが預かっている。使うつもりはなかったんだけどなぁ」


 小さく肩を上下に揺らす龍馬の右手に、朱色の刃の剣、焔狐が呼び出される。刃の背には薄らと溝が見える片刃の剣を、龍馬は静かに構え呼吸を整える。

 魔剣の一部である火の剣、焔狐と水の剣、水月の二つに、ゼットは目の色を変えた。


「へぇー……いい武器だ。凄い魔力の波動を感じるよ」


 そう言い、ゼットは構える。今まで以上に真剣な表情で。



 リックバード島から少々離れた無人島。

 その上空では、激しい魔術のぶつかりが起きていた。

 傍から見れば、それは美しい花火の様に散る。

 だが、その実は、強力な魔力のぶつかりあいだった。


「くっそ!」


 額から汗を流す魔術師は、深紅のローブから両手を出し、その手の平へと魔力を集める。

 そんな魔術師に、イエロは銀と金の髪を揺らし、深々と息を吐き出す。


「何度やっても同じ事の繰り返しなのですよ?」


 イエロはそう言い、右手へと魔力を込める。

 褐色の肌をした右腕に、一瞬にして鱗模様が浮かび上がった。

 そして、それを腰の位置へと構え、魔力を圧縮する。


「フレイム!」

「龍爪!」


 魔術師の両手から放たれる炎の渦。

 それに対し、イエロは腰の位置に構えた拳を突き上げる様に振り抜いた。

 疾風が駆け、炎の渦は三つに裂け、消滅し、魔術師の体から鮮血が噴出す。


「がはっ!」


 血を吐く魔術師の間合いへと、イエロは一瞬にして入る。

 左手の甲を下にし腰の位置に持っていったイエロは、指を曲げ手の平を前に押し出すように構える。

 そして、その手の平に魔力を集め、水の膜を張った。


「水爆!」


 イエロはそう声を上げ、左手の水の膜を魔術師の腹部へと打ち込む様に突き出す。

 精神力により、身体能力を強化されているイエロの突き出した左手は、一瞬の後に魔術師の腹部へと突き刺さる。


「ぐふっ!」


 鮮血が口から溢れるのと同時に、魔術師の腹部へと打ち込んだ左手へとイエロは力を込める。

 すると、魔術師の体内の水分が気泡を噴き破裂する。


「がふっ!」


 激しい爆発と共に、鮮血がその体から噴出し、魔術師は頭から地上へと落ちた。

 それを見下ろすイエロは、深々と息を吐き出すと、翼を羽ばたかせ、ゆっくりと地上に降りた。

 地上へと落ちた魔術師は、僅かな衝撃と土煙を巻き上げ、動かない。

 一方、静かに地上へと降り立ったイエロは、未だ鱗模様の浮き上がった右手で髪を掻き揚げ、目を細める。


「ちょっとやり過ぎたのですよ……」


 完全に地形の変わってしまった無人島を見回し、イエロは左手を腰にあて鼻から息を吐く。

 森は無くなり荒野と化したその場所は、もう無人島と言うにはお粗末な状態だった。

 困った様に右手で頭を掻くイエロは、その手を頬へと当てると、頭を右へと傾ける。

 しかし、魔術師への警戒は怠ってはおらず、常に右目で魔力を察知していた。


「…………どうやら、目的は、私の星屑の欠片みたいですね」


 イエロがそう言うと同時だった。

 空間が裂け、そこから漆黒のローブを纏った一人の男が姿を見せた。

 深々と被ったフードの合間から覗く黒髪が、吹き抜ける潮風で僅かに揺れる。

 足元まで覆う漆黒のローブ姿の男に、イエロは呆れた様な眼差しを向けると、目を細めた。


「あなたの正体はすでに分かっているのですよ。その目的も」

「なら、話が早いな。その星屑の欠片を渡せ」


 イエロの言葉に、漆黒のローブをまとう男は、低くとても刺々しい声を発し、大きく開いた袖口から出した銀色の銃を向けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