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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ルーガス大陸編
215/300

第215話 侵入者

 激しい船の揺れに、操舵室に集められた五人も異変が起きたのだと気付く。

 すぐに操舵室を飛び出したのはライ。この揺れの直後に何かの強い反応を感じ取ったのだ。

 それは、アオもジェスも同じだったが、ライの様に素早く動き出す事は出来なかった。


「い、一体、何が起こった!」


 クリスがそう声を上げる。衝撃の原因が何なのかはわからないが、アオ達と同じく何か強い力を感じた。

 そして、ティオも――


「砲撃ではないようですが、もしかすると――」


と、表情を険しくする。

 ティオの考えに、アオ、ジェス、クリスも、表情を険しくした。

 まさか、船上に堂々と攻め込んでくるとは思ってもいなかった。

 と、言うよりも、どうやってこの船に乗り込んできたのか、それが問題だった。

 確かにこの海域には多くの軍艦が存在する。だが、敵が乗り込んでくる程接近していれば分かるが、今回はそんな様子は全くなかった。

 その為、船員達も戸惑い連絡事項が遅れていた。


「とりあえず、甲板に行くぞ!」


 アオが声を張ると、クリス・ティオも小さく頷く。

 だが、そんな中、冷めた眼差しを向けるジェスは、静かに口を開いた。


「ちょっと待て」

「何だ? こんな時に?」


 クリスが眉間にシワを寄せそう言うと、ジェスはアオへと顔を向ける。

 ジェスの見せた鋭い眼光に、アオは目を伏せ、唇を噛む。現在の状況と、今回の作戦指揮を持つであろう組織の事を考えた結果、一つの答えに行き着いたのだ。

 そんなアオへと、ジェスは告げる。


「今すぐ、ライを連れ戻せ」


と。

 その言葉に、アオは自らの体を発光させると、すぐにその場から消えた。

 空間転移だ。恐らく、今からライの後を追っても間に合わない。だから、アオは瞬時に空間転移を行ったのだ。

 再び、光が操舵室に広がると、ライが乱暴に床へと落ち、アオが静かに床に着地した。


「何しやがんだ!」


 すぐに立ち上がったライは、アオへと体を向け、その顔を睨み付けた。

 しかし、アオはライから視線を逸らすように顔を背け、静かに瞼を閉じる。

 わけが分からず、クリスとティオは、アオとジェスを真っ直ぐに見据える。


「どう言う事ですか?」


 落ち着いた口調でティオがそう尋ねると、ジェスは静かに立ち上がった。

 そして、アオ、ライ、ティオの順に顔を見据え、言い放つ。


「お前達三人は動くな」


 その言葉にライは激怒する。


「ふざけんな! んな事言ってる場合じゃねーだろ!」


 当然のライの怒りに、ジェスは鋭い眼光を向ける。


「良いから黙って俺の言う通りにしろ」


 威圧的なジェスのその一言に、ライは鼻筋へとシワを寄せる。

 そんなライでは話にならないだろうと、クリスがジェスへと尋ねる。


「どうして、この三人?」

「今回の作戦が、連盟非加盟連合の指揮下にあるからだ」


 ジェスがそう言うと、クリスは右の眉をピクリと動かした。


「なら、今回の襲撃は……」

「恐らく、非加盟連合の差し金だろう。英雄、冬華を奪う為にな」


 ジェスがそう述べると、クリスは唇を噛み締め、「くっ」と声を漏らした。

 そんなクリスに、ジェスは複雑そうな面持ちで、


「気持ちは分かるが、抑えろ」


と、静かに伝える。

 その言葉にクリスは息を呑み、瞼を閉じる。また、冬華を巻き込む事になるのか、と思うと胸は痛かった。

 一方で、ライは納得できないと声を上げる。


「んなの関係ねぇーだろ!」


 だが、そんなライに対し、ジェスは静かに答える。


「関係あるさ」

「んだと!」

「ここで、俺がお前ら連盟の奴らと組んでると知られてみろ、この先、冬華の事は誰が守る。それとも、このまま非加盟連合に冬華を奪われ、俺達はまた何も出来ずにいるつもりか?」


