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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
233/300

第233話 飛行艇での手合わせ

 飛行艇に乗り込み、三日余りが過ぎようとしていた。

 すでに飛行艇からは海に散る無数の島国であるクレリンス大陸が見え始めていた。

 あと一日もすれば、リックバード島に到着するだろう。

 飛行艇で座禅を組む冬華とクリス。イリーナ王国での戦いで、結局何も出来なかった事を悔やむ冬華は、念入りに自らの精神力を高めていた。

 その右手の人差し指には対魔のリングがはめられていた。

 瞼を閉じ精神集中をする二人の間には静寂だけが漂う。

 右目に眼帯をするクリスの両手に集められた精神力は薄らと光を放つと、それが一瞬で発火する。

 両手に紅蓮の炎をまとわせるクリスは、深く息を吐き出し、その火力を更に増加させる。

 そんな折、冬華も深々と息を吐き出し、両手に集めた精神力を胸の前で合わせた。

 すると、唐突に部屋の気温が急激下がり、冬華の口から漏れる息が真っ白に染まる。

 冬華の行ったのは右手に風、左手に水の属性を生み出し、それを合わせ冷気を生み出したのだ。

 冷気が生まれ、手の平に霜がかかり、冬華の体温がゆっくりとだが落ちていく。

 部屋全体を覆う程の冷気を、クリスの炎が温め、部屋はとても不思議な状態になっていた。

 二人の属性は対照的なのだ。

 冬華は基本的に冷気を扱う。それは、彼女が手にした武器、氷河石から生まれた槍が、冷気を扱う武器だからだ。

 故に、冬華は冷気を精確に扱えるようにしていた。


「はぁぁぁぁ……」


 深々と白い息を吐き出す冬華は、胸の前に集めた冷気の塊を合掌し潰した。

 冷気は一瞬にして弾け、周囲へと雪を降らせた。

 そして、クリスも一通り火力を上げると、その手の炎を消し去った。

 額から溢れていた汗は、炎が消えると冷やされた空気に触れ凍りつく。


「うっ……」


 部屋の気温の変化に、クリスは眩暈を起こす。今まで、クリスの周りだけは高熱で覆われていた為、部屋全体に広がった冬華の冷気に体が異常を起こしたのだ。

 よろめくクリスに気付いた冬華は駆け寄り、その体を支える。


「だ、大丈夫?」

「え、えぇ……気温の変化にちょっと眩暈を起こしただけですから……」


 クリスはそう言い苦笑すると、冬華は不安そうに目を細める。


「あのさ……無理して、二人でやらなくてもいいんじゃないかな? お互い別々の部屋で精神統一すれば、こんな事にならないよ?」


 冬華はそう進言する。

 そう。この飛行艇は操縦者と最低限のクルー以外はおらず、部屋も沢山空いている。

 故に、無理して二人で一緒の部屋で精神統一をする必要など無いのだ。

 しかし、クリスは弱々しく微笑する。


「いえ……大丈夫ですよ。それに、お互いの能力を知ってる方がいいでしょう?」

「そうだけど……クリスの体が心配だよ?」

「私は大丈夫です」


 クリスはゆっくりと立ち上がると、その手に紅蓮流に伝わる刀、烈火を呼び出した。

 クリスの行動に、冬華は不安そうに息を吐くと、背筋を伸ばしその手に槍を召喚する。

 距離を置き、二人は対峙する。


「いいですか? 一本勝負ですよ」

「うん。私も、慣れないと……」


 冬華はそう言い、槍を構える。だが、その手は、その足はまだ震えていた。

 鍛錬の為とは言え、やはり誰かと戦うと言うのは怖い。命を奪ってしまうかも知れないと言う気持ちがあった。

 そんな冬華の気持ちを知って、クリスが手合わせをする事にしたのだ。

 少しでも恐怖を拭えればいいと、願って。

