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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ルーガス大陸編
217/300

第217話 竜王の息子

 冬華達が上陸の準備をしている頃、アオはレオナ、ライと共に、ティオを送り届ける為、空間転移で北の大陸フィンクへと移動していた。

 眩い光の後、四人の体は雪原へと投げ出される。

 漂う冷たい風に、アオは身を震わせながら瞼を開いた。

 だが、その瞬間に目を疑う。

 そこに広がっていたのは、抉られた地面と真っ白な雪を赤く染める血痕の数々だった。

 何がそこであったのか、そう考えるアオの耳に、僅かな声が聞こえた。


「やっと……来た……か……」


と、言う弱々しい男の声。

 その声の主を探す様にアオは周囲を見回す。そして、すぐにその声の主を発見した。

 無数の傷を体に負い、血まみれのその男は、グランダース王国竜王の息子であるグラドだった。


「グラド兄さん!」


 ティオが声をあげ、グラドの方へと、一歩、二歩と歩みを進める。

 だが、その刹那、もう一つの声がその場を凍り付かせた。


「何故、貴様らがここに居る?」


 静かだが、威圧的なその声に、その場に居た皆の動きが止まった。

 アオは自分の鼓動が速くなるのを感じる。同じくライも自分の呼吸の乱れを感じ、右手で胸を押さえた。

 そして、レオナは瞳孔を開き、その者を真っ直ぐに見据える。

 漆黒の長い髪を揺らし、耳の付け根から強靭な黒い角を覗かせるその男は、両腕に鱗模様を浮かべ、赤い瞳を真っ直ぐにティオへと向けていた。

 その声に振り返るティオは、その者の姿に、息を呑む。


「が、ガガリス……兄さん……」


 そこに佇んでいたのは、現・グランダース王国の国王にして、ティオの兄であるガガリスだった。

 グラドとガガリスに挟まれる形になり、アオは奥歯を噛み、瞬間的にガガリスの方へと体を向け剣を抜いた。

 そして、ライもナイフを抜き、ガガリスを睨んだ。

 反射的に二人はガガリスが敵だと認識し、そう行動したのだ。

 二人の行動にガガリスは不快そうな表情を浮かべる。


「何のマネだ?」


 低く威圧的なガガリスの声に、アオとライは全身の毛を逆立てる。それ程、恐怖を感じていた。

 肌を刺す様なその空気に、アオは咄嗟にその体に雷撃をまとう。雷火を瞬間的に使用したのだ。

 そうしなければ、ガガリスの動きに反応できないと直感的に感じ取ったのだ。

 青雷をまとうアオの姿に、ガガリスは一層不快そうな眼差しを向ける。

 そして、ティオはもう一度息を呑み込み、ガガリスへと尋ねる。


「ど、どうして……ガガリス兄さんが……」

「お前には関係ない。それよりも、俺の邪魔をするな」


 両腕に鱗模様を浮かび上がらせるガガリスはその指先を龍の鉤爪へと変化させ、鋭く強靭な三本の爪を腰の位置へと構える。

 黒く光沢良く輝くその三本の爪に、アオもライも身構え息を呑む。

 意識を集中し、いつでも反応出来る様にしていた。もちろん、相手が動かなければ、コチラから仕掛ける事も頭に入れていた。

 その最中だった。グラドが動き出したのは。

 傷だらけの体の何処にそれ程の力を隠していたのか、雪原を疾走するグラドは槍を振り被り、薄らと口元へと笑みを浮かべる。


「――ッ! 退け!」


 その動きにいち早く反応するガガリスが動き出すと同時に、アオとライも動く。

 暫く仲がギスギスしていたアオとライだが、その動きは完璧に連動し、アオの蒼い閃光の後に、ライは抜いたナイフを素早く投げる。

 蒼い閃光がガガリスの視界を遮り、それによりライの投げた二本のナイフがガガリスの左右の肩へと突き刺さった。

 その瞬間にライは片膝を着き、両手を地面へと落とす。


「罪深き者、我が契約により拘束する! 茨の楔!」


 精神力を練りこんでおいたナイフが輝き、その柄頭から茨のツルが伸び、ガガリスの体を拘束する。

 だが、ガガリスはそれを強引に引き千切る。


「邪魔をするな!」


 鱗模様の浮かぶ腕に僅かな血が滲む。両肩から流れ出た血と、茨の棘により負った血だった。

 ナイフが二本だけだった為、拘束力が弱かったのだろうが、それでよかった。

 一瞬、ほんの一瞬だけでよかったのだ。ガガリスの動きを止めるのは――。

 閃光と共にガガリスの背後に回ったアオは、横一線に剣を振るう。


(貰った!)