 ジェスの言葉に、ライは奥歯を噛み締める。

 そんな時だった。もう一度凄まじい衝撃音が響き、船が大きく揺れた。

 そして、ジェスは決断を迫る。


「どうする? 俺を信じて任せるか、何も考えずに突っ込んで冬華を奪われるか」


 ジェスの言葉にライは答えない。いや、もう答えは出ている。

 その為、拳を握り俯いた。

 その沈黙が答えだと悟り、ジェスはクリスへと目を向ける。


「行くぞ」

「あ、ああ……」


 戸惑いつつもクリスはそう答え、ジェスと共に甲板へと急いだ。



 甲板では、鉄の壁が凹み、そのすぐ傍にアースが片膝を着いていた。

 口角から血を流し、険しい表情を浮かべるアースは、奇妙な甲冑姿の男を真っ直ぐに見据える。

 重そうな甲冑姿だが、その動きは素早くアースの攻撃は全て受け止められ、反撃された。

 いや、受け止められたと言うよりも、何か不思議な力により吸い寄せられるようにアースの振り抜いた刃が甲冑を叩いた、と言う方が正しいのかも知れない。

 そんなアースと謎の男との戦いを見据えていたディーマットは、眉間にシワを寄せると静かに口にする。


「お前……まさか、改造人間か?」


 ディーマットの言葉に、その甲冑姿の男は不敵な笑みを浮かべる。

 それは、ディーマットの考えを肯定したと言う事だった。

 ディーマットがその事に気付いたのは、彼自身が改造された人間だったからだ。だから、その目に映る生体反応が明らかに異常なものだった。

 そんなディーマットへと男は体を向けると、肩を竦めた後に、口を開く。


「英雄、白雪冬華は何処だ?」

「な、なぜ……そんな事を聞くんだ……」


 片膝を着くアースが、腹部を左手で押さえそう尋ねる。

 すると、甲冑姿の男は、アースの方へと顔を向けた。


「お前達が知る必要は無い」


 その答えに、納得出来るわけも無く、膝を震わせ立ち上がるアースは、呼吸を乱しながら二本の剣を構える。

 そんなアースに、ディーマットは瞬時に声を上げる。


「止せ! お前ではコイツには勝てん」

「そんな事、やってみないと――」

「分かるさ。アイツは改造された人間だ。普通の人間ではない」


 アースの言葉を遮る様に、ディーマットがそう力強く言い放つ。

 ディーマットの言葉に、奥歯を噛むアースは、柄を握る手に力を込めた。

 直接手を合わせたから、アースも分かっている。この甲冑をした男がどれ程の強さなのか。

 それでも、ここで退きたくなかった。

 俯き唇を噛むアースは瞼を閉じ、覚悟を決める。

 そんな時だった。扉が開かれ、ジェスとクリスの二人が甲板へと飛び出したのは。

 飛び出すと同時に、ジェスは甲冑の男の右腕を剣を抜刀すると同時に切断し、続け様にクリスが右手に呼び出した一本の刀でその男の腹部を真一文字に切りつけた。

 火花と嫌な音を響かせ、甲冑が裂かれ、血が勢い良く噴出す。

 それでも、甲冑の男は倒れる事は無く、一歩、二歩と後退し、静かに二人を見据える。


「不意打ち……か?」

「先手必勝だ。と、言うか、人の船に乗り込んで油断しているテメェがわりぃー」


 剣を一振りし、刃に付着した血を払ったジェスは、それを鞘へと納めた。

 一方、刀を下段に構えるクリスは、眉間にシワを寄せその男を真っ直ぐに見据え、声を上げる。


「コイツ……痛みを感じていないのか?」

「さぁな。ただ、言えるのは、普通じゃねぇって事だ」


 肩を竦めたジェスがそう答えると、甲冑の男は肩を揺らし笑った。


「貴様ら……何をしているのか分かっているのか?」


 男の言葉に、ジェスは目を細め、鼻から息を吐き、


「分かってるさ。いきなり、人の船に乗り込んできた敵を斬り付けただけだ。それもと何か? それが、お前達のギルドでの挨拶なのか?」


 ジェスはそう言い、男の目を真っ直ぐに睨み付けた。

 その発言に、男はくっくっくっと笑い、その目を見開く。


「我らのギルドを敵に回すつもりか?」

「喧嘩なら買うが、いいのか? 英雄、冬華は、うちの船に乗っているんだ。コッチに下手に手を出すと、冬華の名前で集められた他のギルドや国を敵に回すことになるぞ」


 ジェスの発言に、甲冑の男は沈黙する。

 そう、現在、英雄冬華と言うカードを持っているのはジェス。相手がどれ程のギルドで、どれだけの戦力を持っているにしても、今下手に手を出せば、ここに集まった全ての軍を敵に回すことになるのだ。

 流石にそれだけは避けたいのか、甲冑の男は静かに息を吐き、


「今回は撤退する。改めてマスター自ら、貴様とは挨拶を交わす事になるだろう」


と、告げ、右手を輝かせそのまま姿を消した。

 空間転移のようだが、恐らくあの光り方からするに、ワープクリスタルを使ったのだろうと、ジェス達はすぐに気付いた。


「しかし……大丈夫か?」


 不安げな表情を見せるクリスに、ジェスは肩を竦める。


「さぁな。どうにかするさ」


 そう呟き、ジェスはアースの下へと足を進め、「大丈夫か?」と声を掛けた。

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