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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
234/300

第234話 服を着るのは当たり前の事なのですよ

 飛行艇は近く島へと着陸していた。

 少々の問題が生じ、修理が必要となったのだ。

 その原因を作ったのはもちろん、クリスだ。

 先刻、冬華と行った手合わせにて外壁を破壊した。

 それにより、飛行艇は着陸せざる得なかったのだ。

 クルー達が飛行艇の修理を行っている中、冬華とクリスは島を散策していた。

 島は大して大きくは泣く、領主がいるわけでもない。

 小さな集落が一つと、後は砂浜に森林があるだけの高地が少ない島だった。

 津波などがあれば、恐らくひとたまりも無い小さな島だ。

 海岸付近を歩む冬華は、深く息を吐くと水平線の向こうに薄らと見える大陸を見据える。

 あれが、目的地であるリックバードだ。


「目と鼻の先ですね……」

「そうだね……でも、まだいけないね」


 冬華は苦笑し、肩口で黒髪を揺らす。

 そんな冬華に、クリスは微笑し、肩を竦める。


「そうですね」


 腰に手をあて、クリスは深く息を吐いた。


「これから、リックバードに行って、どうするの?」


 冬華は不意にそう口にした。

 前々から思っていた疑問だった。

 その疑問に、クリスは腕を組み眉間にシワを寄せる。


「そうですね……まずは、行ってみないと状況が分かりませんから……」

「そっか……。でも、今現在は、別のギルドの統治下におかれてるんだよね?」


 冬華は思い出したようにそう言った。

 そう。

 現在、クレリンスは連盟非加盟ギルド。ホワイトスネークの統治下に置かれている。

 資金不足である為、仕方なくそうなったわけだが、それにより、八会団は解散し、人間と魔族の間には深い溝が生まれた。

 実質、八会団に所属していた三人の魔族は、次なる戦の為に戦力を増強しており、他の島もすでに戦闘へ向けて動き出していた。


「大丈夫かな? 天童さんや剛鎧さんは」


 不安そうに冬華がそう口にすると、クリスは鼻で笑う。


「大丈夫ですよ。あの二人は。正直、心配するだけ無駄な気がしますね」

「そ、そうかな?」


 冬華がそう言うと、クリスは「えぇ」と小さく頷いた。

 それだけ、天童、剛鎧の二人の事は実力者だと言う事だった。

 二人の言葉が途切れた時、背後で薄らと青白い光が溢れる。

 その光に、冬華とクリスは即座に反応し、振り返った。

 すると、そこにはまん丸の大きな白い塊が転がっていた。

 一瞬、目を疑う二人だが、すぐにそれがなんなのかを理解する。

 そして、怪訝そうに目を細めた。


「な、何……してるんだ。イエロ……」


 クリスがそう呟くと、まん丸の大きな白い塊はプルプルと震え、ピョンと跳ねながら振り返った。


「正解なのですよー。私、なのです! クリスちゃん」


 両手――いや、両翼をパタパタと上下に振り、くり貫かれた着ぐるみの穴から顔を出し、満面の笑みを見せる。

 当たり前の様に着ぐるみを着たイエロの姿に、冬華とクリスは、呆れた様な眼差しを向ける。

 二人の眼差しに、イエロは無邪気な笑みを浮かべた。

 そして、不思議そうに尋ねる。


「なんなのですか? 私の顔に何かついてるのですか?」


 小首を傾げるイエロに、冬華は苦笑する。


「う、ううん。何でも無いけど……なんで、着ぐるみ着てるの?」


 冬華の疑問に、良くぞ聞いてくれたとイエロは胸を張り、口に付けた黄色いクチバシをパクッと開ける。


「これは、私の私服なのですよ! 連盟の鳥ですから、鳥の着ぐるみなのです!」

「着ぐるみを着る意味はあるのか?」


 クリスが疑念を抱いた目を向けると、イエロは左へと首を傾け、眉間にシワを寄せる。


「クリスちゃん」

「な、なんだ?」

「あなたは、服を着るのに、意味を求めるのですか?」


 さも当たり前の事だと言うように、イエロはそう言う。

 その言葉に、クリスは一層深いシワを眉間へと刻んだ。


「服を着るのは当たり前なのですよ。この着ぐるみは、私の私服。着るのは当たり前なのです」

「そ、そうか……そ、それは……すまない」


 ぎこちなく頭を下げるクリスに、イエロは両翼をパタパタと振り、


「いえいえ。気にしないで欲しいのです」


と、満面の笑みを向けた。

 イエロの発言にクリスはただただ苦笑する。

 そんなクリスに代わり、冬華は尋ねた。


「それで、どうして、イエロさんがここに?」


 冬華の至極当然の疑問に、イエロは胸の前で両翼をポンと叩く。


「でした、でした! そうでしたのですよー。お二人に朗報なのです!」

「朗報?」


 イエロの発言に、クリスは聊か険しい表情を浮かべた。

 何か嫌な予感がしたのだ。

 そんなクリスの表情にイエロは「えへへ」と笑う。


「実はですねー。ココから、リックバードまで、私がお送りしますのです!」


 胸を張るイエロに、クリスは眉をひそめる。


「何故、そんな事をする?」

「何故……ですか? それはですねー。今頃、西のバレリアでアオアオが同じように動いているからなのですよ」

「アオが?」


 冬華がそう不思議そうに尋ね、首を傾げる。

 すると、イエロは満面の笑みを浮かべ、


「はいっ。そうなのですよ。あっちはあっちで、強敵を相手にしなきゃいけないので、私が今回はこっち側へと回ったのですよ」


 イエロの発言に、クリスは表情を一層険しくする。


「どう言う事だ? 今、何が起きている?」

「そうですね。現在、大きな二つの波が動いているのです。その一つが、英雄。白雪冬華っちなのです」

「それじゃあ、もう一つは……」


 イエロの説明に、冬華は恐る恐る尋ねる。

 すると、イエロはニコッと微笑し、


「それは、冬華っちが捜し求めている――」

「冬華が捜し求める? そんな人が居るのですか?」


 イエロの発言を遮り、クリスが驚きの声を上げる。

 そのクリスの言葉に、イエロは困った眼差しを向け、冬華は目を細める。


「とりあえず、話はちゃんと最後まで聞いて欲しいのですよ」

「す、すみません……取り乱しました……」


 深く頭を下げ、クリスは謝罪した。

 その謝罪を受け、イエロは両翼をぱたつかせ、話を続行する。


「もう一つは、冬華っちと同じ、異世界から来た黒兎裕也。彼なのです」

「黒兎! い、イエロはその人を知ってるの!」


 冬華の言葉にイエロは僅かに驚き、背を仰け反らせる。


「し、知ってるのですよ? と、言うか冬華っちの方が親しい間柄だったと思うのですよ?」

「私は……記憶を失ってる。あの力を使用して……」

「あの力? 記憶を失ってる? 一体、何の話ですか?」


 冬華の言葉にクリスが不思議そうにそう尋ねる。

 すると、イエロは眉を顰める。


「そうなのですか。知ってしまったのですね。自分の使用していた力の秘密を……」


 イエロの言葉に、冬華は小さく頷いた。

 二人のやりとりに、クリスだけがわけが分からないと怪訝そうな顔をしていた。

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