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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ルーガス大陸編
218/300

第218話 分断

 空を彩る無数の隕石。

 それが、地上へと降り注ぐ。

 轟々しい地響きと爆音が轟き、隕石は地面を抉り炎をまとった破片を周囲へと飛び散らせる。

 その炎により、森の木々に火が引火し、森は火の海となっていた。

 地面は抉れ、深く陥没し、どれ程の衝撃がそこに加わったのかがよく分かった。

 衝撃によって舞い上がった土煙はうねりを上げ、周囲一帯を包み込む。


「な、何事だ!」


 一人の幹部クラスの男が声を上げる。


「恐らく、敵襲です! 魔族による攻撃だと思われます!」


 幹部クラスの男の声に、若い男がそう返答した。

 と、言うより、そう返答するしかなかった。

 何が起こったのか、そこに居る誰もが分からなかった。

 ただ、気づいた時には空に無数の隕石が現れ、それが、地上に降り注いでいた。

 身構えることも、迎え撃つ事も出来ず、ただただその衝撃と地響きに呑まれていった。


「くっそっ! 先手を打たれたか!」


 そう声を上げたのは非加盟連合の総指揮を執るライオネットだった。

 眉間にシワを寄せ、長い髪を右へ左へと揺らしながら、ライオネットは指示を送る。


「各隊、被害状況を確認しつつ、前進! 右翼! 左翼共に中央を迂回し、森を突き進み敵拠点を叩け!」


 ライオネットの怒号が飛ぶが、それを遮るような悲鳴、叫びがこだましていた。

 降り注いできた隕石の小さいモノが、隊列を組む連合軍を分断するようにそのど真ん中に落ち、被害は甚大だった。

 そして、その被害を受けた中に、冬華達の姿もあった。丁度、冬華達が位置する場所にその小さな隕石は落ちてきたのだ。

 小さな隕石だったが、その衝撃は凄まじく、陥没した地面には多くの者の遺体が転がっていた。

 隕石に押し潰された者達だった。

 衝撃で吹き飛んだクリスとジェスは、すぐに体を起こすと周囲を見回した。


「冬華!」


 クリスが声を上げる。だが、そこに冬華の姿はなかった。

 一方でジェスも、周囲を見回した後に声を上げる。


「冬華! クリス!」


と。だが、ジェスの周囲に冬華とクリスの姿はなかった。

 この時、三人は完全に分断されていた。もちろん、コレが、意図して行ったものなのかは定かではないが、上手い具合に右翼側にクリス、左翼側にジェス。そして、冬華は最も危険ともいえる正面中央側に倒れていた。

 それは、最悪なケースとなった。

 何故なら、前衛中央部隊には、この連合軍を冬華の代わりに指揮するライオネットがいるからだ。

 そして、正面から魔族と戦う事になる場所でもあった。

 まさかの状況に右翼側のクリスは顔をしかめ、唇を噛み締める。

 そんな折だ、兵達の悲鳴が上がった。


「うわああっ!」

「な、何だ! ぐあああっ!」


 次々と上がる悲鳴に、クリスは長刀を構えた。紅蓮流に代々伝わる長刀・烈火だ。

 それを構え、クリスは辺りを見回す。

 幸いな事に散った炎が森を焼いた為、周囲は明るく見通しはよかった。

 そんな視界の中、ユラリと大きな影が動いた。

 それが何なのか、分からないが、何か禍々しい気配を感じ、クリスは腰をやや落とした。


(な、何だアレは……)


 警戒心を強めるクリスは、息を呑む。

 何故なら、その大きな影は一つではなく、複数あった。魔族なのか、と言う疑問を抱くが、それを考えている暇はない。

 目の前にいる数百と言う軍勢がその影が動くたびに悲鳴をあげ、なぎ払われ、倒れていく。

 そして、その内の一つが、クリスの方へと赤い眼光を向け、動き出す。


(来るッ!)


