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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ルーガス大陸編
216/300

第216話 ホワイトスネーク

 激しく船が揺れる頃、冬華は船室でレオナに後ろから抱き締められていた。

 抱き締められていたと、言う表現は少々語弊があるだろうが、そうやってレオナは冬華をこの部屋から出ない様に拘束していた。

 これは、アオの指示だった。

 何かあった時、起こった際は、冬華を絶対にこの部屋から出すな、と。

 だから、レオナは常に冬華とともに居た。

 そして、この状況にいたる。

 突然の事に困惑する冬華は、目を丸くし硬直していた。

 何故、こんな状態になったのか、冬華には分かっていない。

 その為、頬を僅かに赤く染め、アワアワと唇を震わせる。


「あ、ああ、あの、わ、わわ、私、そ、そんな趣味は……」

「えっ? あっ! ち、違う! 違うわ! わ、私だってそう言う趣味じゃないから!」


 思わず手を離したレオナは、顔を赤くしそう声を上げた。

 ようやくレオナの腕から解放された冬華は右手で胸を押さえ、小さく息を吐いた。

 妙な空気が漂う中での沈黙。それが、一層空気を悪くし、言葉を発する機会を潰した。

 どうするべきか、と考える冬華。

 そして、レオナも同じく。

 そんな中だ。もう一度衝撃が船を襲い、大きく揺れる。


「な、何?」


 冬華が不安そうな顔を挙げ、天井を見上げる。衝撃が上からだと分かったのだ。

 何が起こっているのか分からず、困惑する冬華に、レオナは静かに口を開く。


「冬華は出て行っちゃダメよ!」

「えっ?」


 思わずそう口を開いた冬華が振り返る。

 そんな冬華にレオナは真剣な表情を向けていた。その瞳に不安を感じ取る冬華は俯き、唇を噛み締める。


「は、はい……分かってます」


 そう冬華は答えた。

 分かっているのだ。自分が行けば、また誰かが犠牲になるかもしれないと言う事が、また多くの人に迷惑を掛ける結果になると言う事が。

 それに、今の自分には何も出来ないと言う事を知っていた。

 押し黙る冬華に、レオナはゆっくりと歩み寄る。


「大丈夫よ。冬華は何も考えなくても」


と、レオナは冬華を抱き締めた。



 あの男が消え、数時間が過ぎ――。

 アオ達はすでにルーガス大陸の南の砂浜へと到着していた。

 そこには、多くの軍艦が停泊し、砂浜には大軍勢が整列していた。

 その中に、先程の男が居た。砂浜に平伏し、その胸には剣が突き立てられていた。

 そして、その男の前に佇む長い黒髪を揺らす男は、ジェスの船を確認すると、不敵に笑みを浮かべた。

 操舵室からその男の姿を確認したジェスは、眉間にシワを寄せる。


「アイツは……」


 不快そうにそう呟くジェスに、アオは渋い表情を浮かべた。


「何だ? 知っている奴なのか?」


 アオのその問いに、ジェスは小さく頷く。


「ああ。確か、連盟非加盟連合のまとめ役で、個人経営のギルドの中で、最も巨大なギルドのマスターだ。団員も数百万ほど居るらしい」

「それは、個人経営にしては大所帯だな。しかし、そんなに資金力があるのか?」

「さぁな。個人経営だ。裏で何をやっているか分かったもんじゃねぇよ」


 眉間にシワを寄せジェスはそう呟いた。

 ジェスも連盟に非加盟の小さなギルドを経営している為、ギルドの運営にどれ程の膨大な資金が掛かるのかよく分かっている。

 連盟から定期的に依頼が配布されるわけでもない為、安定した収入が確保できず、あれ程大きくするのは並大抵の努力では不可能だ。

 だが、あのギルドは十年で、個人経営ギルドのトップの大きさに成り上がった。その原動力になったのが、先程の長い黒髪の男だった。


「ホワイトスネーク」


 ジェスがそのギルドの名を呟くと、アオも眉間にシワを寄せた。

 そのギルド名には聞き覚えがあった。もちろん、それは悪い噂の方でだ。

 どんな依頼もこなすギルドらしく、イエロもその動向に目を光らせていた。


「ホワイトスネークか……まさかの大物だな」

「ああ。何となく、そんな気はしていたがな」


 腕を組み、ジェスは俯いた。

 非加盟連合が動いていると言う事から、ホワイトスネークが絡んでいるのはほぼ確定しているだろうと、ジェスは考えていた。