 僅かにふら付きながら烈火を構えるクリスは、深く息を吐き出すと腰をやや落とす。


「行きますよ」

「う、うん!」


 クリスの言葉に、冬華はそう返答し、槍を引く。

 クリスが床を蹴ると、冬華も遅れて床を蹴る。二人の視線が交錯し、クリスが右足を踏み込み烈火を左から右へと払うように振り抜いた。


「ッ!」


 リーチ的に言えば、槍を使う冬華の方に分があるが、冬華は攻撃ではなく、防御へと槍を動かし、刃を柄で受け止めた。

 澄んだ音が響き、長い柄が僅かに震える。

 右から受けた衝撃で、冬華の体は左へと流れる。

 奥歯を噛み、表情を険しくする冬華は、左足へと力を込め、体を支えると槍の柄頭の方そ先にして、クリスへと振り抜いた。

 クリスはそれを、背を仰け反らせかわし、更に半歩下がった。


「くっ!」


 この一撃が刃を先にして振りぬいていれば、刃の分の長さがプラスされ、クリスも烈火で防がなければならなかっただろう。

 冬華の判断ミス――と、言うよりも、そこが冬華が戦いに対する恐怖心だった。


「どうしたんですか! その程度ですか!」


 クリスは挑発するようにそう口にすると、烈火の柄を両手で握り締め、腰に力を込める。

 クリスの全身から溢れる精神力に、冬華は危険を察知し、自らも精神力をまとう。

 すると、光鱗が自動的に発動し、冬華を守る様にその光の鱗を広げる。

 それを知っているからこそ、クリスはまとった精神力を烈火へと集めた。


「全力で行きますよ!」

「――ッ!」


 冬華が答える前に、烈火に集まった精神力が発火する。


「獄炎! 烈火一閃!」


 クリスが長く考えていた新たなる技、獄炎・烈火一閃が放たれる。

 これは、冬華が光鱗で守られている為、安心して技の実践練習が出来ると、クリスが考えたのだ。

 右足を踏み込み、腰を回転させ、烈火を振り抜く。

 紅蓮の炎が冬華を呑み込むか如く鋭い一閃となった。光鱗が受け止めたとは言え、その衝撃は部屋を激しく損傷させ、飛行艇の外壁の一部が弾け跳んだ。

 それにより、飛行艇は大きく傾き、警報が鳴り響く。

 壁の前に座り込む冬華の意識は無く、その口角からは血が溢れ出ていた。

 頭部を激しく壁にぶつけたのだろう。

 力なく、はがれた外壁へと流れ出る風に、冬華の体はゆっくりと流されていく。

 そこで、ようやく我に返ったクリスは、激しく乱れる白銀の髪を左手で押さえ、冬華へと目を向けた。


「と、冬華!」


 思わず声を上げるクリスは、冬華の下へと駆ける。

 新たな技の練習だった為、加減が出来なかった。


「だ、大丈夫ですか!」


 冬華の体を抱き上げ、その場を移動した。



「う、うぅっ……」


 冬華が目を覚ましたのは、夕刻の事だった。

 頭には包帯が巻かれ、ズキズキと頭は痛んでいた。

 何が起こったのか、ハッキリと冬華は覚えていない。

 ただ、意識を失う際に見たのは、自分を呑み込む炎の閃光だった。


「あぁ……頭……痛い……」


 体を起こした冬華は右手で頭を押さえる。

 外傷はない。光鱗がちゃんとその斬撃は受け止めたのだろう。

 だが、その破壊力に足が踏み止まる事が出来ず、壁に頭を打ちつけたのだ。

 肩を落とし、落ち込む冬華は深く息を吐き、自分の右手を見据える。

 やはり、まだ怖い。そう思い手が震える。

 唇を噛む冬華は、瞼を閉じ、拳を握った。


「このままじゃダメだ……クリスにも申し訳ないし……足手纏いにしかならないじゃない」


 そう冬華は呟いた。

 もっと、覚悟が必要なのだ。

 戦う恐怖を払拭する為の覚悟が。

 それを、分かっているからこそ、冬華は握った拳をただただ震わせていた。

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