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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
221/300

第221話 帰還者

 真っ白防音の壁に、つるつるの床。

 そして、規則正しく並ぶ何台もの薄型ディスプレイのパソコン。

 間違いなくここは情報処理室で、冬華は戻ってきたのだ。元の世界に。

 鼓動は早まり、呼吸は乱れる。

 本当に、戻ってきたのだ。

 そう思うだけで、嬉しくて涙が出そうになった。

 開かれた戸の向こうから、そんな冬華を見据える男はゆっくりと情報処理室へと入ると、右手で黒縁の眼鏡を持ち上げ、深く息を吐いた。

 歳は二十代前半ほどに見える若さ溢れる顔立ちの男は、黒髪の襟足を右手で軽く掻きながら、ホワイトボードの前へと立つ。

 やや釣り目がちな目が冬華へと向けられ、キリッとした眉を僅かにピクリと動かす。

 安堵し、喜びを堪える冬華は、そんな彼へと顔を向け、目を細めた。

 正直、彼の事を冬華は知らない。

 と、言うよりもゲートに行ってどれ程の時間が経過したのかがまず気になった。

 学校はどうなっているのか、親はどうしたのか、様々な疑問が頭の中に巡る中で、男は横長の机へと手を着き、前のめりになり答える。


「とりあえず、無事、帰還。おめでとう」


 男の声に冬華は眉間へとシワを寄せた。

 何かその言葉に棘がある様に感じたのだ。

 そんな冬華に、男は静かに息を吐き出し、脱力する。

 それから、顔を少し上げ天井を見据えると、瞼を閉じた。

 彼が何をしているのか分からないが、冬華は疑念を抱く。

 まず、冬華が居た時、この学校に彼のような先生は居なかった。故に、彼が先生である事はありえない。

 じゃあ、一体何者で、何故ここにいるのか、そう考えていた。

 疑念を抱く冬華へと、男は深々と息を吐き出すと瞼を開き、真っ直ぐにみすえ、答える。


「まず、キミの抱いている疑念に答えようか」


 机に手を着いたままそう答える男は、小さく喉を鳴らした。


「俺は、黒金陣。この学校の卒業生だ。と、言っても五年前の話だが」

「ご、五年前……そ、それで、どうして、卒業生のあなたが……」


 思わずそう尋ねる冬華に、陣は静かに頷きゆっくりと歩き出す。


「どうして、と聞かれると、答えに困るな」


 机の前へと移動した陣は、足をクロスさせ机へともたれた。


「今日、ここに来たのは、偶然ではないって事は確かだ」


 何処か大人びた話し方をする陣に対し、冬華は一層疑いの眼差しを向ける。

 冬華の眼差しに、この日初めて陣が笑う。


「まぁ、話は最後まで聞け。俺は、お前と同じ帰還者だ」

「えっ! じゃ、じゃあ、あなたは――」

「ああ。お前らの前に俺達はあの世界に行った。と、言うよりも、元々あの世界を作ったのは俺達だ」


 陣は腕を組みそう答えた。

 その言葉に、冬華は不快そうな眼差しを向ける。


「ど、どう言う事ですか? あの世界……ゲートを作ったって?」

「あーぁ……。語弊を招いたな。あの世界観を作ったのが、俺達だ。キミ達があの世界に行くキッカケになったゲームを知ってるだろ?」

「えっ? わ、ワールドオブレジェンド……ですか?」


 冬華はゲートに行く前に見たゲームの事を思い出し、そう答えた。

 それに対し、小さく頷く陣は、もの悲しげな表情を浮かべる。


「あのゲームこそ、俺達が作ったモノだ。まぁ、作ったって言っても、俺とアイツはただのバグチェック専門だったけどな」


 俯きクスリと静かに笑った陣へと、冬華は呟く。


「俺達って事は、他にも誰か居たんですか?」

「ああ。俺と、当時生徒会長だった幼馴染の白崎雪奈と、親友の結城誠の三人で作ったゲームだ」


 遠い目でそんな事を語る陣に、冬華は更に尋ねる。


