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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
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第237話 裏切りの秋雨

 身を潜める冬華、クリス、龍馬の三人。

 兵士達は未だに辺りの警戒を怠らない。

 迂闊にその場を動くが出来ない三人は、その場は声を殺し作戦を話し合っていた。


「これから、どうする?」

「まずは、天童さんと剛鎧さんを助け出す……」

「どうやって?」

「どうにかしてだ」


 余りにも考えなしの龍馬の発言に、クリスは呆れた様に右手で頭を抱えた。

 流石にここまで無策だとは思わなかったのだ。

 呆れ、肩を落とすクリスに、龍馬は灰色の髪を揺らし、不満そうに眉間にシワを寄せる。


「んだよ! その反応は!」


 憮然とした表情でそう言う龍馬に対し、クリスは額に青筋を浮かべると、白銀の髪を軽く右手で撫で、頭を振った。


「お前こそ、死にたいのか?」

「なっ!」

「前々から考えなしと思っていたが……」


 クリスは呆れた様な眼差しを龍馬へと向ける。

 クリスの眼差しに、不満げな表情の龍馬は腕を組むと視線をそらす。


「悪かったな。考えなしで……でも、主君を救いたいと思えば、考えるよりも体が動いてしまうもんだろ」

「二人を救いたいなら、まずは考えろ。相手の戦力、構成員、警備体制。色々考え、仲間を集め、速やかに動く。出なきゃ、殺されるぞ! 救いたい人も、お前も!」


 厳しい口調でそう言うクリスは、呆れた様にもう一度深く息を吐き出した。

 そんな折だった。冬華は不意に口を開く。


「他に、仲間はいないの? 秋雨さんとか、葉泉さんとか、雪夜さんとか?」


 冬華の言葉に、龍馬は眉間にシワを寄せる。


「葉泉と雪夜は現在、別の島に行ってる」

「別の島に……」

「ああ。仲間集めとか、説得とかな。色々あんだよ」


 龍馬が肩を竦めると、冬華は真っ直ぐな眼差しを向け、


「秋雨さんは?」


と、尋ねた。

 その言葉に龍馬の右の眉がピクリと動く。

 そして、拳を握り奥歯を噛み締め、


「アイツは……裏切った……」


と、低く怒りを押し殺した声で答えた。

 龍馬の言葉に、クリスは疑念を抱く。

 だが、龍馬に問い掛ける前に、その声は響く。


「そんな所で何をしてるんですか? 龍馬」


 その声の方へと顔を向けると、そこには秋雨が立っていた。

 腰には刀と脇差しを二本ずつぶら下げ、落ち着いた面持ちを向け、黒髪を風に揺らしていた。

 揺れる黒髪の合間から耳の付け根に生えた角が見え隠れする。

 綺麗に整った顔立ちの秋雨は、穏やかな表情で三人を見据える。

 赤い瞳を向ける秋雨に、龍馬は鼻筋にシワを寄せ、声を上げる。


「テメェ! よく、俺の前に顔を出せたな!」


 龍馬は瞬時に立ち上がり、刀を抜く。

 当然、立ち上がれば、辺りを警戒していた兵に気付かれ、


「貴様! 龍馬! 何故、ここに!」

「反乱軍がいるぞ! 捕らえろ!」


と、声が上がり、多くの兵が周辺には集まった。

 だが、龍馬はそんな兵士などに目を向ける事無く、秋雨の顔を睨みつけていた。

 そんな龍馬に秋雨は深く息を吐き出す。


「もう少し、考えて行動したらどうですか?」

「うるせぇ! 俺はテメェをぶっ殺す!」


 龍馬はそう言い、走り出す。

 だが、そんな龍馬の道を塞ぐように、数人の兵が飛び出す。


「どけぇぇぇっ!」


 龍馬は怒声を轟かせ、兵をなぎ払い、秋雨へと迫る。

 そんな龍馬に、秋雨は呆れ顔で刀を抜く。

 そして、振り抜かれた龍馬の刀を受け止めた。

 金属音が響き、火花が散る。広がった衝撃は龍馬の灰色の髪と、秋雨の黒髪を激しく揺らした。

 二人の激しいぶつかり合いに、冬華とクリスは息を潜める。

 と、同時に考える。

 この騒動に紛れて屋敷内に侵入できれば、天童と剛鎧の二人を救出できると。

 その為、冬華とクリスは、音をたてぬように茂みに身を隠し、ゆっくりと移動する。


