表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
23/300

第23話 英雄失格?

 突然だった。集落が騒がしくなり、悲鳴が上がったのは。

 その悲鳴でセルフィーユは何かを感じ取ったのか、壁をすり抜け外へと飛び出し、冬華はまだ重い体を起き上がらせベッドから立ち上がり、窓から外を見る。

 燃え上がる家。

 襲い掛かる人間。

 逃げ惑う魔族。

 その光景が冬華には異様に見えた。そして、思う。これじゃあどっちが悪なのかと。まだ幼い子供が斬り付けられ、年老いた男が炎で焼かれる。畑は踏み荒らされ、地面が威力のある魔術で抉れた様に穴が開いていた。

 信じられなかった。人間がこんな事をしているなんて。まだ幼い子を――無抵抗な老人を――一体、何の為にこんな事を。そう思い冬華は強く拳を握る。これが、自分が守らなきゃ行けない人間の姿なのかと。

 人間である冬華を温かく受け入れ、看病してくれたこの集落の人々が、目の前で殺されていく。その姿に、冬華は瞼を閉じ、唇を噛み締める。唇が切れ血が滲む。どうすればいいのか考える冬華に、壁をすり抜けセルフィーユが告げる。


『と、冬華様! た、大変ですっ! ……とう…か……さま?』


 目を伏せ震える冬華に、思わずセルフィーユの言葉が途切れる。冬華の放つ雰囲気に、黙らずにはいられなかった。

 息を呑むセルフィーユに、冬華は静かに瞼を開き聞く。


「セルフィーユ。私は、一体誰と戦わなきゃいけないの?」

『えっ? そ、それは……ま、魔族と……』


 あまりの迫力に後半小声で聞き取りにくくなっていたが、冬華にはその声が聞き取れたのか、呼吸を僅かに乱し、その目に涙を溜めセルフィーユを見据える。


「それじゃあ……この集落に住む魔族の人達と私は戦わなきゃいけないの? 私には出来ない! とてもじゃないけど、悪い人達には見えなかったし、人間の私にだって優しくしてくれた人達と戦うなんて……」


 涙ながらに訴える冬華に、セルフィーユは困惑する。セルフィーユ自身も、どうしたらいいのか分からずにいたのだ。今、この集落を襲う人間達の殺気を全く感じる事が出来ず、あまつさえ冬華のこの訴え、何をどうすればいいのか分からなかった。

 冬華の言葉に答える事が出来ず、沈黙が部屋を包む。その間も外から聞こえる悲鳴、爆音、人間達の激しい声。


「いいぞ! やれ!」

「一人残らず狩るぞ!」


 様々な声が聞こえ、冬華はゆっくりとセルフィーユに背を向けた。


『と、冬華様! ど、どうする気ですか!』


 部屋を出ようとする冬華を止めようと、セルフィーユは素早くドアの方へと回り込む。


「退いて。セルフィーユ」


 ドアの前に立ちふさがるセルフィーユに、冬華は静かにそう告げる。強い眼差しをセルフィーユに向け、セルフィーユも強い眼差しを冬華へと返す。


『ここは通せません! 幾ら冬華様のお願いでも!』


 強い口調で言い放つセルフィーユに、冬華は静かに息を吐き、ドアノブへと手を伸ばす。その手はセルフィーユの体をすり抜け確りとドアノブを掴みドアは軋みながら開かれた。


『と、冬華様!』

「ごめん。セルフィーユ。私は英雄なんかじゃないんだよ。人間の敵だって言われてる魔族の人達を助けたいって思ってる。だから……」


 冬華がセルフィーユの体をすり抜けながらそう告げる。その言葉に、セルフィーユは俯き首を振る。


『いえ……。冬華様は、まさしく英雄と呼ばれるお人です……。一部の人に都合の良い様な人は英雄と呼ばれる資格はありません。種族を問わず救いだすのが英雄と呼ばれる人なのですから……』