 そう確信したクリスだったが、直後一発の銃声が轟き、その影の体が左へと弾かれた。

 それに遅れ、紺の短い髪を逆立てた小麦色の肌をした男が、跳躍しその影に対し大剣を振り下ろした。

 鈍い嫌な音が響き、黒い影は血を噴出し倒れた。

 目を凝らすクリスは、その男の姿を真っ直ぐに見据えた後、声を上げる。


「ご、剛鎧! な、何で、お前が!」


 驚愕するクリスに対し、振り下ろした大剣を静かに持ち上げた剛鎧は、幼さ残る顔を向け不快そうに眉を潜める。


「クリス……。お前が居るって事は、やっぱり、あの文書は事実って事か……」


 低くやけに刺々しい剛鎧の声に、クリスは違和感を感じた。

 まるで、コチラに対して不満がある様に取れたのだ。

 そんな時、ゆっくりとした足取りで、一人の妖艶に着物を着崩した女性が、リボルバー式の銃を片手にその場にやってきた。


「どうやら、ホンマに英雄さんが指揮をとってはるんやね」


 訛りの利いた女性の声に、クリスは訝しげな表情を向ける。

 こうして、対面するのは恐らく初めてだが、クリスは彼女の事を知っていた。

 彼女はリックバード島の領主に仕え、軍の隊長を任されている程の能力を持つ雪夜と言う名の女性だ。

 魔導式の特殊な銃を使いこなし、その銃の腕前は恐らくこの世界でも屈指の実力者だろう。

 そんな雪夜の姿に、クリスは更に違和感を強める。


「何で、お前達が居るんだ? クレリンスは中立国のはずじゃないか?」


 クリスのその発言に、剛鎧は不快そうに奥歯を噛み締める。

 すると、その剛鎧の怒りを示すように、雪夜は銃口をクリスへと向けた。


「ようも、そないな事が言えたもんやな」

「何のマネだ?」


 銃口を向けられたクリスは、眉間にシワを寄せ、鋭い眼差しを雪夜へと向ける。

 険悪な空気が漂い、緊張感が高まる。

 両者共に、いつでも動ける様に身構えていた。

 そんな中、剛鎧は振り上げた大剣を、横たわる影へと突き刺し、目を伏せる。


「俺達は、呼び出されたんだよ」

「呼び出された? 誰にだ?」

「英雄――白雪冬華。こう言えば分かるか?」


 静かに瞼は開かれ、鋭く殺気の篭った眼差しがクリスへと向けられる。

 そして、その言葉にクリスも鋭い眼差しを剛鎧と雪夜へと向けた。


「何の冗談だ? 冬華が、何故、中立国のお前達に――いや、今の状態の冬華が、そんな事をするわけがないだろ」


 クリスがそう言うが、雪夜は疑いの眼差しを向け長い水色の髪を揺らす。


「そんな事するわけがない? じゃあ、ウチらに送られてきた文書は何や?」

「そんな事、私が知るか! 第一に、今、冬華は戦える状態じゃない。それに、私達がここに来たのも偶然だ」


 クリスのその答えに、剛鎧は一瞬疑いの眼差しを向けたが、すぐに深く息を吐き肩の力を抜いた。

 何となくだが、この状況と指揮をとるライオネットの姿から、色々とおかしいと思っていた。

 その剛鎧の疑問はクリスの発言で一気に解消されたのだ。


「そうか……。じゃあ、本当に冬華がこの戦を仕組んだわけじゃないんだな?」

「当たり前だ! 第一、何故、冬華がそんな事をする必要があるって言うんだ!」

「どう言う事やの? 確かに、文書には――」

「文書なんて、幾らでも偽造出来るだろ? 多分、兄貴もそう考えてたんだろうな」


 剛鎧はそう言い左手で頭を抱えた。

 ここに行く際に、天童に言われたのだ。


“恐らく、冬華は利用されているだけだ”


と。

 だからこそ、クリスの言葉ですぐに理解することが出来た。


「それで、その冬華は何処に行ったんだ?」

「それが……」


 クリスは剛鎧に現状を報告した。



 クリスが剛鎧へと現状報告をしている最中――。

 冬華の居る中央でも、戦闘が開始されていた。


「戦況を報告しろ!」


 ライオネットの怒号が響き、


「敵襲です! 数は一! 単騎特攻!」


と、若い兵が声を上げた。

 それに遅れ、赤黒い炎が二つ、赤い炎の明かりと闇を裂くように右へ、左へと動き、次々と兵をなぎ払っていた。

 一人その場に佇む冬華は、迫り来るその赤黒い炎に、不安を過ぎらせ、胸の前で手を組んだ。

 何故か、胸がざわめく。

 どうすればいいのか、考える冬華が出したのは、自分も戦わなければならない、と言う事だった。

 だが、槍を呼び出そうと握った手は震える。

 戦おうと思った矢先だった。恐怖が――その手に残る感触が――また、蘇ったのだ。

 そして、冬華は堅く瞼を閉じた。恐怖から逃れる為に――。

 そんな冬華の闇を裂くように、その声は響く。


「――冬華!」


 自らの名を呼ぶ、一つの声――。

 聞き覚えはある。遠い昔――だが、思い出そうとすると、激しく頭が痛んだ。

 その為、冬華は堅く瞼を閉じたまま、両手で頭を抱える。

 しかし、そんな冬華の視界を――闇を――払うように、それは冬華を包み込んだ。

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