 完全に裏を取り、死角に入った。

 だが、何故かアオの胸の鼓動がざわめき、何かを訴えかける。

 一体、何を――と、アオの視線が僅か上がり、ガガリスの体越しに二人の男の姿を捉える。

 そして、その口は動く。


「ティオ!」


 アオの叫び声と同時に、グラドが叫ぶ。


「死ね!」


 右足を踏み込むと同時に、グラドは振り被った槍をティオへと向かった突き出した。

 グラドのまさかの行動に、振り返ったティオは反応など出来ない。

 そして、アオも振り抜く腕を止める事が出来ず、ライも振り返るだけで精一杯だった。

 だが、そんな中で唯一一人だけがその動きに反応する。

 鈍い肉を貫く音が広がり、鮮血が雪原を赤く染める様に散った。

 赤く染まった槍の切っ先は、ティオの胸の前で止まり、その先から点々と雪原に血を滴らせる。

 深々と突き刺さった槍の柄を、静かに鱗模様の浮かび上がった両腕が握り締めた。


「が、ガガリス兄さん!」


 思わずティオはその背に声を上げる。

 アオの刃を受け、槍の切っ先が突き出すガガリスの背には横一線に深く傷が刻まれ、血は激しく溢れ出していた。


「ゴフッ……」


 ガガリスの口から大量の血が吐き出され、その姿にその場に居る誰もが困惑していた。


「な、何で……アイツが、ティオを……」


 驚きの声を上げるライは、眉間にシワを寄せ、


「一体、何がどうなってるんだ……」


と、アオは身にまとった青雷を解いた。

 何故、グラドがティオを狙ったのか、何故、ガガリスがティオを庇ったのか、全く理解が出来ていなかった。

 そんな中、静かな笑い声が響く。


「くっ……くふっ……くふふふっ……」


 突然、響くその笑い声に、ティオは目を見開き、恐る恐る尋ねる。


「ど、どうして……笑っているんですか……グラド兄さん」


と。

 すると、グラドはガガリスのその傷を抉るように槍を動かし、やがてそれを引っこ抜いた。

 ガガリスの体はその勢いで前のめりに倒れ、深い傷口からは血が一気に溢れ出す。

 そして、そんなガガリスの体を、グラドは右足で踏み締める。


「くははははっ! いいザマだ! ガガリス! まさか、こうも上手く行くとは思わなんだ!」

「がはっ……うっ……」


 血を吐き、表情を歪めるガガリスは、体を起こそうとするが、グラドはそんなガガリスを地面へと踏み締める。

 グシャリと嫌な音が響き、鮮血が放射線状に広がる。

 その光景に、ティオは声を上げた。


「や、やめてください! グラド兄さん! 一体、ガガリス兄さんと何が――」

「お前には関係ない。人間の血の混じったお前には……な」


 おぞましい程の殺意の篭った赤い眼が、ティオへと向けられる。

 その眼に、ティオは息を呑み、後退りした。

 そして、アオとライ、レオナも、そんなグラドの発言に、寒気を感じた。その言葉は、まるで人間を憎んでいるかの様で、その静かな声は怒りを含んでいるように、感じたのだ。


「逃げ……ろ……」


 地面へと平伏し、血に塗れるガガリスの途切れ途切れの声がティオの耳に届く。

 その声に、グラドは不敵に笑い、更にその足に体重を掛ける。


「黙れ! 死に底無い。貴様に発言権など、もう無いんだよ!」


 明らかに今までと様子が違うグラドの態度に、アオは異変を感じ動く。


「ライ! レオナ!」


 アオの声に、ライはすぐに走り出し呆然と立ち尽くすティオを後ろへと引いた。

 それに遅れ、レオナの手を引くアオが、二人の下へと駆け、ライの肩に手を乗せると同時に精神力を一気に放出した。

 眩い輝きが周囲を包み込み、次の瞬間にはアオ達四人の姿と共に光りが消えた。


「空間転移……か。まぁいい……あの出来損ないなら、いつでも殺せる」


 グラドはそう言い、ガガリスの心臓へと向けて槍を振り下ろした。



 木の板を敷き詰めた長い長い洞窟を抜けると、空はもう真っ暗に染まっていた。

 ランプの明かりだけが辺りを照らす中、冬華は妙な不安を感じ、胸の前で手を組んだ。

 正直、この戦いには参加したくなかった。だが、ジェスが懇願した為、渋々と冬華は船を降りた。

 冬華の傍には、クリスとジェスの他に余計な兵は居ない。これは、ジェスがライオネットに提案した事だった。

 英雄は少数精鋭で機動力を重視した方が良い、と。大勢に囲まれ、大技を仕掛けられたら、英雄とは言え、一たまりも無いからだ、と、ジェスは説明し、ライオネットもそれを了承した。

 その為、アースやハーネスは船に残ってもらっていた。アースにはまだ、これほどの大きな戦いは早いだろうとジェスは考え、ハーネスに至ってはバレリアの件がある為、参加させるのは色々まずいだろうと思ったのだ。

 洞窟を抜けてすぐ、胸の前で手を組む冬華は、呟く。


「何か、変な感じがする……」


と。

 その声はとても小さく、すぐ傍に居たクリスだけがその声に訝しげな表情を浮かべた。


“どうかしたんですか?”


 そう、クリスが尋ねようとした矢先だった。森の木々の合間から僅かに見える城の方から、数発の破裂音が響いた。

 静寂漂う闇夜に響くその銃声は、とてもハッキリと耳まで届いた。


「何だ?」


 身構えるクリスが、そう呟き辺りを見回す。


「銃声? あの城の中からだ」


 怪訝そうにジェスは呟いた。

 城内で何かが起きている、と言う事を理解する。

 それにやや遅れ、強大な魔力の波動が一帯へと広がり、それは唐突に飛来する。

 紅蓮の炎に包まれた無数の隕石が、無差別に降り注いだ。

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