「ありがとう……セルフィーユ」


 静かに礼を言う。だが、すぐにセルフィーユが言葉を続ける。


『でも、やっぱり冬華様を行かせるわけにはいきません!』

「な、何でよ! わ、分かってくれたんじゃないの!」


 振り返り怒鳴る冬華の視線に、セルフィーユの顔が映る。目に涙を浮かべ瞳を潤ませるセルフィーユの顔が。どれだけ自分の事を思っているのか、分かる。

 それでも、冬華は拳を握ると唇を噛み締め俯く。


「ごめん……私……」

『私は、冬華様を無駄死にさせたくありません!』

「セルフィーユ……気持ちは嬉しいけど……私、守りたいの。だから――ッ!」


 冬華がそう叫んだ時だった。唐突に激しい頭痛が冬華を襲う。頭が割れる様な激痛に冬華は右手で頭を押さえ、表情を歪める。突然蹲った冬華に、セルフィーユは慌てて駆け寄る。


『と、冬華様! ど、どうしたんですか! 冬――』


 セルフィーユの声が途切れ、冬華の頭の中にキーンと言う大きな音が響き渡り、やがて小さな女性の声が聞こえてくる。


(わた……声……こえ……すか?)


 掠れ掠れで僅かに聞こえた声に、冬華は奥歯を噛み締め痛みに耐えながら問う。


「だ、れ?」

『えっ? な、なんですか? 誰かいるんですか?』


 冬華の声にセルフィーユは驚いた様に顔を上げ周囲を見回す。しかし、誰もいない。それもそのはず、その声が聞こえるのは冬華の頭の中なのだから。


(……た……ちか……えま……)

「な、何? 一体……」


 頭の中に聞こえる掠れ掠れの声に、冬華は表情を歪め聞き返す。蹲る冬華は不意に顔を上げる。眩い光りが視界に入ったからだ。顔を上げると、その視線の先に机に置かれた氷河石が輝いているのが映る。その輝きにセルフィーユも気付く。


『な、なな、なんですかっ!』

「わ、分からないけど……きっと……」


 頭を襲う激痛に耐え、冬華は立ち上がり氷河石へと歩み寄る。氷河石に近付くと、掠れ掠れの雑音雑じりだった声が鮮明に聞こえてくる。


(私の声が聞こえますか? あなたに力を与えます。私に触れ思い描いて。あなたが貫くその意志を)

「私の思い描く私の意志……」


 机の前に立つ。目の前で輝く氷河石に左手を伸ばす。


『と、冬華様! あ、危ないですよ!』


 セルフィーユが冬華の周りを飛び回りながらそう叫ぶ。それでも、冬華はゆっくりと左手を氷河石へと下ろす。中指の先が冷たい氷河石の表面に触れ、薬指、人差し指と触れる。ひんやりと冷たいその外壁が手が触れると崩れ、更に眩い輝きが部屋一帯を包み込む。

 その光りは外まで漏れ、集落に襲撃してきた人間の目にも触れた。


「何だ? あの光りは?」

「まさか! 何かの術式でもやってんじゃねぇだろうな!」

「だったら、まずはあっちから片付けるぞ!」


 数十人の武装した男が、冬華のいる家を囲う。体格の良い者、魔術の心得を持つ者、重火器を持つ者複数の男達が、窓から溢れる眩い輝きを見据える。


「おい……アイツを使った方がいいんじゃないか?」

「いや。ここらで手柄をあげるべきだろ」

「そうだな。全員で掛かれば何とかなる」


 男達は頷きあうと武器を構える。術士は気を練り、重火器を持つ者はその銃口を窓へと向ける。体格の良い者は各々武器を構えると、その武器へと力を込める。


「フレアバースト!」

「ソニックウェーブ!」

「雷砲! 発射!」


 男達の声が重なり、一斉に放たれる。炎が――。風が――。雷が――。ただ一つの家を襲う。激しい爆音が周囲に轟き、激しい爆風がその場に居た男達を吹き飛ばし、木々をなぎ払う。家は原形無く炎と黒煙に包まれ、空からは火の着いた木の破片が降り注いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