「でも、ゲームなんてそんなに簡単に作れるものなんですか?」


 当然の冬華の疑問に、陣は深く息を吐き、もたれていた机から離れ、一歩、二歩と足を進める。


「まぁ、簡単……ではないな」

「じゃ、じゃあ、どうやって――」

「普通の人にはな」


 陣は冬華の声を遮り、そう言うと、腰へと手をあてる。


「さっきも言ったが、俺はバグチェックで、プログラム等は、誠が一人で作り上げた。正直言って、アイツは天才だったよ。こう言う事に関しては」

「じゃあ、あのゲームはその人が一人で?」

「ああ。俺はバグチェックをしながら意見を出し、雪奈がストーリーを考えながらバグチェックって感じだった」


 右足へと体重を掛け、小さく首を傾げる陣の瞳は何処か儚げだった。

 正直、冬華は驚きを隠せない。

 アレは、ゲームと言うにはリアルすぎる。いや、実際、冬華の手には残っている。あの時、ケイトを殺した時の感触が。

 だから、どうしても今まで全ての事がゲームだったとは思えなかった。

 やや俯き加減で考える冬華に、鼻から息を吐く陣は目を細める。


「すでに経験していると思うが、元々、あのゲームは仮想現実世界として、自分の意識を取り込み参加するゲームになる予定だった。だが、開発は打ち切られた」

「えっ! で、でも、実際に、あのゲームは起動してた!」

「そう。五年も前に開発が打ち切られたゲームが起動した。だから、俺は開発場所だったこの場所に来たんだ。まさか、こんな事が起きるとは、思ってなかったけどな……」


 眉間へとシワを寄せ唇を噛み締める陣は、握った拳を震わせていた。

 何故、開発が打ち切られたのか、そして、どうしてこんな事が起きたのか、冬華が聞きたい事は沢山ある。

 そして、陣はそんな冬華の不安げな眼差しに気付き、深く息を吐く。


「聞きたい事は分かる。まぁ、無関係なキミ達が何故、あのゲームにログイン出来たのか、何故、起動したのかは分かっていないんだ。すまないな」


 陣のその言葉に冬華は何かが引っかかった。

 いや、この言葉が最初ではない。ずっと、彼の言葉には何かが引っかかっていた。

 一体、何が引っかかるのか、冬華は今までの陣の発言を思い出す。

 そして、その引っかかりの原因を見つける。


“お前らの前――”

“キミ達があの世界に――”

“無関係なキミ達が――”


 と、言う複数形の言葉。

 その言葉に、冬華は思い出す。もう一人、ゲートにいた異世界から来たと言う少年の事を。


「そ、そう! も、もう一人! もう一人居るんです! あのげ、ゲームの中に!」

「ああ。分かってる。まぁ、正確にはあと二人だけどな……」


 顔をしかめる陣は唇を噛んだ。

 その陣の言葉に、冬華は「えっ?」と声をあげる。

 あの少年の他にまだ誰かが異世界に、そう考えていると、陣は静かに告げる。


「まぁ、キミが無事に帰還してきたのは、喜ばしい事だよ」


と、陣は何処か悲しげに微笑した。

 まだ何かを色々と隠しているような印象の陣に、冬華は疑念を抱いた眼差しを向ける。

 だが、陣は変わらぬ表情で息を吐いた。


「色々と聞きたい事はあるだろうけど、今日はとりあえず家に帰って両親を安心させると良い。君らは約一月程行方不明になってるからね」

「え、えぇっ! ひ、一月も!」

「ああ。一応、学校の交換留学に選ばれたって事にしてあるから、話は合わせてくれ。それから、彼の両親にも――」


 陣のその言葉に、冬華は不思議そうに首を傾げる。


「か、彼? え、えっと……誰の事ですか?」


 冬華のその発言に陣は表情をしかめる。そして、右手で頭を抱えると、小さく息を吐き、


「い、いや。何でもない。とりあえず、今日は帰れ。もし、聞きたい事があるなら、ここに来い」


と、陣は一枚の名刺を冬華へと渡した。

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