 当然だ。非加盟連合を動かせるギルドがあるとすれば、このギルド位だからだ。


「どうする?」


 アオが、ジェスに静かに尋ねる。

 すると、ジェスは顔をあげ、鼻から息を吐いた。


「とりあえず、何とかするさ。それよりも、連盟のお前達はティオを連れて、今すぐここを離れろ」

「ああ。分かった。冬華の事、任せるぞ?」

「分かってる。何があっても守ってやるさ」


 ジェスはそう言いアオの目を真っ直ぐに見据えた。

 そして、アオもそんなジェスの目を見据え、小さく頷く。


「それじゃあ、俺はライとレオナと一緒にティオを北の大陸へと連れて行く」

「何故、北の大陸へ?」

「イエロの情報でな、北でも大きな戦いが起こる前触れがあるそうだ」

「そうか……。じゃあ、お互い頑張ろう」


 ジェスはそう言うと右手を差し出す。

 すると、アオはその手を握り返し、「ああ」と静かに答えた。



 それから、程なくして、ジェスは甲板へと姿を見せる。

 そこにはアースとクリスが待ち構えていた。


「どうする気だ?」


 白銀の髪を頭の後ろで留めたクリスは、砂浜に仁王立ちする軍勢を率いる男を真っ直ぐに見据え尋ねる。

 クリスも王国に勤めている時に、何度か、その男とギルドの噂を耳にしていた。その為、ホワイトスネークと言うギルドをある程度は理解していた。


「アイツ、ホワイトスネークのギルドマスター、ライオネットだろ?」

「…………だな」


 短くそう答えたジェスは、右手で頭を掻いた。


「とりあえず、俺が一人で話す。お前達は待機していてくれ」


 ジェスの言葉に、アースは一歩前へと出るが、すぐに俯き拳を握った。

 先刻の船上での戦いで、手も足も出なかった事を思い出したのだ。

 クリスも一緒に行こうと、言おうとしたが言葉を呑んだ。このギルドはジェスがマスターだ。そのマスターの命令には従うべきだと、判断したのだ。

 船を降りたジェスは砂浜を歩み、長い黒髪を揺らすライオネットの前へと出る。

 ライオネットは胸に剣を突き刺した男を踏み締め、ジェスへと一歩歩み寄った。


「キミが、ギルドマスターかい?」

「ああ。そうだ」

「とりあえず、名前を聞いておこうか?」

「ジェスだ」


 ジェスがそう答えると、ライオネットは「クスッ」と口元を右手で覆い笑う。


「違うよ。君のギルドの名前だよ。英雄・冬華と一緒に旅をしているみたいだし、よっぽど有名なギルドなのだろ?」


 嫌味ったらしく笑みを浮かべるライオネットに、ジェスは鼻から息を吐いた。


「名前は無い」

「えっ? 何だって? 名前が無い? 名前も無いギルドのクセに、英雄さまに同行しているって言うのかい? 片腹痛いね。とりあえず、忠告だ。今すぐ、彼女をコチラに引き渡せ」


 唐突に声質が変わり、明らかにその目に殺意が滲む。

 だが、ジェスは変わらぬ表情で答える。


「断る」


と。

 その答えに、ライオネットは表情を引きつらせた。


「何だって? 名も無い弱小ギルドが、私に逆らうって言うのか?」


 ライオネットの発言に、ジェスは鋭い眼光を向ける。


「おい。勘違いするなよ。名前が無いのは、俺のギルドが盗賊ギルドだからだ。ワザワザ名前を出して、バカみたく大所帯を組んでいる無能な盗賊ギルドと一緒にされたくはないな」

「へぇー。盗賊ギルド……で、そのバカみたく大所帯を組んでいる無能な盗賊ギルドと言うのは、私のギルドの事を言っているのかい?」


 ライオネットは青筋を浮かべ、そう答え、横たわる男に突き刺さった剣を抜いた。

 しかし、ジェスは肩を竦め、


「そう聞こえたのか? 確か、お前のギルドは善良なる民の為のギルドのはずだろ? まさか、裏で盗賊の真似事でもしている……と、言うなら別の話だが?」


と、ライオネットを真っ直ぐに見据える。

 その言葉に、ライオネットは抜いた剣の血を払うと、小さく笑う。


「中々、面白い男だ。まぁいい。ならば、キミに冬華は任せる。だが、この戦には出てもらう。すでに、彼女の名前で集められた精鋭達だ。今更、彼女は戦えません、とは言えないだろ?」


 ライオネットが不敵に笑い、そう言うと、ジェスは渋い表情を浮かべる。

 最初から、このつもりだったのだろう、そう考えていた。そして、何故、ライオネットが冬果が、今戦えない事を知っているのか、疑念を抱いた。

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