「くっそがぁぁぁぁっ!」


 龍馬の声が轟き、衝撃が木々を揺らす。

 力強い龍馬の一撃一撃を、秋雨は軽く刀で受け流していた。

 剛の龍馬に、柔の秋雨。対照的な二人の戦法では、やはり秋雨の方に多少なりに分があるようだった。

 二人の激しい打ち合いに、流石の兵達も下手に動く事が出来ない。

 下手に手を出すと、流れが大きく傾いてしまうかもしれないと考えたのだ。

 兵達が二人の戦いに目を奪われている隙に、屋敷へと侵入した冬華とクリスは、和風造りの屋敷内を駆ける。


「冬華! これから、どうしますか?」

「とりあえず、秋雨さんが龍馬とワザと騒動を起こしている間に、天童さんと剛鎧さんの二人を助け出さないと……」

「そうですね……」


 そうクリスは答え、眉間にシワを寄せる。

 だが、広いこの屋敷でどうやって、天童と剛鎧を探すべきなのか、と考えていた。

 そんな時だった。

 木の床が軋み二人の前に一人の男が現れる。

 隆々とした二の腕に刺青を彫り込んだ褐色の肌の男だった。

 褐色の肌には映える白髪を揺らすその男は、引き締まった落ち着いた顔立ちで、真っ直ぐに冬華とクリスを見据える。

 風貌はとても厳つく、二人は警戒から一歩下がった。


「まさか、侵入者が英雄殿とは……」

「天童さんと剛鎧さんは何処!」


 冬華がそう声を上げると、男はふっと息を吐き、手に持った棍棒を構えた。


「残念ですよ。英雄殿と戦う事になるとは……」

「ふざけないで! 私は、この目で見た。幼い子供を切り殺す兵の姿を! そんな事をさせるこんなギルドを、放っておくなんて出来ない!」


 冬華は強い眼差しでそう言い、その手に槍を再び召喚する。

 完全に戦闘態勢に入る冬華に、クリスは息を吐き出し口を開く。


「冬華。ここは私に任せてもらえませんか?」

「えっ? で、でも……」


 クリスの申し出に、冬華は戸惑う。

 そして、表情を険しくする。


「自分は、二人掛りでも構わないが?」


 男のその言葉にクリスは眉間にシワを寄せる。

 同じく、冬華も不快そうに眉を潜めた。

 二人の眼差しに、男は僅かに目を細め、腰を落とす。


「さぁ、掛かってくるがいい」


 男の声に、クリスはその手に烈火を出し構えると、冬華へと叫ぶ。


「冬華! 行ってください! 恐らく、天童と剛鎧は投獄されているはずです!」

「自分が、行かせると思うのか?」

「当たり前だ!」


 クリスはそう叫び、床を駆ける。

 そんなクリスへと、男は棍棒を突き出す。

 鋭い突きだが、クリスはそれをかわし、烈火に精神力を注ぐ。


「紅蓮一刀――」

「ッ!」


 男はクリスの声に瞬時に後方へと跳ぶ。

 その動きは紅蓮流を知っている者の動きだった。


「悪いが、お前と接近戦をするつもりはない!」


 距離を取った男は、すぐに棍棒を突き出し、振り上げたクリスの剣の柄を後方へと押し出した。


「くっ!」


 バランスを崩すクリスは、後方へとよろけるがすぐに体勢を戻す。

 二人の間に距離が開き、クリスは烈火を下段に構えた。


「紅蓮流の破壊力は分かっている。だが、近付かなければその力も無力」

「くっ……」


 険しい表情を浮かべるクリスの背後で、冷気が漂う。


「なら、これならどう?」


 静かな冷めた声が響き、同時にクリスの横を冬華が駆ける。


「氷月花!」


 冷気を纏った槍が、一瞬にして男へと突き出される。

 鋭く尖った刃が男の腹部へと向かい一直線に大気を貫く。

 空気中の水分を凍らせ白い蒸気を噴かせるその槍に、男は瞬間的に危険を感じる。


(これは――)


 一瞬の判断だ。

 男はまず右足を退き、左後ろへと上体をよじる。

 そして、持っていた棍棒でその槍を右へと叩いた。

 軌道をずらしたのだ。


「くっ!」


 声を漏らす冬華はそのままの勢いで、男の横をすり抜け、体を反転させ背後を取った。


「今のは、危なかった……。流石、英雄殿だ」


 男はそう言い、凍り付いた棍棒を見据える。

 丁度、冬華の槍を叩いた場所が凍り付けにされていた。

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